102.追放者の告白
義肢の魔剣士であるクラヴォスは一体何者なのだろうか。
素直に答えてくれるとは限らないが、試すつもりでけしかけてきた彼に聞いてみた。
「ん? あぁ、何者……か。そうだな、移動した先で話すがそれでいいか?」
「えっ?」
「ここはライゼルたちにとって、敵地真っ只中だ。ここでゆっくり話すのは危険すぎるのでな」
「ライゼルさま……その方の通りにした方が良さそうです」
「そ、そういうことなら」
ルムデスは俺を庇う様にして近付き、辺りを警戒しながら促して来た。
エルフである彼女は察知能力に優れているということもあるのか、クラヴォスが注意するよりも前から、何かしらの気配を感じ取っていたようだ。
「こっちだ」
「あっ、はい」
義肢を装着し直したクラヴォスは、急かすように歩きだした。
彼の後を付いて行くことにした俺たちは戦闘街区から離れ、物静かな道を進む。
しばらく歩き続けた頃、ロザック旧市街に似た寂し気な場所にたどり着く。
さっきまでいた所とは明らかに異なり、歩く人の姿を確かめられないほど、寂れた所に見える。
「ここも街だったところ……ですか?」
「そうだ。リエンガンは迷宮都市……つまりは、ダンジョンの中に区画を分けて作られた街がいくつも存在していた。だが、魔剣士が巣食うようになってからはそうではなくなった」
「元々はそうでは無かった……そう聞こえますが、あなたは何者なのでしょう? ライゼルさまには包み隠さずお話しなさい」
「ここは元々、俺のようなエクシリオばかりが住む街で、かつ、一番賑やかな人民街区だった」
「つ、追放者?」
洞窟の天井を見上げるクラヴォスは、どこかを思い出すようかのような素振りを見せながら、ゆっくりと俺たちの方に向き直り、近くの石段に座って話しだす。
義肢ばかりに目が行って気付かずにいたが、彼の目は縹色をしていて不思議な感覚を覚えた。
「俺はクラヴォス・マーロス。ここではない地上の国……マーロスで生まれ育った者だ。国を追われ、迷いながらたどり着いたのがここ、リエンガンというわけだ」
「マーロスというと西方の国の……ですか?」
「知っているの? ルムデス」
「ええ……ですが――」
「大したことでは無い。国は滅びに瀕しているだろうからな! その名を知っている者の方が珍しいだけだ」
「滅び……? どうして……」
ルムデスは俯いて、口を噤んでいる。
神聖のエルフとして生きて来たルムデスも、物悲しい過去があっただけに、言い辛いことなのかもしれない。
「王が国を捨てれば、どんな強国であってもそうなるだろうな」
「え? ということは、もしかして国王?」
「はっはっは! 小国の王をしていただけだ。だが国を追放されてしまったからな! その辺の事情は、エルフの姉ちゃんが知っているはすだ」
「ルムデスが?」
そうは言っても彼女は、俺は元より、クラヴォスの方を見ることなく俯いたままだ。
ルムデスがというよりは、エルフが関係している話なのかもしれない。
「ふむ……まぁ、それはともかくとしてだ。ライゼルも故郷の村を追放されたのだろう? それは何故だ?」
「お、俺ですか? 俺は……」
「……いや、召喚士をしているだけで想像がつく。この世界は魔法を使う者よりも、自分の力で狩れる者を優勢とする傾向が強いからな!」
「クラヴォスも魔法を?」
「元はそうだったな。今はご覧の通り、半端な魔剣士と果てた身だ。義肢になったのも、魔法の暴走によるものだからな、はははっ!」
「……暴走」
最弱な召喚士だった俺は力を操ることが出来ずに友を消し、村を滅ぼしかけた。
もしかしたらクラヴォスは、似た境遇の持ち主なのか。
「俺のことはさて置いて、本題に移るか。ライゼルがここに来たのは、故郷の村の娘を助ける為なのだろう?」
「そ、そうです。彼女は同じロランナ村で仲良くして来た関係で……」
「合成士の娘と一緒にいた召喚士も同じ村か?」
「……まぁ」
「そうか。人質にさせてしまったのは俺の失態だ。すまん」
「ど、どういうことなんですか?」
「実は魔剣士たちの間で噂の召喚士をここにおびき寄せる手段を探していたのだが……」
「お、俺を!?」
「いくらここへ来いと言ったとしても、来るとは限らんだろう?」
ルムデスを救った後、リエンガンに来いと言われていたものの、わざわざ敵の本拠地に行くつもりは無かった。
しかしアサレアとフィアフルがリエンガンに向かうことを知った時点で、目的が定まってしまったがまさかこんなことになるなんて……。
「はぁ、まぁ……」
「そこに突然現れたのが、謎の召喚士の男だ。ソイツは用が出来たことで、連れの娘と別れざるを得なくなったらしくてな。そこで保護を求められたわけだ」
用というのは俺と戦うことだった。
アサレアを魔剣士に任せ、フィアフルは俺と決着をつけようとしていたというのか。
「保護……? ということは捕らえられているわけでは無いのですか?」
「今のところはそうだ。娘はリエンガンの中心街区……五番目と呼んでいる所にいる。だが時間の問題だ。俺が裏切ったことがあいつらに伝われば、娘はすぐに拘束されるはずだ」
「そ、そんな……! それなら早く助けに!」
「それこそ奴等の思うつぼだ。エルフのあんたもそう思うだろう?」
「……ええ」
「ル、ルムデス……?」
さっきまで話に混ざることを避け距離を取っていたはずのルムデスが、いつの間にか傍に立っていた。
「ライゼルさまが魔剣士にやられることはありません。ですが、彼女を人質に取ったのは洞窟でのことを思い知ったからでしょう……」
「ふむ。報告で聞いたが、洞窟ごと吹き飛ばしたらしいな?」
「正確には俺じゃなくて……」
「召喚した精霊によるものだろう? それならライゼル自身によるものという認識で相違ないはずだ」
「……うぅ」
「責めているわけじゃない。問題はその娘をどうやって救い出すか……ぬっ!?」
人けの無い場所で話していた俺たちだったが、いつの間にか複数の人影に囲まれていることに気付く。
ルムデスとクラヴォスはすでに気付いていて、戦闘態勢に入っている。
『……ここに……いやがった。俺が……殺す……絶対に』




