31
ぼんやり外を見やりながら、渡り廊下に差し掛かった私だが、かけられた声に顔を上げれば少し先にはサークさん。
「こんにちは、オーウェルの同僚さん。」
時折見かける彼とはこうして挨拶を交わすが、それだけだ。穏やかな声で──とはいっても笑顔のひとつもない淡々としたものではあるが──交わされるこのやりとりを、私はそれなりに気に入っている。彼の方はどう思っているのだろうか。
姿勢よく進んで行く背の高いサークさんの後ろ姿を見送った。
相変わらずの生活。ガラス越しに飛び立つ竜の影、雲の隙間からしゅるりと降りて塀の向こうへ消える姿を眺める。やはり、そこに私の求める淡い色はなかった。
エリュカミラ殿下──リュカとは、ライドン先生のお話を聞く場でしか顔を合わせることがなくなっている。もとより、王女殿下と毎日一緒にお茶を楽しめるとは思っていないが、滞在中でいらっしゃった海の向こうの国の方々が自国へお帰りになるようで、最後の時間のおもてなしに忙しいんだとか。
~・~・~・~・~・~
雨の多かった時期を忘れてしまうくらい暖かく晴れた日が続いて、リュカお気に入りの『東の庭』が新しい季節の花を咲かせ始めた頃、リュカの使いでフレザさんが私を迎えにやってきた。
待ち合わせは『東の庭』の東屋。昼過ぎの柔らかな陽の差す時間。
「リナリア!」
東の庭には黄色の、小振りではあるけれど気品のある花が見える。私をみつけて笑顔で控えめに手を振ったリュカは──私の知らない女の子たちとテーブルを囲んでいた。
「紹介するわ、新しく『学友』になったリナリア=ハースよ!建国史を一緒にやってるの。」
リュカの隣の席に着くなり、そう紹介されて──緊張ぎみの私をよそに──東の庭のお茶会は始まった。
優雅に紅茶を飲み、菓子をつまむお嬢様方4人はみなさんエリュカミラ殿下の『学友』らしい。
ブロンズレッドの髪と目、はっきりとした顔立ちで弁の立つ人がトフカ伯爵家のレーナ=トフカさん。
アッシュグレーの髪にアメジストの目、好奇心を滲ませた表情で小さな身体をよく動かすのがフレース伯爵家のジュリエ=フレースさん。
白に近い金髪に水色の目、朗らかな笑みをずっと浮かべているのがレーン子爵家のフィーネ=レーンさん。
黒髪にモスグレイの目、とても大人しい人で淡々とした口調なのがシズィラ侯爵家のイオ=シズィラさん。
レーナさんは私よりひとつ上の16歳、ジュリエさんとフィーネさんが私と同じ年で、イオさんはリュカと同じ14歳だった。
トフカ、フレース、レーン、シズィラ。どの家も『ディリアの10柱』と呼ばれる古い貴族である。私はリュカと建国史を習い始めたけれど、4人のお嬢様方はどんなことを学ぶ『学友』なんだろう。
突然人が増えましたね!




