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第三部 第四章 6 ツングースカさん

 ツングースカさんと三頭団・オルステッドさんの決闘を、明日へと控えた日の早朝。

 俺は彼女へ、その詳細を伝えるべく、朝食を携えて部屋を訪れた。


「ツングースカさん、起きてらっしゃいますか?」

「タイチか、入れ」


 どことなく、いつもより精悍さが欠けている。という印象を受ける返事が聞こえた。

 とにかくドアを開け、中へと入る――と!


「おはようございま……って!? こ、これは失礼しました!!」


 なんと! 今しがたお目覚めになられたのか、着替えの真っ最中!!

 いつ見てもかんっぺきな蒼いボデーラインに、美しいレースとシルクの白が映えるッッッ。そんな姿態を超バッチリ見てもーた!


「はは。今更何を恥ずかしがる?」


 しっかりと目に焼き付けて後。慌てて(のフリ)180度回頭する俺を、ツングースカさんは微笑みで迎えてくれた。


「あ、いえ。何度拝見させていただいても、その……美しさのあまり、つい照れてしまいますよ」


 ああ、何度あなたの下着姿やお風呂姿を思い出し、悶々とした夜を過ごしたことか……エロ盛りの青少年を何だと思ってるんですか!?


 という本心はひた隠し、一応紳士を気取りつつ配膳の支度。


「タイチ。すまんが着替えを手伝ってはくれまいか?」

「は!?」

「こちらに来てからは、いつもアメリアス副官殿が着替えの手伝いをしてくれていたのだが。今日はお前が朝食を持ってきてくれたのでな……なんだ、忙しいか?」

「あ、いえ! 不肖サトウタイチ、着替えのお手伝いをさせていただきますッ!!」


 なんという行幸!

 俺は、朝食を乗せたトレイをテーブルに置き、半裸のツングースカさんの元へと馳せ参じたのだった。


「すまんな。それ、そこのシャツを取ってくれ」

「は、ははい」


 ツングースカさんの甘いコロンの香りが、俺の鼻腔をくすぐる。

 プレミア席で見る、ツングースカさんの下着姿ぁ! いやいや、これはお仕事の一環なんだ。やましい目で見ちゃダメだ!

 などと自分に自制を強いる俺。だが、ドキのムネムネが止まんねぇ!


 ――と。


 近くで見る彼女の肉体は、少し前に見たそれよりも、さらに引き締まっている事に気が付いた。


「ツングースカさん。さらに肉体が強化されたようですね」

「わかるか?」

「ええ。強靭さとしなやかさが増しているように見て取れますよ」

「そうか。近衛師団第七部隊の隊長殿のお眼鏡に適って、恐縮の至りだな」


 少し茶化すように、ツングースカさんは笑って言う。


「だがな。いくら強くなったとしても、私は着替えも一人で満足に出来ない、ダメなヤツなのだ。いつもグーリンのばあ様に手伝ってもらっていたからな……些か甘やかされて育ってしまったようだ。タイやスカーフの結び方すら知らん」


 ツングースカさんは、少し自虐的な言葉を、力無い笑いで零す。


「だ、大丈夫ですよツングースカさん。そんな事、出来る奴に任せればいいんですよ」

「タイチは知っているのか? 正装の着こなし方や、タイやスカーフの結び方を」

「あ、いえ……あはは、いつもパンツとマントだけでうろついているものですから」

「そうだな。が、いかんぞ? 貴様は大魔王様に仕える近衛師団の部隊長なのだ。それなりの正装で、見栄えを良くしないとな」

「そ、そうですね」


 そういえばそうだった。

 今まで気にも留めていなかった事だけど、近衛師団なんて軍団は、一番偉い人に直接仕える集団なんだ。

 ツングースカさんみたく、カッチョイイ軍服で統一するべきだろう。

 いっちょレフトニアさんにでも、おねだりでもしてみるかな?


「で、第七部隊隊長殿。貴様がわざわざ朝食を運んで来たという事は、私に何か言うべき件があるのだろう?」

「はっ!? そ、そうでした……えー、ツングースカさんとオルステッドさ……天主の代行者たるロキシアの対決の日取りと時間、そして場所をお知らせいたします」

「うむ、聞こう」


 シャツに袖を通し、ボタンを掛けながら、ツングースカさんは言う。


「明日、正午を以って開催の運びとなりました」

「そうか、明日か」


 少々「気落ちした」という印象で、ツングースカさんは答える。


「そして会場は……」

「うむ、どこだ?」

「グレイキャッスル敷地内、場外晩餐の広場に設けられた特設会場。そして――大魔王様の御前」

「――ッ!?」


 俺の最後の一言に、ツングースカさんのボタンに掛けた手が止まる。

 そして、暫しの沈黙の後。


「御前試合、か」


 ツングースカさんの口元から、嬉しさとも、畏怖とも、怒りとも違う、重い一言が零れ落ちた。


「フン。教官殿はまたぞろ、私に宿題をお出しになったか」

「教官殿? 誰ですか、それ」

「ああ、ベイノール卿の事だ。かのお方は以前、戯れに士官学校の教官をなされていてな……私やレベトニーケ、ベクリミシュルは、かのお方から宿題と称して、散々しぼられたものだ」


 ツングースカさんは過去を思い出し、クスリと笑う。


「それと。御前試合には、見届け人として四大貴族と、大貴族の一部。そして元老院の出席が命じられたそうです」


 一瞬、ツングースカさんの眦がピクリと動く。

 それは、俺が今もたらしたどの知らせより、一等大きな「重大さ」があるのだと伺える挙動だった。


「フフ……ククク。そうか、ベイノール卿は……」

「な、なんです!? ツングースカさん」

「いやなに。流石は大魔王軍一の神算鬼謀の方だと思ってな」

「神算鬼謀? もしかして、この御前試合自体が、なにがしかのはかりごと……なんですか?」

「そうだ。表面上は『天主の代行者たるロキシアが、罷り間違って大魔王様に危害を加えそうになった場合。四大貴族や大貴族たちでもって止める』というものだろうが……それを口実に、貴奴らを御前で――」

「ど、どうするんですか!?」

「フフ、まぁ見ていろ。面白いもが見れるぞ、タイチ」


 やはり、というべきか。

 ベイノール卿は、ただの気まぐれや、大魔王様のお楽しみのために、御前試合を提案なさった訳じゃないんだ。


 でも、おそるべきは――


「よくベイノール卿の謀を看破なさいましたね、ツングースカさん」


 そう。時折見せる、ツングースカさんの「読み」。

 普段は、煩わしい事に一切興味を持たない、大雑把で一本気なオットコマエ気質なのに、事、仲間の感情の機微や謀には、鋭敏に反応する。

 まるでサイヴァールの心読み――いや、それ以上に「何か」を感知するセンサーを持っているかようだ。


「そうとなれば……こんな陰気な室内に籠っている場合じゃないな。少し体を動かして、調子を整えるか。タイチ、付き合え!」

「は、はい!」


 そう俺が返すと、ツングースカさんは満面の笑顔で一つ頷き、颯爽とドアへ向かうのだった。


 ……軍服の下も履かずに。



最後まで目を通していただき、まことにありがとうございました!

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