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第六話「朝の小修羅場と天の御使い」

毒霧の洗礼を受けたようだが、

サドラス一行の夜の宴はもう少しだけ続きそう…


お待たせいたしました。

今回もお楽しみいただければ幸いです。

<<フィールド:ヴァナヘイム地方 現在地:ルーンテール神帝国・冒険者の宿>>


 <憩いの湯宿~ヴュッティ・ザ・ベスト~>


 やっぱり看板に何か引っかかりを覚えるサドラスではあったが。


「はい、ようこそいらっしゃいました」

「一泊したい…10人ほどなんだが」


 サドラスの後ろには寝ぼけ眼の女三人。まだまだ元気そうな

「C†B†E」酔っ払い男二人に女二人。両隣は素面(当たり前だろ!)未成年二人。


「はい、少々お待ちください…………はい、お待たせいたしました。

現在大部屋の空きはございませんが、お客様のご人数が宿泊可能な少人数部屋の

空でしたら最大は四人部屋から空いております」

「じゃあ…一、二、三、四人部屋を一室ずつ頼みたい」

「はい、かしこまりました…すぐお泊りですか?」

「そこの寝ぼけている三人組は直ぐだな。残りも直ぐに―

「二次会の場所どうするよぉ?」(厳蔵)

「ヲトコならBARに行くに決まってんにゃろー!?」(注:スイゲツ)

「おk~おk~チェックインしたらレッツゴ~♪」(しえりゃん)

「ええ、お付き合いいたしますわ…貴女達も、宜しいですわね?」(注:アリカ)

「キュー子…これは、覚悟が…必要」(ハンドレッド

「ええ、そうでしょうね…こうも捕まえられていては…

というか私の愛称キュー子で決定ですか…」(キュクル)

 ―は、無理だな。つまりはそういうことだ」


 サドラスは台帳に名前を書こうとしてうっかり本名の佐渡終さわたりしゅうと書きそうになったが、

どうにか酒の勢いを押さえ込んだ。


「はい、承りました…ちなみに当方では料金は前払い制なのですが」

「…値段を言ってくれ」

「はい、失礼いたしました。お客様は…男 性 二 名 、 女 性 八 名 

ですので…はい、本日は聖人キャンペーン中ですので…お一人様35000YDのところを

28000YDとさせて頂きます…はい、それでは合計280000YDになります。

ちなみに琥珀大金貨二枚と琥珀小金貨八枚でございます」


 酒の力+微妙に受付の「はい」の多さに若干イラッとしたが、どうにか理性で封殺し

料金を支払うサドラス。料金を払ってからスイゲツが

女性としてカウントされていたことに気付いたが…もういいやと諦めた。


「はい、本日は当方にご宿泊いただき、誠にありがとうございます…はい、

それでは三人部屋のご用意が出来ましたらお声をお掛けします…はいーぃ…」

「………ッ!」


 サドラスは聞こえるか聞こえないかの微妙な舌打ちをした。


………。


……。


…。


「ふわぁぁあぁぁ…ふみまへんサドラスしゃん…お先におやすみしまふ…」

「ZZZZZZZ…ぬぅ…我が君ぃ…もっとぉ…」

「寝言は…寝て…言ってましタ…」


 ふらふらとした足取りで異世界三人娘は部屋に入る。


「おやすみ…後、カギはちゃんと掛けろよ」


…。


「っしゃあー! 元気な七人の侍はあぁ! 二次会ですよぉー!」

「いぇ~い♪」

「いぇーいですわー!」

「っしゃーこんにゃーろー! ヲトコの実力うぉー見せてやんにゃー!」

「キュー子…助けて」

「さっき覚悟が必要って言ったのモモちゃんだよね?!」

「………夜は長そうだ」


 元々人見知りな百は兎も角、キュクルが歳相応の素と思われる言動になっているので

そろそろ酔っ払いどもに一当てして絡みヘイト値と絡みターゲッティングを

自分に集中させねばと思うサドラスだった…。



<<フィールド:ヴァナヘイム地方 現在地:ルーンテール神帝国・冒険者の宿>>


………。


……。


…。


 ありふれた小鳥のさえずりに目を覚ますサドラス。


「………朝、か」


 頭痛こそしないが、身体がいつもより鈍重だと感じるせいか、

どうにも起きる気力が湧かない。


「確か…昨日は…」


 結局あの後二次会、三次会…には流石にアリカとしえりゃんの酔いが少し醒めたので

どうにかそれで打ち切り、「五次会まで余裕じゃあぁ!」などと抜かしていた厳蔵を

ぶん殴って簀巻きにして宿屋に戻ったサドラス一行。


「一人部屋で眠りたかった…」


 そのつもりで借りた一人部屋に、真っ青な顔をしたスイゲツが

「僕は…僕は上に乗られるより乗る方が良いんにゃー!!」とか叫びながら

閉じこもってしまったので、仕方なくサドラスが簀巻きの厳蔵を連れて

二人部屋に入ろうとしたら、しえりゃんとアリカが

「そんな素敵シチュ…もといむさ苦しいシチュエーションは可哀想だから~」

「私達がもっと雁字搦めに封印しておきますから、サドラス様はそこの

震えるお姫様方をお願いいたしますわね~」とか言って

二人部屋に入ってしまったので、まあ、オール一人部屋くらいに

しなかった自分が悪いと結論付けて、実際サドラスに引っ付いて

全く離れそうもないガクブルな百とキュクルを連れて四人部屋に泊まる事となったのだ。

 ちなみになぜ二人の少女が震えているのかをサドラスは思い返そうともしなかった。

何故なら「アレは思い出してはイケナイ」と本能が告げていたからだ。


「………胃が少しムカムカするな…いや、アレだけ飲めばコレくらいは普通だ…」


 サドラスは視界を隣のベッドに移す。布団には人が二人分くらいの膨らみがある。


「まぁ、今日くらいは子ども扱いしてもあの二人は文句も言えんさ…」


 とはいえ朝なので隣の布団を引っ張りかけたその時、サドラスは

自分のすぐ両隣にも人二人分の膨らみがある事に気付く。


「チッ…」


 多分メドラとララリリルだろうと思い、後でじっくり料理してやるべく

まずは怖がりなお姫様二人を気持ち優しく起こしてやろうと

ベッドの布団を引っ張ったのだが、


「なん…だと…?」


 布団の中から出てきたのは枕二つと、二人の装備……そして、

下 着 以 外 の 服 全 て だった。


「靴下を…なぜ、脱がない…! いや、そうじゃない…! と言う事は…!?」


 恐る恐る自分のベッドの布団を捲ろうとしたその時――


「サドラスさーん…? 朝ですよー…?」


 声は遠慮がちでも容赦の無いロティのドアノック。


「ぬをぅッ!?」

「あ? サドラスさーん? 起きましたー? 二日酔いだったらごめんなさーい」


 驚いて愛刀の爪弾刹那ツマビキセツナを抜こうとしたつもりで

うっかり布団を引っ剥がしてしまう。

 布団の中にいた百はとんがり帽子とニーソックスな、案 の 定 下 着 一 枚 。

しかもしえりゃんに匹敵する将来楽しゲフンゲフン…けしからん二つの膨らみがある…!

 キュクルに至っては上は何も装着しておらず、

しかもガーターベルトなこれは も う ダ メ ぽ な 下 着 一 枚 だった。


「なっ…ッハ…ぜ…に…ッ!?」

「サドラスさーん? どうしたんですかー? も、もしかしてリバース…?

サドラスさーん!? 大丈夫ですかー?!」


 心臓が勢い良く跳ね、肺から空気が一気に抜ける…だがサドラスは叫び声だけは

どうにか押し殺せた。これがゲスなロリコンなら「神様愛してるキスしてやるよ!」

な展開かもしれないが、サドラスはゲスはゲスでもロリコンの気は殆ど無いので

皮肉にも冷静に未来を何通りか予想できた…無論最凶か最悪か最低又は最期な展開だが。


「落ち着け俺…落ち着くのだ…これは未だ嘗て無い激戦…勝利のカギを探せ…!

……?! しまった…カギ…!?」


 昨日自分がロティたちに言ったことを自分が実践していなかったのだ!

そもそもサドラスは自分の家がオートロックなことも拍車を掛けているかもしれないが…


「おぅ?! す、すまんロティ…! 今丁度玄関の手前が俺のゲ★で…

★ロで"どえらい事"になっている! そう、なっているから…今しばらく待てッ!

もう触るのも嫌なくらいの惨状だ! お前にそれを手伝わせるのも…えーアレだから…

と、とにかく俺を迎えに来るのは最期…最後にしろ! いいなッ!!」

「は、はいぃ!? わ、わかりましたぁ!」


 こんなことに戦闘スキル『絶対捕食者カルマラージャの覇気』を発動することになるなんて

サドラスはつい先日までは夢にも思っていなかった。

 が、サドラスは再びミスを犯した。


「うぅ…!? シュウ…?! …あ、シュウ! 良かった…!」

「ひっ…!? あ…! サドラスお兄ちゃんッ! お兄ちゃんが居たッ!」


 ロティがその覇気にてられるのなら、当然昨日ガクブルだった

二人も当然中てられる…大体ガクブルが後を引いたから

こんなハニー炉心融解メルトダウントラップに遭遇するのだ。

 というかキュクルがかなり退行しており、叫びながら抱きついてきたぞ!

そして何故か百が「む…」とか言って負けじと抱きついてきたぞ!

ど、どどどどどどどどどうするんだサドラス!? 


「ええい…おつけち…ぐぬぅ落ち付けッ…!」


 跳ね回る心臓こころを叱咤するつもりで静かだが強い口調で呟くサドラスに

そこは少女ではあるが一流の戦闘のプロである二人+αは冷静さを取り戻せた。

作者かみは言っている…「+αについて突っ込んではいけない!!」と…!!!)


「ん…ごめん。どうかしてた…すぅー、はぁー…

名前はハンドレッド…本名は九十九一夜つくもひとよ…愛称はモモ

ん。大丈夫、問題ない」

「よし、百はいいな…」

「モモで良い。私は、シュウの事を勝手に、シュウと呼んでいるから。

シュウも私の事は、モモと呼んで良い。いや、むしろ呼ぶべき」

「あ、えっと…その、私は…」

「お前は以前にフルネームを名乗っただろう…」


 サドラスは二人にとりあえず布団を渡してベッドの端に座りなおす。


「………ふぅ…」


 サドラスが一息ついたその瞬間―


「サドラスさん? 終りましたかー? …あれ、カギ開いてる…

サドラスさーん? 入りますよー?」


 声こそ遠慮があったが、ドアには遠慮が無いロティが入ってくる。


「いッ!? ちょ…待…ッ!」

「あ、良かった全部おわ…ったぁ…? …なーるほどぉ…そういう意味でぇ…?」


 止めようと叫んでも今さら遅かった。どうやらロティさんは口よりも少し早く

手が出るタイプなのだと学習できてー良かったーですねーサドラスさんー(棒)


「ロティ…大丈夫。シュウは決して乱暴を行っていない」

「あ、あの…モモちゃん…? 多分それ…火に油…だ…ね…えへへ…?」

「シュウぅ…? もしかしてぇ…それが話に聞いたサドラスさんの真名ぁ…?

へぇー…なるほどぉ…一夜でソコまでのぉ…へえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ…?」

「あ…う…これは…失言」

「もう、遅いと思う…」


 サドラスは無言で床に正座をしたッ…! 誰に何を言われたわけでもなくッ…!

自分からッ…! このような潔きおとこをッ…! 誰が裁けるというのだッ…!

否ッ…! 我らには裁けぬッ…! この漢を許せるかと言われればッ…!

私 は 一 向 に 構 わ ん ッ … ! ! ! そう応えるだけだッ…!


「……何か、仰りたいことがあれば、どうぞぉ…!」

「全ては悲しい事故だ。そして俺は二人をけがすような真似はしていない…!

だが、ロティに途轍もない誤解を与えた事は事実だ。故に、お前の罰を受けよう」

「……歯ぁ…食い縛って下さいぃ…!」


 食い―の部分でサドラスの脳天に般若の如き顔のロティの

術士用のワンドが叩き込まれ、サドラスの頭は床にめり込んだ。

見ていたキュクルは開いた口が塞がらない。百は目を逸らした。


「…ロティ…シュウは…」

「ええ。サドラスさんがそんな事をするはずがありません…

だってサドラスさんですよ? やろうと思えば力ずくで簡単ですからね」

「あ…良かった…サドラス殿のHPは殆ど減ってないですね」

「そりゃそうですよ…サドラスさんが私の全力攻撃程度で倒せるわけ無いですから」


 ふう、と一息つくロティたち。


「全く一つ屋根の下で男女が二人云々なんですから…

何が起こったっておかしくないんですよ…そういう意味ではあの時だって…え…?

あ…あの時…?!」


 ロティはシルドラント王国ホテルにおけるサドラスとの一泊の顛末(第三話参照)を

一幕、また一幕思い出し…そう時間が掛からぬうちに顔面から火を噴いた。


「あ…あわわ…!」

「ロティ殿? あの時とやらが如何したのですか?」

「ロティ。顔が真っ赤。二日酔い?」


 ロティは未だ布団を羽織っただけで下着姿な百とキュクル、

そして床に頭をめり込ませたままのサドラスを交互に見やる。


「もしも…もしもサドラスさんが…ひゃあああ…!」


 当時の己の無防備さからの「もしも」という展開が彼女の中で高速で廻っていく。

あの時はサドラスの超絶ステータス云々で色々と感覚が麻痺していたが…


「………俺とて、男だからな……次は、わからん」

「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!!」


 床にめり込んだままのサドラスの頭を声にならない叫びを上げつつ連続踏み付けスタンピングし、

勢いをそのままに今度は声を上げながら部屋を飛び出していくロティ。


「………ノーガードとはいえ、俺に1000以上のダメージを与えられるとは…

ロティ。成長したな」


 床に頭をめり込ませたままサドラスが何かをほざいている。


「シュウ。まず頭をそこから、引っこ抜くべき」

「っくしゅッ! ふぐ…モモ殿。私達もまず服を着ましょう」



<<フィールド:ヴァナヘイム地方 現在地:ルーンテール神帝国・冒険者の宿>>


 サドラスと百達が宿のロビーに辿り着くと、そこには

頭を抱えて唸っているスイゲツ、牛乳を一気飲みするしえりゃん。

眉間を押さえてぶつぶつ独り言を言っているアリカ。

二日酔い故にグロッキーなララリリルとメドラ。

目が合ったかと思うと凄まじい速度でそっぽを向くロティ。そして


「おう! お早う! 昨夜ゆうべはお楽しみだったブヘァ?!」


 出会い頭にサドラスに良いパンチを貰う厳蔵。ちなみに殴られる前から

厳蔵の両頬にはビンタ手形もみじが浮かんでいた。


「加減しろよバカ野朗…! おい五千ダメージ強喰らったぞ?!

死んだらどーする!?」

「お望みならあと12,3発くれてやろうか、次は本気で」

「いや、つーか何でそんなに怒ってんだよ? ん…おいサドラス…

お前さん…まさか昨夜はキュクルちゃんとモモちゃんと3パゥ?!」


 サドラスは厳蔵にアッパーカット。厳蔵のHPゲージが四分の一以下になり、

厳蔵はそのまま気絶した。


「KATUMIとやら…貴様は許さんぞ…!」


 何故サドラスがまだ顔も知らないKATUMIにこのような感情を向けたのか、

それは先日のKATUMIのホログラム演説云々で「よっしゃこうなりゃ飲み代を

KATUMIのヤローに請求してやろうぜ! と言うことで二次会GO!」

と酔っ払い共が言い出したからだ。



<<フィールド:ヴァナヘイム地方 現在地:ルーンテール神帝国・帝城前広場>>


 もしかするとと思い帝国ホテルに一度は向かったサドラス一行。

思惑通りKATUMIは帝国ホテルの聖級に宿泊していたらしいのだが、

帝城で昼の演説があるとのことで部屋を外していたため、

サドラス一行は帝城まで来たのだが…


「まぁ、ホテルの件でも分かっていた事なんだけどよぉ…」

「うわぁ凄い! 人だらけですね!」

「おー、こりゃすげ~ぜ~♪」

「まさに犇き合うとはこの事です…」

「つーか大木の演説如きに集まる連中多すぎだろうが…」

「ハンドレッド…僕から離れるな…って何でサドラスさんに引っ付くの?」

「シュウにくっついてる方が、落ち着く」

「………仕方ないな」

「ぐぬぬ…機甲人の小娘…! なんという羨ま…いや怪しからんことを…!」

「しかもマスターの真名を呼んでいる…だと…? 私だって…まだなのにィィィイ…!」


 広場の手前まで数多くの人々でごった返していた。神帝国の兵士達が必死に人垣を

形成して不用意な接近を何とか押さえ込むほどだ。


「創世神衆教の総本山っていうのは知ってたけど…701年の歳月の影響なのかな…

何だかバチカンの集会みたいだね」

「案外コンクラーヴェみたいなのもあったりするんじゃない?」

「あるかもね~…おぉ? 何か騒がしくなってきたかも~」


 しえりゃんが言うように、帝城から一気に歓声が上がる。

 PCメンバー達はそれぞれアイテムストレージからオペラグラスを出したり

「遠見」や「鷹の目」といった支援スキルで歓声の中心を見る。


「うーん…流石に顔まではハッキリ見えませんねぇ…」

「ふむ…あれが噂の天の御使いとやらか…。 !? …名前が??????表記…!

むむ…しかも半竜族…一筋縄ではいかぬ相手と言うことか…」

「私には名前がKATUMIと見えますネ…と言う事は四桁レベルだとしても

私よりは低い…ふふ…天の御使い恐れるに足らず」

「…スカウト系スキルをもっと取得しておけばよかったですね…」

 

 異世界メンバーはキュクル以外スキルなしの素で見えている事に少し驚くサドラス。


「………コホン。全帝国民の皆さん、お早うございます。

えー…私が皆さんの噂する天の御使い、KATUMIです。

日ごろから格別な奉仕をしてもらって、本当にありがとう。

ですが、本日は皆さんにお知らせしなければならないことがあります」


「あの野朗…俺らだって一応心配してやったのに…!」

「格別な奉仕ィ…? ほう、大木め…アタシらがバラバラになって

それなりにキツイ思いしてた時にあのメガネは贅沢三昧してたってことか…!」

「カっつん~…横にいるケモ耳メイドさんは何者かな~? しかも数多いぞ~?

久 し ぶ り に 地 獄 間 接 を 極 め て や ら ん と な ★」

「KATUMI…あの、外道」

「か…KATUMIさん…流石にフォローできない…」

「心配するな。お前らの怒り、俺が晴らしてやろう」


 サドラスは朝に思わず使用してしまった戦闘スキル「絶対捕食者の覇気」を

今度は意図的に発動させる。


「うおっ!?」

「これは…威圧スキル! 誰が一体…ってサドラス先輩?」

「な?! 何だコレ…!?」

「うひぇ~?!」

「うぅ…!? また…?!」

「こ、これは朝にも…!?」

「ひゃ…?!」

「マスター? 何をしたのでス…?」

「ぬほぉッ?! ああ…あああ……! コレは………良い!」


 高レベルの身内パーティにすらちょっとした動揺を与えることが出来るのならば

それ以下のレベルの相手や一般人には抜群の効果を発揮する。

 弱い者は失神し、そうでなくとも身体が動かず、声すら上げられない。

 そんな人ごみの中をサドラスは駆け抜けていく。狙いは勿論KATUMIだ。


「貴様が何を行いどんな経緯で格別な扱いを受けているのかは知らんが…

今朝の修羅場の報いとしてまずは一発ぶん殴らせろ…!」

「え?! ちょ、何がんゴパッ!?」


 サドラスの右ストレートは綺麗にKATUMIの顔面に叩き込まれた。



<<フィールド:ヴァナヘイム地方 現在地:ルーンテール神帝国・帝城来賓室>>


 サドラスのKATUMI殴打事件は危うく神帝国三元将や十二大神官、

機動僧兵といった神帝国精鋭主戦力が殺到する一大事になりかけたが、

KATUMIの鶴の一声と、サドラスがKATUMIに一発殴り終えてから

すぐさま完全生命薬を使用したこともあって、どうにか収束した。


「申し訳ない…実はダイレクトメールしようと思えば出来たんだが…

時間を作れなくて…というかもてなされ過ぎててすっかり忘れてたのだよ」


 「C†B†E」メンバーに深く頭を下げるKATUMI。


「だろうなぁ…あのケモ耳メイドさんズ見りゃあよ…随分お楽しみだったらしいな?」

「誓って言うが、手は出してないぞ……要所要所で迫られた事はあったが」

「爆発しろ似非ドイツ人」

「似非じゃない! 後自分はドイツ系日本人だからな!」

「だから似非なんだろうが、このヘンタイ民族ミックスが」

「お前それ日本人もヘンタイ民族って言ってること分かってんだろうな!?

っていうか殴られたうえに謝罪させられた挙句ボロクソ言われるのは

流石に酷くないか?! 単に連絡し忘れただけでこの仕打ちはあんまりだろ!?」

「KATUMIさん…殴られたのに関してはかくかくしかじかで…」


 スイゲツが昨夜から今朝にかけてサドラスの身に降りかかったトラブルを説明する。


「…まあ…気持ちは分かるが。でも自分が殴られるレベルじゃないと思うのだが…」

「+現実世界メンバーの怒りを上乗せした結果だ」

「今後付しただろ?! というかかなり洒落にならなかったぞ!?

自分は一応HP153万を越えているが…ノーガードとはいえ

パンチ一発で10万単位のダメージだったのだからな?!」

「マジか。アタシらだったら即死じゃん…凄いんだなサドラスって」

「ふふふ~ステータスを初めて見せてもらったときは、

私もついつい自分のキャラを忘れたくらいだもんね~」

「あれは、私も驚いた」

「ヤリコミのレベルが狂気の沙汰だぜあれは」

「サドラス先輩のステータスって、そんなに凄いステータスなんですか?」

「………気になるのならば今見ておけ」


―<ディティール・ステータス>―

フルネーム:サドラス

年齢:21

性別:男

種族:神人権現イローアヴァターラ<存在進化EX>

職業:魔神機殲士マギアンスレイター聖魔拳大帝アーマットカエサル復讐鬼大公タキシムデューク

段位【最大Lv】:6527 (限界突破OD)

生命【最大HP】:87923400 (限界突破OD)

魔動力【最大MP】:4654917 (限界突破UL)

闘気【最大SP】:72336245 (限界突破OD)

BURST ATTACKゲージ:9999%

基礎攻撃力【STR】:192785 (限界突破EX)

基礎耐久力【VIT】:82580 (限界突破S) 

基礎精神力【MAG】:134520 (限界突破EX)

基礎抵抗力【RES】:73275 (限界突破S)

基礎敏捷性【AGL】:537899 (限界突破UL)

総合運  【LUC】:7234  (限界突破)

ダメージ修正【ALT】:44851 (限界突破S)

属性耐性:火50 水50 風99 土80 雷80 光80 闇80 波動50 万能30

異常耐性:毒100 眠100 混100 痺100 凍75 石100 死100

所持金:862145322150994095300215YD

<<次のページ>>


「…ッ!! AGL…530000越え!? 僕の軽く三倍はある…!」

「すご…ってかSTR100000越えっていうかほぼ200000じゃん…!?

生身でこのステータスなら武器装備した日には…もうバケモノだろうが…!」

「や~、相変わらずインフレなステータスだね~」

「……自分も久しぶりに見たのだが…お前本当に唯の廃人プレイヤーなのか?」

「ヤリコミと課金8桁とダンジョン生活+デスマーチ(※ゲーム業界などでよく使われる

連続徹夜・終わりが見えない追い込み作業の俗語スラング)の成果だ」

「っていうかよぉ…属性耐性とか異常耐性が上がってね…?」

「教団での数日間に錬金術で生成した創世級ジェネシスビルドアイテムで強化しただけだ

素材には事欠かなかったからな」

「マジかよ………あん? っていうかKATUMI。お前さんはサドラスと

面識あったのかよ」

「ああ…運営側として彼には"PKKライセンス"とその権限を渡した経緯があるんだ」

「"PKKライセンス"ぅ!? 何処の0☆7だよ?!」

「彼はうちの会社の超お得意様でな…自分も最初は驚いたが、自社のネトゲを10年も

課金込みで遊び続けてくれたし、マナーの悪いプレイヤーや性質の悪いPK常習犯を

ちょくちょく説得なりこちら側に代わって赤BANPKKしてくれたりしたからな…

これからも自社ゲームを遊び続けてほしいからってことなのでな」

「他にもコンバート時に各種ステータスボーナスブレイクや

RMTに多少目を瞑ってくれたりなどもしてくれたな」

「本当はRMTは勘弁してほしかったが…先の経緯もあるし、お得意様集団でもある

攻略組ギルドとのつながりも無いわけじゃないのだよ」

「ソコまで来るとヤリコミ廃人プレイってのも捨てたモンじゃないな…ってオイ

サドラスお前さん…11歳から課金プレイしてたのかよ!?」

「本格的なのは中学を卒業してからだ」

「……なるほど、モモちゃんと気が合うわけだ…ピュアブリード廃人同士だもんな」

「ん。仲間、同類、最早兄妹、いっそ本当の家族になりたい」

「今朝の件の舌の根が乾かぬうちに誤解を招く発言をするな」

「は、犯罪ですよサドラスさん!? …まさか、やっぱり今朝…」

「ロティ殿。それは大丈夫ですから…(まぁ…それはそれで別に構わないですが…)」


 ここから話が小一時間ほど凄まじく脱線したので、申し訳ないが割愛する。


……。


…。


「で、話を戻すが…現実世界へ戻れるアテはあるのか?」

「結論から言わせて貰おう…今の所は無いのだよ」

「かぁー…使えねぇ…」

「先程も言ったとおりだが、フレンドリスト登録者同士での

ダイレクトメールのやり取りは出来るが、外部への連絡手段や

ログアウトそのものを司る"システム自体が存在しない"ようなのだよ」

「システム自体が存在しない…!? そんな事在り得るんですかKATUMIさん?!」

「現実問題、自分らのメニューにログアウトの項目が無い…

まるでデスゲーム時代のままだろう? 一度はログアウトボタンの復帰の瞬間さえ

目撃したことのある自分でさえ、わけがわからんと思ってるのだよ」

「カっつんが駄目ならこりゃお手上げだ~」

「下手すりゃこの世界で一生を終えるってことか…参ったね」

「……最悪、そうなるならそうなるで、私は構わない…

もうここは…唯のゲーム世界じゃないし」

「それは俺もモモに同感だな。

二度と向こうの食事が口に出来ないのは辛いかもしれんが、此処での生活は悪くない」

「そりゃお前さんらピュアブリード廃人二人は良いだろうがよ…」

「………できれば僕は帰りたいよ」


 サドラスと百を除いた現実世界メンバーは溜息をつく。

 ちなみに異世界メンバーは話の内容が殆ど理解できていないので、

どう会話に入ればいいのかも分からず困惑している。


「無論自分は諦めたわけじゃない。色々あってこの帝国で天の御使いなんて者に

なってしまったが、逆を言えばこの天の御使いという権威を使って

様々な情報を集めることが出来る…というか、そういう地盤固めをしていたのだがね」


 おもむろにサドラスが立ち上がる。


「俺も一応帰るつもりはあるからな。まあ、デスゲームを一年以上も経験したんだ

今さら二年目三年目に突入することになったところで如何と言う事はあるまい。

絶望してしまえばそれこそデスゲームに悲観して自殺した連中と同じだ」

「そうですね…サドラス先輩の言うとおりだ…僕らは最後まで諦めなかったから

GrTrAd世界を救うことだって出来た…!」

「ん。諦めるのは、最後の最後」

「ん~やるだけやりつくしてからだね~」

「確かに。こんなトコで終わりってのはアタシもハイ、ソウデスカって納得できない!」

「折角だから楽しんでやりゃあ良いんだよな! 昨日の飲み会みたいにな!!」


 現実世界メンバー達も各々立ち上がる。


「強くてニューゲームならぬニューワールドとでも思って、

頑張ってみるのもまた一興なのだよ!」


 KATUMIも立ち上がり、七人は手を合わせる。


「全く…妙な縁だな」

「そうですね…まさかこんなことになるなんて思ってませんでした」

「ん。不思議な縁」

「こいつぁ奇妙な縁とも言えんじゃね?」

「腐れ縁になるかもね~」

「いやもうデスゲーム時代から腐れ縁だろうが?」

「はっはっは! やはりお前らは一同に介すると面白いのだな!」


「生き抜こう。僕達にとって今はこの世界が現実だ」


 スイゲツのその言葉に各々が答え、合わされた手が解かれた。


「んでよサドラス。結局昨日は幾ら掛かったんだ?」

「三次会までで総額約838MYDだな」

「だとよKATUMI。支払いヨロシクな? 御使い様なら帝族さんにでも

頼み込めば払ってもらえるんだろ?」

「な、何だと?! 一体どれだけ飲んだんだ貴様ら?!」


第七話へ続く

次回の更新ではバトル成分が多くなると思います。

不定期更新ではありますが…

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