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第19話「空から来たりし白黒の天使、海から這い上がりし紫の廃人」

<<フィールド:ワーユ地方 現在地:聖セーベーエー合衆国・隷属種区画>>


新暦701年のアドヴェント大陸、ワーユ地方には一つの大国が存在する。

天地聖魔大戦時代の英雄チーム「C✝B✝Eクロスビギンズエトランゼ」のメインメンバーを救世主と崇める、

聖セーベーエー合衆国である。

この国を一言で説明すれば、大戦時代に彼らが敬愛する

「C✝B✝E」メンバーに敵対し剰え害しようとした超魔人王ディンケーオこと

【電界皇】側についた魔鋼人タゥフェルメタノイド族の子孫を700年以上経った現在も

奴隷以下の扱いをする少々行き過ぎた宗教国家だ。

電界皇が倒され、彼の恩恵でもあるロストスキル…

魔導換装+256「魔鋼兵装タゥフェルシュタルラスタング」の力を失った魔鋼人族は

終わりの見えない迫害に苦しめられていた。


生身の戦闘力は、PCが選択できる同祖の機甲人メタノイド族と大差が無い故に

隷属種とまでなじられ、奴隷…いや奴隷以下の扱いを受けていた。


「ひぎぃっ!?」


素肌に回路図のような特徴的な紋様が浮かぶ魔鋼人族の幼女に、

容赦なく硬質の鞭を入れる猪人オーク族の男。

幼女…頭上の名前は三十三…の素肌に浮かぶ紋様に

真っ赤で痛々しい紋様が次々と上書きされていく。


「ぼくの妹は…ッ! 三十三みつみはまだ関係無いだろう…ッ?!」


複数の憲兵風の格好をしたアンスロ族に強引に押さえつけられ、

三十三と容貌が似通う魔鋼人族の少年…頭上の名前は十八とうや…は、

ただ叫ぶことしかできない。


「いいや、関係あるんだよ。貴様らが魔鋼人であることそのものがなァ!」


人族の憲兵が現代世界のスマホに酷似した板を取り出す。

板の黒塗り部分から立体映像が映し出される。

内容からしてどうやら天地聖魔大戦時代の様子を何者かが録画した動画と

思われるが、如何せん画像が荒く続けざまに映し出された…

これまたどこぞのPCあたりがプリントスクリーンしたと思われる

SSスクショ。相変わらず画像が荒いが、辛うじて魔鋼人と思われる

容貌をした人物が、本来の彼らの力の象徴ともいえる魔鋼兵装で

魔鋼人以外の人族やPC冒険者エクスプローラー相手に暴虐の限りを尽くす姿が。


「ぼくだって生き証人である…うぐ?!

古人アルトマもいない…のに…! そんな曖昧な…!」

「ならばクソガキ! 貴様らの身の潔白を証明するものはあるのかァ?!」


ここがPC冒険者や超人エトランゼたちのいる神々の世界であるならば、

憲兵たちの突き出した証拠は不十分なものとして棄却できただろう。

だがここは神々の世界ではない。相手より少し上の暴力(大概はこれが主だが)と、

相手より少し信憑性のある証拠さえあれば、自らの正当性…

正義を証明できる現実の世界…”大いなる天地グルトラド”なのだ。


「異議も確固たる証拠も実力も無きときはァ…俺たちの正義が勝るのだァ!」


少年は殴られ、蹴られ、髪を乱暴に引っ張られ、HPゲージが尽きそうになる

その瞬間まで数も質も圧倒的な暴力に晒された。


「兄ちゃ…! トーヤ兄ちゃ…!」

「ああもう煩いなあこのメスガキぃ!」

「ひぎゃぁ!?」


兄である十八が目の前で、妹である三十三が眼前で

自らが犯したわけでも、自らの直系の先祖が犯したかどうかさえも

曖昧な物証と言いがかりを付けられて謂れ無き暴力の波に晒される。

晒されながら少年は思った「何故、ぼく等には力が戻らないのか…」と。

魔鋼人族はその全てが黙って謂れ無き圧力に虐げられているわけではない…


ある日、空から白黒びゃっこくの容貌を持つ天使…

と思われる謎の者達が現れた。彼? 彼女? 達は最も反骨心が高そうな

ある一人の魔鋼人族の青年を筆頭にした数人に、

かつて彼らの先祖が使える主たる電界皇が操った

世界の理ワールドシステムの力から齎された…失われたはずの魔鋼兵装を

与え、「来るべき時が来れば全員が嘗ての力に覚醒する」と言い、

彼らに反抗のいざないをしたのだ。喚起と狂気にむせび泣き喜んだ後

魔鋼人族の魔鋼人族による魔鋼人族のための国を作るため、

魔鋼兵装を取り戻した者達を集め、「憤怒超兵団ヴュートコープス」という組織を創設。

今までの分を倍返しするために一大反抗に乗り出した。


連戦連勝に湧く憤怒超兵団だが、その陰では覚醒しなかった者が

覚醒した者たちに手も足も出ないからと言って八つ当たりの如く

自分たちを暴力に晒す連中が振り上げる拳を見ながら…悪夢の終わりを願っていた。



<<フィールド:ワーユ地方 現在地:聖セーベーエー合衆国・近郊の海岸>>


鞭打ち傷だらけで泣きじゃくる魔鋼人の幼女…三十三みつみの手を

優しく引きながら、体中に無数の青痣を庇うこともしない少年…十八とうや

寄せては引く、引いては寄せる波を焦点の無い目で眺めていた。


「ぼく等が何をした…?」

「兄ちゃ…手ぇ、痛いよぅ」


三十三の手を優しく握り直し、もはやボロ切れでしかない妹の服の上に

まだそっちよりはいくらかはマシな自分のボロ服の上着をかけてやる。

ワーユ地方は南側ではあるが、地球のような南半球とかではないので

新暦月日に合わせた季節の影響を受ける。そのため潮風も刺すような冷たさだ。

十八の目は寄せては引く波をずっと見つめるばかりだ。



<<フィールド:外海 現在地:トライブ島東南海域>>


海面を300ノットは余裕で超える速度…しかも生身で走る紫色の人型がいる。

言わずもがなサドラスだ。


「サドラスさぁん! 飛行術スキルで普通に空飛んで行きましょうよぉ!?」

「シュウ。飛行術だって使えばちゃんとレベルが上がる。

でも水上走行というスキルは無い。勿体ない」

「…お前たちは水上走行のロマンを何だと…いや、やめておくか」


サドラスの後ろには前より二対くらい増えてる…?!

大天使かと見紛う様な十枚の輝く精霊の羽を煌めかせているロティと

機甲人らしく魔導換装「機甲兵装アーマードアーマメント」の空戦形態のハンドレッドが空を滑空してついて来る。

ちなみにロティの背中の羽が増えている理由は彼女がレベル1280を突破し

(サドラスに連れられて…え? デート? なにそれおいしいの?

な深層ダンジョン巡りをした結果)めでたく(?)EXの四半神霊クウォーターデウスに存在進化し、

3rdジョブにも何かを振り切ったのかサドラスの聖魔拳大帝アーマットカエサル

系譜である前衛拳闘職:聖魔拳士爵アーマットエクエスを取得したのだ。

服装も背中の羽を考慮してちょっと大胆に背中が開いた服をよく着るようになった。

サドラスはやはり爆発してしまえばいいのだ。


「天空を支配する大艦魔術士アルマディストの美少女とは私のこと…!」

「自分で”美”とかつけるんじゃない。痛々しいぞ」

「ノーコメントでいいですか?」

「…むぅ」


端から見たら異様な光景だ。

海面を沈むことなく300ノット(約600km/h)で

疾走する全身紫づくめの男を筆頭に、美しく輝く十枚の羽を煌めかせながら

その速度に普通について飛ぶ最早天使にしか見えない大錬金術師マグナルケミストの女性と、

同様に追尾している戦闘機:紫電が擬人化したような恰好をした

大艦魔術士の少女の3ショットだ。こんなものを見てしまったら

勇気を出して故郷の近海から遠洋漁業に来ていた漁師の皆さんが

帰港後に「ザドゥルオウス宗主教」とか「新約サッドラース神人教」なんて

怪しい宗教も信じてしまうのはどうしようもないんじゃないだろうか?


「ロマンもあるが、本音を言えばMP消費の貧乏性が抜けん」

「成程。MP自動回復スキルは私でもまだVしか取得してない」

体力ヒットポイント魔力マジックポイント闘気スキルポイントの自然治癒はいずれもⅠでさえロストスキル扱いですからねぇ」


この世界では自然治癒スキルは持っているだけでも素晴らしいスキルだ。

普通の自然治癒とは違って目の前で回復魔法も薬も使わずに

目に見えて傷やHPがジワジワと治って完治していくのだ。

最初は不気味だが、慣れればこのスキルの有難味はレイドモンスターや

実力さえあれば超法規的な事を押し通したりする連中だらけのこの世界で

どれほどに貴重で素晴らしいのかが良く分かる。


「ところで、アドヴェント大陸まで何をしに行くの?」

「サドラスさんが作っちゃった(と言っても過言ではない)サドラスアース神法国は

ヴァルナ地方ですよね? このまま真っ直ぐ進んじゃうと…

…確かアグニ地方じゃなかったですか?」

「アグニ地方…そこでは台湾、香港系の外国の超人エトランゼ

廃人マグナウス達の遺産ともいえる中華っぽい料理が食える

"チャイナっぽいタウン"が存在するとポータルBBSのログに

ご丁寧にスクリーンショット付きであった…そして俺は今、無性に中華が食いたい」

「ほんこん…たいわん…マイナーな中華神語チュングォインウェンの単語ですよね?」

「エビチリエビマヨ蟹玉蝦玉蝦炒飯フカヒレとアワビの姿煮…

田鶏デンチィの唐揚げツバメの巣北京ダック東坡肉トンポウロウ

小籠包と水餃子に焼売肉まん杏仁豆腐マンゴープリン…お腹すいた」

「モモ、料理名を羅列するな…余計に腹が減ってきたじゃないか」


サドラスの水面疾走が速度をさらに上昇させる。


「ちょ!? サドラスさん早いですってぇ!」

「シュウ。MAPに赤点が――」


百がそう伝える前にサドラスは海面に浮上してきた、ちょっと懐かしい気がする

船喰い(グリード)スライムを踏んづけてズルリと滑って盛大に転ぶようで転ばず、

本来進むべき方向とは見当違いの方向に縦回転しながら水切り石のように飛んで行った。


「あわぁ?! サドラスさぁあああああん!!」

「シュウ…! 二度も同じことはさせない…!」


ロティと百は全速力でサドラスが飛んで行った方向へ飛んでいく。

ちなみに船食いスライム達は百に一瞥され鼻で笑われた後に

機甲兵装の機関銃で見るも無残な残骸にされた。哀れである。



<<フィールド:ワーユ地方 現在地:聖セーベーエー合衆国・近郊の海岸>>


浜辺で寄せては引く波を見つめ続ける魔鋼人族の少年、

十八は妹の三十三の手を痛がらない程度に強く握った。


「兄ちゃ…? 何処行くの?」

「もしかしたら幸せになれるかもしれない所…」


いまいちよくわからないといった表情をする三十三の手を優しく引いて、

十八はゆっくり海に進んでいく。


「兄ちゃ…? 海は冷たいよ? 冷たい海は入っちゃダメだって母ちゃが言ってたよ?」

「……うん。言ってたよ」


十八と三十三の母はもういない。力を取り戻さなかった兄妹の母は

兄妹よりももっと酷い状況に晒されてこの世を去った。

父は父で憤怒超兵団どころか覚醒云々の前に言いがかりでそのまま処刑された。


生きていることの意味って何だろうかと、足首が海水に浸かった時に考えた。


「兄ちゃ…冷たいよ? 寒いよ? あがろ?」


どうしてぼく等がハッキリしないご先祖様たちのことで

酷い目に遭わされなきゃいけないのかと、膝が海水に浸かった時に考えた。


「兄ちゃ…! おぼれちゃうよ!!」


妹は巻き込むべきじゃないが、でも小さな妹が一人残っても

どうにもならないだろうなと、妹が首から下まで海水に浸かった時に考えた。


「兄ちゃ…! 兄ちゃ! 怖いよ…!」


考えるのが面倒になった。頬だけは熱い何かが伝った気がしたが

下半身が冷えはじまってきて殆ど気にならなくなってきた。


「そういえば…古の超人さん達って…生まれ変われたんだよな…

ぼくも三十三も…そうなったら…いいのにな」

「兄ちゃ! 離してぇ! 手ぇ離してぇ!」


十八は三十三を抱き上げる。必死に抵抗する妹を

すごく軽いなぁと思いながら海の深淵に向かって歩き出そうとして


「………おい、そこの兄妹。この辺に飯屋はあるか?」

「………」

「………」


海の深淵からぞぶりと歩き上がってきた

全身海藻イカタコエビ云々の海産物まみれの紫一色男に話しかけられて

思考が兄妹諸共にフリーズして、数秒後に兄妹は仲良く甲高い叫び声をあげた。


「「うわああああああああああああああああああああああああああああああ!!」」

「おい貴様ら。出会いがしらに叫び声をあげるんじゃない。失礼だオウフっ?!」


全身海藻イカタコエビ云々の海産物まみれの紫一色男ことサドラスは

水平線の彼方から飛んできた多属性の魔法攻撃とか

弾丸砲弾ロケット弾レーザー攻撃の雨あられに晒された。


次回に続く…

短っ…?! っていうかまた分割かよ何してんだ私ェ…!

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