二人だけの運命の赤い糸
小夏視点
あの後、私と純也先輩は、よりを戻したのかあやふやなまま離れ離れになった。
離れた間の一年間は、頻繁に取り合っていた連絡も、私の受験前の忙しさや純也先輩の仕事の忙しさで、いつしか徐々に連絡できる日が減っていった。
だが、毎年お互いの誕生日の日は特別で、お互いの時間を埋めるように長電話したりして、連絡は減っても心は繋がっていると安心していた。
そして今日、先輩と離れて四年目の夏。
私は二十歳の誕生日を迎えたが、何故か今日この日だけ、待っても待っても先輩からの連絡は一度も無かった。
「小夏〜! おめでとう!」
「私達より先に大人になったね〜!」
私の部屋に居るのは、高校を卒業して少し大人っぽくなった凛と美月。
私に向けて祝うはずだったクラッカーを机に置き忘れて、嬉しそうにパチパチと手を叩いている。
「ありがとう! 美月、凛!」
忘れ去られているクラッカー二つを手に取り、二人に向けて本来の役目を果たした。
「ーーわ! びっくりした〜」
「クラッカー持ってきてたの忘れてた!」
普段から抜けている二人に慣れている私でも、この出来事は可笑しくて腹を抱えて笑ってしまった。
高校を卒業しても私達の友情は変わらずに仲が良いまま。その事が私はとても嬉しい。
「はい! これ、プレゼント〜」
可愛い淡いピンクにラッピングされたプレゼントを受け取り目の前で丁寧に開けると、透明のリップの中に桜の花が綺麗に咲いていた。
「私の欲しかったリップ! 美月、ありがとう!」
「どうしたしまして〜!」
三人で遊びに行った時、このリップを見つけて立ち止まった事がある。欲しくて堪らなかったが、その時は手持ちが無く諦めたのだ。
覚えていてくれた事に感動していると、次は凛が元気よく手を挙げた。
「はいはーい! 私もプレゼントあるよ!」
「ーーあ、これって……」
白くて真四角の箱を渡され中を開けると、色とりどりのアイスのような丸い物が六個並んでいた。
「バスボム! 私も使ってるんだけど、今一番お気に入りのやつなの!」
初めてみた形のバスボムで一目で私は気に入ってしまった。
「可愛いー! ありがとう、凛!」
照れたような笑顔を見せた凛は、美月と一瞬顔を合わせ私に向かって片目をパチリとウィンクした。
「ーーでもね、まだプレゼントは終わってないよー!」
「え? どういうこと?」
ーーピンポーン
凛に尋ねた途端、待ってたかのように家のチャイムが鳴り、美月は座っていた私の手を引いた。
「来た来た! ちょっと大きいから小夏も手伝って〜!」
「う、うん」
よく分からないまま大人しく手を引かれ玄関の方へと向かうと、目の前に居た凛が私の後ろへと周り背中を軽く押した。
「ほら、ドア開けてみて」
凛に言われるがままゆっくりと扉を開けると、四年前より大人な男性になっていた、私が待ち焦がれていた人が四年前と変わらない笑顔で立っていた。
「帰ってきたよ! 小夏」
「ーーな、なんで……」
まさか私の目の前に現れるなんて思ってもみず、目を見開いたまま彼から目が離せなかった。
「驚いてくれるかなって思っーーわっ」
なんでと聞いた私に照れながらも答えてくれた純也先輩を見て、私は磁石のように飛び込んだ。
「ーー会いたかった…!」
高校生だった時とは違う大人な香水の香りがほんの少し感じた。でも、別人だなんて思うことは無く背中に回した手を一層強くした。
「……おれも。小夏に会いたくて仕方なかった」
私の頭と背中を優しく抱きしめ、さっきとは違う明るい声が少し低く聞こえた。
「連絡ぐらい……連絡ぐらいして下さいよ…」
今日は私の誕生日だというのに、一度も無かった先輩からの連絡。不安だった気持ちが蘇るが、この時の為だと思うと強く責めることも出来ず、行き場のない気持ちを弱々しく伝えると、私の頭に乗っていた手がフワッと動いた。
「ごめんね?」
顔を上げ先輩の顔を見ると、眉を下げて笑っていた。
そういえば、高校生だった先輩はよく困った顔をしていたななんて懐かしんでいると、気配を消していた凛と美月が会話に入ってきた。
「私達が計画したんだよ! だから、前堂先輩には帰ってくる事口止めしてたの」
「とびっきりのサプライズしたくて〜」
会話に入ってきたことで、二人が居たことを思い出し慌てて先輩から離れ二人の顔を見ると、満面の笑みだった。サプライズが大成功して嬉しいのだろう。
「…ってことは、また純也先輩とは明日でお別れですか?」
今日の為だけに帰ってきただけだと勘違いしてしまった私は、上がった心が沈んでいく。
どんどん暗い顔をしていく私を見た先輩は、首を振った。
「もう海外には行かないよ。おれ、父さんにやっと認められたんだ」
「じゃ、じゃあ…ずっと、先輩と一緒に居られるんですね?」
ちゃんと勘違いしないよう、確かめるように聞くと、先輩は笑顔で頷いた。
「四年間、待っててくれてありがとう。小夏」
「ーーそっか…もう…待たなくても良いんですね…」
四年間、先輩に会えない事が辛かった。
でも、父に認められるよう必死に頑張っている先輩を知っている私は辛いなんて言えず、ずっと我慢をしていた。
会えない期間はもう終わりだと思うと心の底から安心し、一粒の涙がスーッと頬を撫でた。
「ただいま。小夏」
「ーーお帰りなさい、先輩!」
私達は誓った。もう先輩としか繋がっていない右手の赤い糸がこれからの私達を証明するだろう。
そして、左手にあった赤い糸は消え、私達を永遠に結ぶ新たなシルバーのリングが誓うだろう。
最後までお読み頂き有難うございます!!
最終話ではありますが、番外編として、純也の父と十郎の物語を連載します。
小夏と純也のストーリーはここで終わりです!
最後までお付き合い頂き感謝しています!
有り難うございました!




