64.魔剣士群の襲来
「ライゼル様、そ、それでは、体を泉で清めてまいります」
「う、うん」
ルムデスが言った捧げの意味は、てっきり力の全てだと思っていた。
それがまさか――
『何だぁ? ライゼルはエルフとは初めてかぁ?』
「そ、その声……マリム? え、何故」
『そりゃあそうだろ! アタシらはあんたの力なんだぜ? 普段は姿こそ見せねえが、心ん中の変化には気付くものさ。母親の温もりが欲しいんなら、アタシがいつでも……』
「そ、そんなんじゃない……」
母さんの魂がルムデスに……とも思っていたが、そうじゃなかったと感じることが出来た。
『召喚士ライゼル。神聖のエルフを得ても、自惚れることのないように』
「その声はシルフ? あなたまでそんなこと」
『あなたへの脅威が、迫りつつあることをお忘れなきよう……』
姿を現さずに声だけ聞かせるとか、精霊妖精も意地が悪い。
彼女たちは必要と感じた時とされた時に、真の姿と力を示すと約束してくれている。
それでも妖精の力は、本来余程の危機にならないと使ってはいけないらしい。
「脅威って言われても……」
『……どなたとお話をされておられるのですか?』
――あっ。
全身を森の泉で浴びたルムデスは澄んだ翠色の瞳をしていて、深紅に染まった過去を取り除いたかのような感じだ。
銀色と金色が混ざった長い髪色も、一層綺麗に輝いている気がする。
「そ、そんなに見つめないで頂けると……」
「ご、ごめん」
「わたくしはこれまで以上に、ライゼル様の傍でご助力致したいと存じます」
「落ち着いたら出発しようか」
「はい、ライゼル様」
妙な気分になりそうだが、シルフのいう脅威が迫っているとすれば余裕は無い。
「それじゃ、行こう」
「どこかアテはあるのですか?」
「この近くに村か町はあるかな?」
「近くではありませんが、ドリゼ湿地帯まで行けば村があると思います。そこに行けば、不意に襲われる心配は無いかと」
「ジメジメしてそうな場所に村が? 襲われないってことは人間の村じゃないってことかな?」
「ええ、そう思われても間違いではありませ――っ!?」
「うっ?」
隣を歩いていたルムデスに突然吹き飛ばされた、そう思っていたが――
「ミゼラ、こいつだろ?」
「そうだ。エルフといる人間で弱そうなナリをしてる奴は、コレしかいない」
「ならここで殺って、リーダーに報告しようぜ?」
「いや、オルガはエルフを止めておけ。コレは私が始末する」
「女相手にやられそうなツラだしな。任せた」
何だ、この連中。
俺とルムデスに割って入った時の衝撃は、間違いなく魔法攻撃だったはず。
それなのに見えているのは、一メートルはあろうかと思うくらいの大剣だ。
両手剣持ちの魔法剣士?
「お前がギルド追われの召喚士か?」
「……」
「間近で見る大剣が怖いか、それとも女だてらに両手剣を持っていることに、びびっているのか?」
「な、何者なんだ?」
「ふん、口は利けるみたいだな。有無を言わさずの非道召喚士と聞いていたが、何をどうすればお前に負けるっていうんだ?」
骨と魚の鱗のようなもので出来た黒褐色の鎧と、黒青銅のレギンス、大剣にはどこかの国に属する紋様らしきものが見える。
ギルド追われと言っていたが、こんな連中にも伝わっているのか。
ルムデスの方に向かったのは男のようだが、俺の前に立っているのは女の……
「お、お前は剣士……?」
「少し違うな。魔剣士を知らないのか? お前とエルフを引き裂いたのはこの剣。この剣に魔法の力を与えて振り下ろしただけのことだ」
吹き飛ばされた時に見えた剣光は、そういうことなのか。
「お、俺に何を――」
「襲撃されたと分からない程、獣に守られていたのか。それとも、取るに足らない相手に見えるか?」
話しながらも全く隙が無い鋭い目つきで、俺を見ている。
この女がリーダーなのか。
『ミゼラ! エルフを捕らえたぜ! 召喚士は殺したか?』
『抵抗されずにか?』
『気配は感じたけどな! どうするよ?』
『……召喚士の強さを見ずに……というのは面白くないな。連れて行く』
『じゃあ、あいつらとネルヴァの洞窟に向かっておくぜ! ミゼラも早く来いよ』
『……』
ルムデスが捕まったというのか。
彼女の力であれば、魔剣士であってもそんな不利なことにはならないはずなのに。
「俺をどうするつもりがあるんだ?」
「召喚士、お前の名を聞かせろ」
「……ライゼル」
「忘れたか? ライゼルと名がつく召喚士は、ギルドの敵だ。敵にすることなど決まっている」
「エルフの彼女は関係ない。敵というなら、俺だけに剣を向ければいい」
「どれほどの化け物か、試させてみろ。私の仲間にお前の力を見せたところで、存在を消してやる」
「洞窟の中でか?」
「どこであろうと無意味に終わる話だ。エルフを取り戻したければ、示せ。簡単だろ?」
今までの襲撃者とは違う。
魔法だけではなく剣技もとなれば、容赦なく示すだけ。
滅せず生かしたままで、光に還すことなど出来るのだろうか。




