奈落の始まり
…今日は学校を休んで、円城寺本家に来た。
本当はこんな場所にきたくなどない
ただ、学園で音楽科が来期から始まる 楽器を持っていなければ購入しなければならないが、うちは音楽家の家系だったから、様々な楽器がまだ眠っている。
今日はヴァイオリンを取りに来ただけだ
三鷹市内にある、有名な芸能人や社長のような金持ちばかりが住む高級住宅街の中にある、西洋の洋館をイメージし作られたという一際大きな豪邸、それが円城寺家だ。正門を開けると、 とてつもなく広い色とりどりのな薔薇園が、人の背丈ほどの高さまで聳え立つ、迷路のように広がっている、当時は、訪問者が迷路のような薔薇道を通って楽しめるように、という意図で作られたらしいが、しかし長年放置されていたため、薔薇は全て枯れ、草木が生い茂り、薔薇の鶴は伸び放題で、その荒れ様はお世辞にも迷路とは言い難い。
やっとの思いで玄関にたどり着き、扉を開けた刹那、私はしばらく立ったまま放心状態になり動けなかった。
それだけ、目の前 の景色を現実と認識することができなかったのである。
それは、まるで人間とは思えない鬼か化け物が暴れた後かのような、あらゆるものがぐちゃぐちゃに壊され、目も当てられないほど酷い惨状だった。
1ヶ月前結衣と訪れたときはこんなことにはなっていなかった
一瞬、強盗かと思った。だが、とても人間の力ではなせないような破壊に私はすぐに悪魔結社が絡んでいることに気づく
靴箱は並外れた力がかかったのか数個に分裂し、付近の綺麗だったであろうステンドグラスは粉々に割られ、床や螺旋階段には一体何を巻いたのか、悪臭のする緑茶色の液体で水浸しになっている。特に酷いのは、天井から吊り下げられていたであろう豪華なシャンデリアは落下しそのガラスが四方に飛び散り付近は足の踏み場もない。
何とか足場を確保して入った部屋は、おそらく楽器のコレクション部屋だった 。大きなグランドピアノは横倒しになり、壁にかけられていた高価であっただろうヴァイオリンは全て床に落ち、壊され、床には大量の楽譜が散らばっている。
トロフィーやメダル、額縁に飾られた賞状の数々は全てことごとく落下し、相当丈夫であったはずの本物のトロフィーの多くは、無残に分裂し原型を留めていなかった。
その隣の部屋は、両親の寝室らしき部屋だったと思われる。入ってすぐの入口の床に、血痕のような赤黒いシミが、広がっている。既に血痕は乾いていたが、特有のむせかえるような鉄の臭いが充満していた、おそらくそれほど時間はたっていないものと考えられた。
さらに、箪笥の中の衣類はぐちゃぐちゃに散乱し、窓ガラスが無残に割られ、カーテンやソファは八つ裂きにされ、やぶれたベッドシーツからは中の羽毛が外に飛び出してしまっている。
何かを探していた、というよりは、誰かが戦っていたような痕跡に思える
……一体、何がー
震える手足をいきりたたせ、一つ一つ全ての部屋を確認した。
全ての部屋を探したが、手がかりは何もなし、これだけ破壊したのなら周囲や近隣に必ず気づかれそうな
ものだがそれも何か術を使ったのだろう。何のニュースにもなっていない。
そして、時間がそこだけ切り離されたかのように、2階だけは、何も荒らされていなかった。
ここに来てはいないのか?それならばこれは一体誰が?
悪魔、もしくは魔人、
ここで、魔人同士が戦っていた…?
一体なぜ?何のために、誰もいない廃墟で?
ヴァイオリンを取りに来ただけなのに、疑問ばかりが浮かんでは消えていく
…2hourago Sideheroin………………………………
公園のベンチに座ったまま、放心していたことに気づく。
それだけ、驚くべき事実だった
フィオナさんは、おそらく全てを知っている、それこそ、斗真さんよりも。
黄昏時、そろそろ寮に戻ろうと立ち上がったとき、近くの草むらから突如銃声のようなものが響いた。
私は最初まさかじゅうなどとは思わなかった
そして2度目に、私のすぐ真横の遊具を貫通した球を見て、私が狙われていることにようやく気づいた
パタパタと走るような靴音を響かせて建物のかげから現れたのは見知らぬ男性。
この時代にそぐわない袴のようなものを着た、髪の長い男性、
息を切らしてはぁはぁと肩で息をしている
私は突然のことにどうしていいか分からずその場を動けずにいた。
その男性も呆気に取られたように しばらく私を見ていたけれど、
「ここにいてはいけない!すぐに逃げるんだ!」
そう切羽詰まった表情で語尾を荒らげながら告げると私の肩を押してくる。
「え?ちょ...あなた、誰ですか?!」
わけも分からないまま、人並外れた強い力で腕を引っ張られ走り出す
その間もパンパンと乾いた銃声が背後で鳴り響く どうやら打っているのは別の人のようだ。それでも私は何が何だか分からず、
「クソっ 一般人の目につくー」
近くの通りまで来て、彼は引き返し、公園の前の豪邸佇む庭に入っていく
あ、この家はー
そう言いかけたけれど飲み込み、荒れ放題の草木の中をかき分けて、ひたすら走る
そのとき、再び爆発音があたりに響いた。
先程よりも近くで聞こえた。
「きゃぁっ」
彼は玄関ドアに手をかざし、扉を開け、入ろうとする
「え?あ、あの、勝手に入ってはー」
「早く!死にたいのか?!」
切羽詰まったような表情に私は何も言えずに跡を継いていくしかなかった
「おいおい、これで足止めしたつもりか~?
そこにリリアがいるのは分かってんだよ!」
?リリア...?
土足で玄関を上がり、家具の四角に私を隠し、彼は険しい赴きで襲撃者を睨んでいる
男性の声だった
「こっちに、」
かれは更に奥の部屋へ私を入れると、鍵を閉め何か私の周りに一瞬で現れた杖のようなもので魔法陣を描き始める
「僕が転送する、そのまま動かないで」
瞬く間に青白い光が私の周りに次々に現れ結界のように包み込んでいく
その間も怒号が轟いている。
「なんで、生贄を庇うんだ!ジョーカー!!」
今、ジョーカーといった?
ずっと、探していた人だ、目の前のこの人がー、髪色は黒くなっていたから分からなかった。でも写真で見た面影そっくりだった。
「待って!ジョーカー!!私、あなたに聞きたいことがー!」
彼は小言で何かの呪文を唱えたまま答えない。
「私はもう全て知っているの!!私がー ということ、
彼の呪文が途切れ視線が私を向く。
私はみるみる光に包まれて、どんどん彼の姿が薄れていく。
その刹那、光が弾けて真っ白になった。
あたりの景色が見え始め、あたりを見回す。ここは…
アトランティス教会の、中庭だった。
。
…………………Sideother………………………………
朝の祈りをすませて、寮に戻ろうと教会の外に出たとき、何か孤児院のある方向から、複数の誰かの喧騒が聞こえてきた。敷地内であることは確かだ。
「と、斗真様!お探しして、おりました」
「修道長、どうかしたのですか?」
額に汗を浮かべながら息を切らして走ってきた姿を見て一体何事かと驚く
「た、大変です!!孤児院の前の中庭で…
フィオナ修道女と、結衣さんが…言い合いになっていて…、」
「え!? 」
私は耳を疑った。
結衣が戻ってきたのか?という安心感は全くわかなかった。
「私たちでは止められなくて…ユナン神父も止めようとしていたのですが、全く歯が立たずという感じで、頼れる人はもう斗真様しか…」
一体何がどうなっているんだ?
近づくにつれて喧騒が大きくなっていく、
慌てて中庭に向かうと、今まで見たこともない恐ろしいほど狂気に満ちた瞳でフィオナを睨みつけながら、結衣は何かを叫びつづけていた。
言い合いというか、ほとんどこれは、一方的に責めているだけのように見えた。
「離して下さい!私は!斗真さんに、今すぐ確かめなければいけないんです!!」
「ダメよ!斗真には決して手を出さないで!!」
え?
聞こえてきたのは、状況にそぐわない、理解し難い言葉だった。
2人は私を見ると、時が止まったかのようにあたりは静まりかえった。息を飲み、近づく。
「結衣…私に、話があるのでしょう?」
何故か背筋が凍るように冷たく、寒気がした。
「この、メモ帳...私が、初めて斗真さんの家に招待されたときに、拾ったんです。」
「………」
「勝手に中を見てごめんなさい、でも、どうしても確かめたいことがあります」
恐ろしい剣幕で睨まれ、逃げる隙すら与えなかっ
もう、逃げ場など、どこにもなかった。