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40章 Victim of betrayal and silence

仲間であった早苗を裏切り、不敵な笑みを浮かべる彼女は独走状態に走っていた。

自信と同じ立場であるエニルクスを殺害し、この世全てを自らの天下にしようとしたのだ。

しかし、最後に立ちはだかったのは…今までも何度も耳にした抵抗者…レミリアとリヒト。

明羅は煙を上げる銃口を2人に差し向け、引き金を引こうとする。

スーツ服は古代図書館に吹く、冷たい凍え風で靡き、より一層恐怖を引き立てる。


「…私は早苗を殺害した。…後はお前たちだけだ」


「…味方を殺しといて…その発言なんて…。

―――貴方…頭おかしいわよ…どうにかしてるわ!」


レミリアは仲間に対しても卑劣な彼女が許せないでいた。

対抗してスペルカードを片手に、自身に向けられた銃口に恐怖感を感じることは無かった。

明羅は早苗の倒れた姿を視界の隅に映すと、不意に笑みが零れたのだ。

馬鹿馬鹿しさが…そこには存在していたのかもしれない。


左手に携えた日本刀で、早苗の骸の背中に何度も突き刺した。

残虐な光景を前に、彼女も彼も…唖然としてしまった。

死んだことで冷え切った血が一気に飛び散る。と言ったものの、ほんの少しだけ暖かかったが。

肉が垣間見え、それさえも鋭い白銀で断ち切ってしまう。

同胞であったエニルクスを滅茶苦茶に斬り刻み、返り血をスーツ服に付けて2人の方向をゆっくりと向いた。


目は完全に狂暴者の目であった。尋常では無い。

頭がおかしくなったのか、精神異常になったのか…。…どちらにしろ、今の明羅は普通では無い。


「…私は…この幻想郷を…征服するんだ。

―――馬鹿どもがうようよ跋扈している、汚いこの世界を統一する…。

煢然けいぜんな私に慈しみなんてあると思う?…クックック…。

―――私の名は明羅。…オズマ・トフェニ=エデンも、ゼア・トフェニ=アダムも、ミレ・トフェニ=イヴも…全てを手に入れし皇帝おうだ!」


◆◆◆


「とっとと私の世界から往ね!」


右手には拳銃を、左手には日本刀と言う2つの武器を同時に構えた彼女は射撃で2人を陥れようとする。

しかし、銃撃戦には慣れている2人は身を華麗に躱し、古代図書館の地形を生かして本棚の陰に隠れる。

一時的に隙を窺った2人は明羅の位置を遠くから把握し、彼は太刀を、彼女はスペルカードを携えた。


明羅の視界に映ったのは、本棚の裏に身を潜ませるレミリアであった。

ごそごそ動く彼女を捉え、左手の日本刀で本棚ごと斬りかかろうとした。

しかし、彼女は自身を囮にしていた自覚があり、攻撃を見切っては空中回転回避で避けてしまう。

日本刀の一撃を躱され、同時に斬れた本棚はそのまま明羅を押し潰さんと襲い掛かる。


「…フッ、下らない」


本棚をも断ち切り、自らを倒れた本棚の上に乗って2人を捜す。

ここで意表を突かんと裏に回っていたのはリヒトであった。

片手に持つ太刀を構え、一気に明羅の背中に斬りかかった。


しかし、明羅も振り向きもしないまま、左手を背中に持ってきては一撃を受け止めたのだ。

本棚の瓦礫の上で2人は鍔迫り合いを始めたが、彼女は余裕そうな振りを見せる。

彼を一気に力押しして飛ばし、彼は一時撤退を図ろうとする。

―――だが、明羅は追撃をかける。


「…幻象召喚シグマバース!―――『バハムート』!」


呼び出されし、明羅専用の幻象シグマは、黒翼を羽ばたかせて2人を視界に捉えた。

口から溢れる熱気は、やはり悍ましいものであった。


「ぐぎゃああああああああああああおおおおおおおおおおおおおおう!!!」


巨大な咆哮と共に放たれた灼熱の一撃は、彼に手向けられたものであった。

彼は襲い掛かる灼熱を躱す為、自身も幻象召喚シグマバースを試みた。

左腕を薄暗い天に翳し、声高らかに宣言して―――。


「…幻象召喚シグマバース!―――『イルシス・ワンダー』!」


靄と共に現れた巨壁はバハムートの一撃を防ぐために立ち塞がった。

彼はその間に一時撤退し、イルシス・ワンダーはバハムートの灼熱を受け止めた。

罅が入っても尚、しっかりと容姿を保ったイルシス・ワンダーは眼下の明羅に対し、ビームを放つ。

―――そう、イルシス・ワンダーは只の壁では無い…要塞なのだ。


明羅は自身に向けて飛ばされたビームを回転回避で躱し続け、何とか態勢を保つ。

バハムートもイルシス・ワンダーも、その役目を果たして靄へ回帰してしまった。

ここで背後から一気に攻撃を仕掛けたのはレミリアであった。

右手に構えたスペルカードを高く翳し、堂々と宣言する。


「―――スペルカード!…神槍、スピア・ザ・グングニル!」


放たれた紅い槍はそのまま明羅の背中を…射貫いたのだ。

胸が裂かれ、狼狽の声を上げて膝を地面に落とす彼女。

すぐさま2人は明羅の元に駆け寄り、ドロドロした血を口から逆流させる彼女を見据えた。


「…貴方の負けよ、明羅。

…仲間であるエニルクスを裏切って、幻想郷を自らの世界にしよう、なんて甘い考えが通用すると思わないで欲しいわ」


「…クックック…」


「どうして笑えるんだ…!?

―――こんな惨事を犯しても、自らの身体が裂かれても…何故…!?」


彼は明羅の不敵な笑みに理解が出来なかった。

どうして彼女は自身が危険な状態に陥っても、仲間を容易く殺害しても笑みを浮かべられるのか。

蹣跚よろけながらも、彼女は口元から笑いを止むことは無かった。

ゆっくりと立ち上がって、自らに刺さったグングニルを抜いて…地面に投げ捨てた。

スーツ服姿を一気に穢す、新鮮な血は何処か悲しささえ覚えられたものであった。


「…私は零刻次元体エヴィル・グレッダ…。

―――貴方たちと同じエニルクスでありながらも、自らを召喚して此処へ来た存在よ。

…悪いわね、最後まで足掻かせてもらうわ!…道連れを増やす為にね!」


彼女の後ろに出来上がったブラックホールは、全てを吸い込まんとして現れた。

古代図書館の何もかもを吸収し、未知なる世界へ運ぶ箱舟として…。

其れは早苗と明羅が連れてきた、人質もそうであった。

助けに来たはずの咲夜たちも、その流れに逆らう事は出来なかったのだ―――。


「さ、咲夜!フラン!パチェ!小悪魔!美鈴!」


2人は何故かその流れには乗らなかったが、どんどん無辜の民が餌のように吸い込まれていく。

明羅も、最期の高笑いを浮かべ、その様子を無様に思っていた。

馬鹿みたいに吸い込まれていく様は、明羅にとってはお気に入りのものであったのだ。


「フハハハハハハ!フハハハハハハ!」


「…貴様…!」


彼はそんな彼女を太刀で一閃した―――。

その時、彼女もまた、その流れに乗って未知なる世界への旅人と為ってしまったのだ―――。


◆◆◆


辺りに閑静の虚無が流れる。

明羅を鍵として、閉じてしまったブラックホールは何もかもを吸い込んだ。

沢山本棚が設置された古代図書館も、今や更地であった。

贏余えいよも何も無い。只、虚しさだけが其処に残る。


「…明羅…」


「…後はアダムとイヴ、そしてエデンだ。

―――トフェニを全て倒せば…今吸い込まれた人たちも…帰ってくるかも知れない。

…それしか、今の私たちに希望は無い」


彼はそう…静かに言い切った。

明羅の起こした道連れに巻き込まれた仲間たちを助けるには、世界のリセットしか無い…。

リセットする為には、摂理府の主な存在となっているアダム、イヴ、そしてエデンを倒すことしか無いのだ。


「…行こう、何時まで此処にいても時間の無駄だ。

―――最後の決戦場所、摂理府本営に」


「…分かったわ」


2人はそのまま…古代図書館を後にした。

幻想郷の行く先は…そして住人たちや仲間の運命は…全て、2人に委ねられたのだ。

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