98.リエンガン戦闘街区 3
「――今、何と?」
「あの者たちは全員、魔剣士だった……そして、その内の一人を追い詰めたということです」
崩落現場から別れたルムデスと行動していたのは、ガルコットで出会ったアインと残りの二人か。
ルムデスに敵意を剥き出しにしていた男だけなら、確かに可能性は否めなかったが、まさか全員だなんてそんなバカな。
「アイン……彼も魔剣士だったと?」
「ええ。もちろん襲うタイプではなく、静観したうえで指示を出すタイプでしたが……ライゼルさまが見立ての通り、わたくしに刃を向けて来たのはベリルという男です」
「あ、あぁ……それは」
「……眠っていたサーシャを斬ろうとしていたのが、ベリルでした」
「そ、それで、ルナは?」
「その時点では目覚めることが無く、しかしキアが咄嗟に守ってくれたのです」
再召喚をしてルムデスを守るように命じたキアが、まさかすぐに力を発揮してくれるとは思ってもみなかった。
しかも人の姿になっていた上、実は守護獣として動いていたとは意外過ぎる。
「そ、それじゃ、キアとルナが追っているのは手負いのベリル?」
「はい。知っての通り、あの場では三人とも大した武器を携行していませんでした。しかしロザック旧市街に着いた時、どこからか武器を手にして襲って来たのです」
旧市街には朽ちて古びた家屋があったものの、フィアフルのことがあってそこまで見る余裕は無かった。
まさかそんな所で、武器でも忍ばせていたとでもいうのだろうか。
そこにいたアインは偽で正体はフィアフルだったが、本物のアインも敵だったなんて……。
「そんな……」
「魔剣士にも、好戦的な者とそうでない者がいるということのようです」
「アインともう一人はどこに?」
「申し訳ございません! 見失ってしまいました……」
「そ、そっか。それはそうとして、ここはリエンガンで合っているかな?」
「迷宮都市リエンガン……ここはまだ始まりの場所に過ぎないはずです」
やはりそうだった。
ノワもイビルもどこに行ってしまったのか分からないが、アインが魔剣士ということは、ノワと引き合わせるわけにはいかない。
「ライゼルさまはあの場所で、何をされていたのですか?」
「えーと、それは……」
外で待機しろと言われていたのに、今頃騒ぎになっているのでは。
『リゼルくん、見ぃつけた! あれあれぇ? もしかして逃亡とか……違うよねぇ?』
まさかと思ったが、やはりリオネはすぐに俺を見つけ出したようだ。
改めてリオネを正面から見ると、頬から首筋にかけて色料ですり込まれた紋様が描かれているようで、全身に身につけているのは、素材が不明な金属と身軽そうな革のようだ。
装備だけ見れば狩人か、それとも盗賊か。
「リゼル……? あの、ライゼ――」
「わー!! 待った!」
「むぐぅっ!?」
「い、いやーすみません。エルフの彼女と話をしていただけでして、逃げたわけじゃないですよ?」
「むぐぐっ……!? お、お止めになってくだ――」
『エルフを懐柔しようとしていたってやつ? それは君の自由だけどぉ、そろそろ解放してあげないと息絶えるんじゃない?』
偽名を使っていることを知らせなかった自分も悪かったが、屈んで来たルムデスの口を手で押さえつけてしまった。
この場で耳打ちが出来そうにないことを悟ったのか、息を整えたルムデスは、口裏を合わせるように話しだした。
「ハァハァ……ふぅ。そちらは?」
「リゼルの教育担当のリオネだけどぉ? そういうエルフさんは、わざわざここに来たのかな?」
「……!」
「――なっ!?」
リオネと向き合ったルムデスだったが、忍ばせていた短剣でリオネに襲い掛かっていた。
対するリオネは俺への指導用なのか、手にした木剣で防いでいる。
そんな状況になりながらもリオネは俺の方に目を移し、この場から動くなと言っているようにも見える。
「……リゼルくん。ギルドに戻ってて来れないかな? ここは物騒だしぃ?」
「だ、大丈夫ですんで、少し離れておきますから」
「そう、それならそこで待っててくれるぅ?」
「わ、分かりました」
彼女とルムデスの関係がどういうことなのかは分からないが、ただ事じゃない気配を感じてならない。
彼女らから少し離れ、耳を澄まさなければ聞こえない距離で、様子を見ることにした。
「ふぅん……?」
「何故あなたがここにいるというのですか!」
「不思議なことでは無いと思うけどぉ? それとも、誰かを追い詰めたのかな?」
「――っ!」
「彼がライゼル・バリーチェなんだろ? 神聖のエルフ……」
「知っていて何故……!」
「敵か味方か、使えそうなら使う。少なくとも、ここでは貴様たちに味方する民などいないのだからな。それがたとえ化け物を呼び出す奴だとしてもだ」
「ふ、ふざけるなっ――!!」
「キャハハッ! 短気なエルフなんだ? あのエルフよりも強いのかな?」
何やらルムデスの様子がおかしい。
短剣と木剣で均衡を保っている様に見えるが、やや押され気味なのか。
「あのエルフ? ……彼女がここにいるのですか?」
「さぁね。召喚士を助けただけで、何も役に立たなかったエルフだ。報酬だけ貰って去っただろうさ」
「……そうですか。それであなたは彼をどうするつもりが?」
「リエンガンに来た以上、お前も召喚士も好きに動くことなど出来はしない。今は自由にさせておいてやる……ただそれだけのことだ」
「……っ」
殺気じみた気配は薄れたようにも見えるが、ここは俺が出て行かないと駄目かもしれない。




