後日談
紅魔館。それは紅い煉瓦で作られた、平野の中に佇む西洋風の豪邸。
大きな庭を構え、其処にある花壇には色とりどりの花が咲いている。
そして今日も…彼は如雨露を片手に、花に水をあげていた。
太陽の光と透き通った水を受けた花はより一層輝いて見える。
水色のプラスチックで出来た如雨露の中に入っている水は重たかったが、花の命を紡ぐ前ではそんな愚痴も赦されない。
そして日傘を差して、彼の横で一緒に花壇を眺めていたのは…彼女であった。
新鮮な色を見せる花を見つめては、彼の隣で静かに佇んでいられた事が…幸せだと思えていたのだ。
彼の如雨露を持つ手とは逆の左手を握って、その暖かな温もりに浸っていた。
彼女自身、太陽の光には弱いが…日傘から透き抜ける暖かさと重なって、頬に仄かな紅を浮かべていた。
「…こんな日が来るとはね、リヒト」
「…あの時は思いもよらなかったからな。…全て自分の所為だと改めて自覚すると、やはり自分は悪者だと良く分かるよ。
…だけど、それを必死に否定してくれたレミリア…お前に出会えて…うれしかった」
彼の"うれしかった"は漢字表記だと固く見えてしまう。柔らかい感情を言葉に込めていた彼のその発言を、彼女は平仮名で捉えた。
右手が一層、暖かくなる。ギュっと握られた右手は彼自身の心を比喩しているかのようであった。
「…何で今更、そんな事言うのよ…照れるわ」
「…何時も照れてるけどな」
「何をー!」
彼の言葉に反応して見せるが、勿論本気では無かった。
少しの沈黙の後に、不意に笑いが込み上げてきた。彼女と同時に、彼も笑みを浮かべていた。
彼女と一緒に暮らす"運命"になった彼であったが、彼自身も彼女に出会えて本当に心から感謝していた。
彼女も彼と会えたことが…幸せなのだと悟っていた。
―――で、リヒトを呼び出したのは「運命を司る能力」…そう、レミリア。お前だよ。
曾て摂理府本営で対峙した、リグルに言われた一言。
彼女自身の能力が彼を呼んでいたのなら…彼女はそう思うと、自分の胸に左手を当てた。
…暖かい。
感情は風のように、ゆっくりと流れていった。
静かに水やりをする彼の横顔をそっと見て、自分の置かれている境遇が如何に恵まれているかを知って―――。
「…ねえ、リヒト」
「…何だ」
「…貴方は、ずっと私の傍のいてくれる?」
そんな問いに、彼は迷いなど生じなかった。
如雨露を片手に、決して彼女の方を向かない点がどうも彼らしかったが。
「…当たり前だ」
そう言われた時、改めてホッとした。
そしてこれからが、彼と共に毎日を暮らせることに喜びを感じた。
「…ありがとう」
青々とした空では雀が囀りと共に飛んでいる。
2人はいつの間にか、暖かな感情を共有していた。
静かな幻想。何もない、ほのぼのとした毎日に幸せを浮かべて、今日と言う一日を2人は共に過ごした。




