62.召喚士と深紅のエルフ 前編
レヴナントと成り果てた亡き冒険者たちを光に還したことで、俺とルムデスはようやく休息を取ることが出来た。
果ての地でのことは掻い摘んで話したからそれはいいとして、ルムデスにも聞きたいことがあったので、眠るまでの僅かな時間、彼女に話を聞いてみることにする。
まず聞いたのは、俺がトルエノに唇ごと力を奪われた時からだ。
「――! ルムデスたちはその時すでに、飛ばされていたってこと!?」
「そういうことになります。アサレアさんとはさほど離れることが無かったのですが、イビルさんやムルヴとは違う場所に」
「あれ、でもアサレアは今はムルヴに守られているんだよね?」
「……神鳥のセーンムルヴは上空を飛んでいましたし、わたくしたちのことはすぐに分かったようなのです」
「イビルとトルエノが一緒にいるってこと?」
「それは分かりませんが、あ……どうぞ、干し肉をお召し上がりください」
「あ、ありがとう」
ルムデスは神聖のエルフではあるが、アサレアと行動していた時、鳥獣や野兎といった小さな獣を狩って食糧を得ていたらしい。
しばらく落ち着いて食事をすることが無かったが、こうしてまた誰かと食べたり話をしたいものだ。
「うん、歯ごたえがあるけど、濃い味が肉から滲み出て美味いよ! ルムデスも食べ……」
「わたくしは狩りこそしますが、肉を必要としませんので、それはライゼル様だけで」
「そ、そういえば、ルムデスはエルフの、それも神聖の長って言っていたよね。その場所は村だったりした?」
「……ええ」
「そ、その、今さらだけど……巻き添え召喚をしてごめん!」
「そのことなら何も問題ありません。エルフも様々な生き方がある……わたくしは、深紅の村から叛く運命にあったのだと思うのです……」
干し肉をもらってから余計なことを聞いてしまった。
ルムデスの表情がすっかりと沈みこんでしまうなんて、聞いてはいけないことに踏み込んだのか。
「……ライゼル様がお気に病むことではありません。ですが、もし今後もわたくしをお連れ頂けるのであれば、向かうことをお許し願いたく思うのです」
「え、その深紅の村に……ってこと?」
「はい……今のライゼル様であれば、その身が染まることなく、進めると信じております」
「そ、染まる……!?」
思ったよりも、重苦しい道を求めてしまった。
ダークエルフと果てたユーベルとの因縁、そして神聖の長でありながら俺に付いて行くことを選んだ彼女は、一体どんな運命に囚われていたというのか。
「その村は近くに?」
「……ええ。まずは明けを待つことといたしましょう。明ければ、自ずと求められますから」
「え、うん」
俺がロランナ村にいた頃耳にしていたのは、エルフは様々な種族がいようとも、古いしきたりや慣習に従いながら、ひっそりと暮らす種族だと聞いていた。
神聖のエルフ……それを聞いただけでは、ルムデスが今に至るまでの運命は窺い知れない。
そして精霊妖精を降した今の俺なら、その村に求められる資格があるということにも疑問がある。
とにかくレヴナントの脅威は去ったし、眠るしかない。
しばらくして妙な声が響く――
『囚われから放たれた召喚士、立ち上がり進め』
眠っていた間は何も無く、久しぶりに休むことが出来ていた。
しかしその声が聞こえてから、何かが変わりそうな気配を感じてしまう。
「――ライゼル様、叛きの運命を受け入れて頂けますか? 受け入れてくだされば、力の全てをお授け致します……」
何故かルムデスの声が耳元で囁かれたような気がして、体を起こした。
するといつの間にか妖霧らしきものが立ち込めていると思えば、ルムデスの姿は傍になく、目に見える物全て赤く染まった集落の中に、ただ一人だけで佇んでいた。
深紅に染まる……エルフの村なのか。
血が流れているといったことではなく、見慣れた森の色全てが赤く枯れ果てた地、といった方が正しいのかもしれない。
ルムデスの運命を知ることで、彼女が持つ”全て”を手にするとでもいうのだろうか。




