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自作小説倶楽部 第14冊/2017年上半期(第79-84集)  作者: 自作小説倶楽部
第80集(2017年2月)/「鬼」&「道」
10/37

03 E.Grey 著  鬼 源平館主人9 公設秘書・少佐』

*『源平館主人』殺人事件ついに完結。

.

   //粗筋//

.

 衆議院議員島本代議士の公設秘書佐伯祐は、長野県にある選挙地盤を固めるため、定期的に彼の地の選挙対策事務所を訪れる。夏のある日、空き時間で、婚約者・三輪明菜と混浴温泉デートをした。訪れた温泉宿は、源平館だ。二人が湯から上がったところで銃声がして、駆けつけてみると、宿の主人が密室になった一階書斎で、拳銃を握っているのが分かった。被害者の身内三人が容疑者として浮上した。

    09 鬼

.

 佐伯は真田巡査部長に煙草を一本やると自分もくわえ室内を見渡した。そこにいる容疑者三人は、被害者である源平館主人・津下義秋氏の親族だ。女将の夫人、番頭で弟の次郎、養子の明だ。

 津下夫人はまだ若く綺麗だ。番頭と養子にちょっかいをだした、あるいは、言い寄られて受け入れたのかもしれない。亭主である旅館主人に、弟と養子とに、淫行の現場をみられているようだ。動機としては殺害に及んだ可能性が最も強い。

 番頭は、兄を亡き者とし、義理の甥に冤罪をなすりつければ、すべてが手に入る。

 養子は、博打うちで義父から縁組解消を迫られていた節がある。一度逮捕されたものの、ギャンブラーとしては一種の天才で、借金どころかかなり羽振りがいいくらいだ。

「それで、犯人は?」真田さんが佐伯に聞いた。

「――津下明」

「えっ、俺は無実だったって証明されたはずだろ!」

 女将と番頭が青年をみやった。

「まあまあ、事は簡単な消去法だ。順を追って説明してみよう。まず、女将だが、ご亭主に浮気の現場を押さえられて、進退窮まり犯行に及んだというセンはもっとも自然だ。しかし陸軍拳銃って男性用でね、女性が撃つには厄介な代物なんだ。だいたい撃ち方をどこで習うんだ?」佐伯が煙草を一口吸って続けた。「つぎに番頭さん。番頭さんは、確かに兄の秋久氏が亡くなり、甥に罪をなすりつければ全財産を手に入れられる。また従軍経験もあり、拳銃操作もお手の物ときている。しかし旅館を畳んで大金を手に入れてもいずれ使い切ってしまうということを知っている。そして拳銃をどこから手に入れたかが問題。除隊のとき部隊に拳銃を提出したはずだからやはり持っていない」

「待ってくれよ、俺は旧軍に入ってもいないし、拳銃なんて撃ったこともない」

「確かに君の年齢では軍隊に入ったことがない。しかし君は、ギャンブラーとして天才で愚連隊仲間を借金漬けで意のままに操ることができる。仲間内には暴力団の子弟もいるだろ? 借金の質として、拳銃を手に入れなかったかい? また射撃練習はそいつから伝授された。練習場は坑道内。そこなら音が漏れない」

「嘘だ。おまえの妄想だろ!」

「あらかじめ花壇に靴の足跡を残し、何食わぬ顔で泥靴を書斎に持ち込み部屋にも足跡をつけておき玄関に置く。――これで女将と番頭が君を嵌めるためのトリックだとみせかける。それで部屋に入ってきた源平館主人を待ち受け、持っていた拳銃で射殺。外に出るとき、フランス窓のフックが閉まるように細工して逃げた」

「証拠はどこにある?」

「ああ、それか。佐伯は懐中からハンカチを取りだした薔薇に引っ掛かっていた線維が挟んである」

「薔薇の棘に君は服を引っ掛けた。鑑識にだせば君の服のものと照合できるだろうよ」

 そこで真田さんが口を挟んだ。

「たしかに、義理の母上はお綺麗だが、関係してしまい、見咎めた義理の父親を殺害してしまうとは……」

 すると、津下明は、天井をみて笑った。

「アハハ、別に俺は勘当されても金には困ってなかった。ここ月ノ輪温泉に、名探偵級だという、あの佐伯明がくるっていうんで挑戦してみたくなったのさ」

 なんと! 一同は仰天した。

 真田さんが、津下明に手錠を掛け、外にいたパトカーに乗せた。

 津下明という青年はギャンブラーというだけではなく、犯罪者としても天才的資質を持っていた。その後、刑務所の高窓鉄格子に味噌汁をかけて腐食させて脱獄。愚連隊仲間の手引きを得て、漁船をつかって、当時ソビエト連邦と呼ばれていたロシアに亡命。そこの工作員として世界各国で暗躍。合衆国CIAと渡り合った挙句、ソビエトが崩壊する1990年代初め、アフガニスタンの武装勢力に射殺されたという話だ。

 しかし佐伯祐に挑戦するがために養父を射殺するとはまさしく鬼……。津下明は根っから危ない奴だった。 

 他方の女将と番頭は事件のあと結婚し、旅館を畳んで、東京で小料理屋をだしたとのことだ。

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 事件直後。

 気を取り直した佐伯と私は別な温泉宿の露天風呂につかっていた。

 脱衣場のほうをさりげなく見遣った佐伯が鼻血をだした。

 ――あっ。

 昔の同級生どもが、裸でセクシーポーズをやっているではないか。性懲りもなく、私の佐伯を玩具にして遊んでいるのだ。私は、タライをつかんで、きゃつらめを追いかけた。

     (源平館主人)了

  //登場人物//

.

【主要登場人物】

佐伯祐(さえき・ゆう)……身長180センチ、黒縁眼鏡をかけた、黒スーツの男。東京に住む長野県を選挙地盤にしている国会議員・島村センセイの公設秘書で、明晰な頭脳を買われ、公務のかたわら、警察に協力して幾多の事件を解決する。『少佐』と仇名されている。

三輪明菜(みわ・あきな)……無表情だったが、恋に目覚めて表情の特訓中。眼鏡美人。佐伯の婚約者。長野県月ノ輪村役場職員。事件では佐伯のサポート役で、眼鏡美人である。

●島村代議士……佐伯の上司。センセイ。古株の衆議院議員である。

●真田巡査部長……村の駐在。

.

【事件関係者】

●津下吉秋……源平館主人。被害者。

●津下夫人……吉秋夫人、源平館の女将。容疑者。

●津下次郎……吉秋の弟、番頭。容疑者。

●津下明……吉秋夫妻の養子。容疑者。


*全9話、最後までご高覧頂きありがとうございました。

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