逃走
冬が終わりを告げ、桜の蕾が芽吹き出した頃ーー
鈴にこの上ない朗報が舞い込んできた。
今年は建国祭が開催される。
建国祭とは10年に一度盛大に行われる、お祭りのことだ。
建国祭のような大層なお祭りを開催しても、下級女官には関係ない。
祭を楽しんでおいで、と追い出される。
だがそれが、鈴にとっては千載一遇のチャンスだった。
建国祭の日は、普段固く閉ざされている都の門が全て解放されて、様々な国の人がやってくる。
上手に民に紛れ込んで都を抜け出せたら鈴の勝ちだ。
都で攫われた以上、どこの村の娘かもわからないだろう。
家へ帰れるという淡い期待を寄せながら鈴はこっそり準備を始めた。
ついに、建国祭当日を迎えた。
いつも通りに日の出前に起き、都を掃除する。
ただ一つだけ違うところは、ほんの少しだけ鈴の機嫌がよかった。
掃除が終われば、女官長にお小遣いをもらい、祭りが終わるまでは自由時間だ。見張もない。
少しだけ祭りを楽しんだ後、準備通りに服を着替えて、異国の人に紛れて都を去る。
計画通りなはず。
やっと都から出れる。喜びを噛み締めながら門から外へ踏み出そうとしたそのときだった。
「お前、女官だろう。」
ーーえ?
鈴は固まった。
心臓の鼓動がやけに早い。
ここで認めてしまえば処刑だろう。
そんなことしたら今までの計画が台無しだ。
「に、女官?そんなわけないじゃないですか。」
焦りがバレないように必死に繕った顔で武人に伝えたが、武人は何一つ表情を変えない。
どうやらこんな命乞いは、はじめから無駄だったようだ。




