99.仲間との離別
「リゼルくん、木剣を持ってくれるぅ?」
「あっ、と……と」
「ソレは君の為に作ったものだから、肌身離さず持っててね」
「は、はい……うっ?」
「キャハッ! じゃあギルドにね?」
見た感じは木で作られたただの木剣に見えていた。
だが俺に渡った木剣からは、何かの異変を感じてならないが、その正体は掴めない。
「あ、あの、ラ……リゼルさん! わたくしはお待ちしています……ですから、どうか!」
「――! うん、分かった」
ルムデスと再会出来たのも束の間、リオネと関わってしまったばかりに、彼女とは行動を共にすることが出来ないようだ。
二人の間には、俺の知らない何かの因縁があるのだろう。
今は俺だけでも場所と人を知る機会を得て、時機を待つしかない。
俺と契った彼女らは、どこにいても召喚出来る。
ルムデスはそのことが分かっているからこそ、素直に俺と離れたし、食い下がることはしなかった。
リオネが何者なのかは分からない。
もしかすれば、俺と一緒に来てしまうと、状況が悪くなるということに繋がるのかも。
「……それでは」
一言だけ残しルムデスは踵を返し、そのまま旧市街の方に向かって歩いて行ってしまった。
「大事なエルフ?」
「え、まぁ……」
「すぐに会える……必ず、ね」
「え?」
「さぁて、もっかいギルドに行こうか~! 紹介出来てない子もいるんだよね」
ルムデスやルナ、キア……それに、イビルとノワの行方も気になるが、とりあえず事を荒立てるつもりは無いので、素直にギルドについて行くことにした。
『戻ったよ~! リゼルくんも無事に確保!』
半ば強引に腕を組まれながらギルドに入ると、申し訳なさそうなクラヴォスが声をかけて来る。
「精霊使いなのに、すまんな! てっきり同志だとばかり思っていたものでな。なに、悪いようにするつもりは無い。それについてはリオネにキツく言われた。心配するな!」
「い、いえ、よくは分かりませんが、クラヴォスが気にすることでは……」
「ふむ、それもそうだな。後のことはリオネたちに任す。俺は別な用が出来たから失礼するとしよう! ではな、リゼル」
「あ、はい」
気さくな人で良かったが、忙しいのか早々にギルドを出て行ってしまった。
クラヴォスが出て行ったギルド内は、妙な緊張感が増した気がする。
『はい、みんな注目~!』
そんな中リオネは、俺を部屋の中央に立たせて、一斉に注目を集めさせた。
俺を見ている連中は全て女性で、その気配は普通の民とは違う物々しさがあるような感じだ。
「ほら、紹介してくれるかな? 精霊使いくん」
「あ。お、俺は……ル・バランから来ましたリゼルです。よ、よろし――」
「ル・バラン……ね。それより、木剣だけじゃ訓練にならないから盾もあげるよ。この街区にいる時は、常に戦闘態勢でいなければならないから、武器と盾は持っておこうね」
「リオネさん、ありがとうござ――」
「……気にしないでいい。その剣と盾を身に付けてくれさえすれば、こちらとしても好都合……だよ」
すでに渡されていた木剣に加え新たに渡された盾は、俺でも持てる軽量の盾で、獣からなめされた革と青銅に固定された木で作られている。
剣と盾をじっくり眺めると、リオネの肌に見られるような紋様が施されているように見えるが、ギルドの壁にも似た紋様があるので、恐らくこのギルドのことを指すのだろうし、気にすることでもないだろう。
「リオネさん、あの」
「呼び捨てでいいよ。リゼルくん。何?」
「えっと、戦闘態勢でいなければいけないってのはどういう意味なのかな、と」
「あぁ……そういうことなら、外に出ればすぐに分かるよ? ここはリエンガン戦闘街区の一番目……一番多いところだから、弱い君でもすぐに剣士になれる……」
「戦闘街区!? 剣士……? そ、そんな、じゃ、じゃあここは……」
後ずさりながら部屋の扉に向かおうとすると、リオネは笑みを浮かべながらその正体を現して来た。
ルムデスとのつばぜり合い、ただならぬ気配、ここまで無警戒な自分が嫌になりそうだ。
「精霊使いのリゼル……いや、召喚士ライゼル・バリーチェ。約束通りにリエンガンに来たことは、褒めてあげるよ! ふふ、洞窟での力はしっかりと見せてもらった。あのエルフを守る為の力ってのもね」
「リオネ……お前は魔剣士なのか?」
「ネルヴァの洞窟では、君に近づくことは無かったからな。エルフにはさすがに気付かれたが……」
「お、俺をどうするつもりなんだ? リエンガンで見せしめにするつもりか?」
「戦闘街区の五番目に行った時にそうさせてもらうけど、今はギルドの新人として敵と戦ってもらおうかな」
「敵? 何を言うかと思えば、敵は俺だろ?」
ギルドの部屋にいる他の連中は、殺気を出してはいるものの、リオネに気圧されているのか近付いても来ない。
リエンガンに来いと言ったのは、紛れもなく魔剣士の連中だ。
それなのに今すぐ俺に刃を向けて来るどころか、捕まえようとしないのは何故なのか。
「今の君では精霊も呼べないだろうし、召喚も出来ないよぉ? だから敵にもならない……」
「敵にもならない? 俺がここで召喚をすれば、戦闘街区……ギルドもろとも消すことは簡単だ。何故そう言い切れる?」
周りの女たちも含めて笑みを浮かべているが、まさか……。
手にしている木剣と盾を見たがすでに遅く、紋様が色濃く出ていると同時に、自分の中の力が封じられているような感覚に陥っている。
これは召喚試練で感じていた時と似た症状で、上手く言い表せない感覚だ。
「そう、それは普通の木剣でもないし、盾でもない。化け物の力を封じるものだ。それらを手にしているお前なぞ、怖くも無ければ今すぐ手にかけることなど容易いことだ……お分かりかな?」
「……く、そ」




