12章 ハイパードライブ・エグゼクティブ
2人の前に立ちはだかった、摂理府からの刺客―――ガーディアン。
彼はガーディアンと戦った時を思い出した。
…異世界にいる幻象たちの力を自らに取り入れ、力を抽出して戦う機械―――。
「…それにしても…どうして摂理府の刺客が私たちの居場所を特定してるのよ!?」
「いや…単にコイツが幻象召喚でここへ来ただけであって、他のエニルクスたちには分からないはずだ。…それよりも、まずはコイツを倒す!」
「―――ここでくたばれ!」
◆◆◆
「きほん戦闘プログラム作動!」
迎撃機は家の中であるのにも関わらず、自身に装着されたリボルバーを回転させて2人に銃弾の雨を向ける。
レミリアは俊敏な動きで避け続け、リヒトはそんなレミリアに気を引かせているガーディアンに太刀の一撃をお見舞いする。
「悪いな…!」
「イルシス・ワンダー戦闘プログラム作動!」
硬き城の召喚獣のプログラムを取り入れたガーディアンは急激に硬く変化し、太刀の一撃も容易く受け止めてしまう。
攻撃を弾かれたリヒトは苦い顔を指し示すと、一旦身を引かせる。
「私の存在も忘れないで欲しいわ…スペルカード!神槍、スピア・ザ…グングニル!」
壁に蝙蝠のように張り付いていた彼女はカードを掲げたと同時に紅き槍を自分の右手の掌の上で作り出す。
迸る閃光を纏いし神槍はその中でうち輝いて、一気に解き放たれる光の筋と為った。
しかし、そんな閃光も迎撃機のイルシス・ワンダー戦闘プログラムによって殆ど無効に等しかった。
「な、何よあの機械!?」
「コイツは異世界と接触して幻象と接続して、その力を得る機能がついた厄介な奴だ」
「今のは…」
「イルシス・ワンダー…巨大な城のような召喚獣だ」
彼は耐久へと持ちこんだガーディアンに諦めず、もう1度攻撃を仕掛けるが、カウンターがそこには用意されていたのだ。
「カウンター戦闘プログラム作動!―――ハイパードライブエンジンMAX!…充填終了!
―――ハイパードライブ、発射!」
「り、リヒト!危ないわッ!」
凄まじきエネルギーが彼の攻撃の反動で生み出していることに気づいたレミリアは彼を横から押し倒す。
彼と一緒に倒れたレミリアであったが、その直後―――リグルの家を一気に破壊する程の白き光陰が貫かれたのだ。
ガーディアンが放った"ハイパードライブ"…これこそが摂理府の手が加えられた幻象の強さであった。
「…ひぃ~」
リグルはそんな戦いを前に弱腰になっていた。怯えで涙を見せ、壁際で蹲っている。
そんな彼女を見た彼は自然と怒りを覚えた。
傲慢に立ちはだかり、破壊に衝動を駆られて行う、意思ありき迎撃機が。
「か、感謝する」
「それよりも奴が…!」
ガーディアンは倒れこんでいる2人に一気にリボルバーを向ける。
追い詰められた状況でもあった。しかし、彼女の目は光った。
「きほん戦闘プログラム作動!」
「それを待ってたのよ!」
彼女の驚異的なジャンプは一気に家の天井まで届き、そこに張り付いて足場を整える。
眼下に存在する迎撃機を見据え、スペルカードを構えた。
ガーディアンは倒れているリヒトに銃弾の雨を至近距離で放とうとする。
それを止めるために―――彼女は動いた。
―――自分の為にニスト・ペグダムから助けてくれて、ここまで来てくれた彼の為に。
「―――スペルカード!天罰、スターオブダビデ!」
◆◆◆
彼女の攻撃によってガーディアンは彼に攻撃を加える前に限界が来てしまい、そのまま靄へと回帰してしまったのだ。
何事もなかったかのように沈黙が戻り、2人は安堵に浸る。
しかし改めて周りを見渡せば…荒れ果てた家が―――元の形を失っていた。
「…た、倒したんですか…」
リグルは立ち上がり、未だに恐怖で体を震わせながらそう2人に問うた。
彼も彼女もまた、静かに頷き、そして謝罪した。
「…申し訳ない」
「…私たちの所為で、こんなに…」
「いいえいいえ、寧ろお2人がいなければ、今頃私は…」
心優しい彼女は2人に責任は無いと言い張り、2人も何処か安心出来たのであった。
しかし彼はそんな時、気になるものを見つけてしまった。
―――1冊の煤けた本。
それが、1つの道を築くかのようにバラバラに落ちていたのだ。
視線で辿った先にあったもの―――。
「…あれ、あんなとこに穴なんてあったっけ」




