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―最終章 橘のトリック&クリミナル―

 ――??? side――



「くくっ、馬鹿なSIC……」

「まさかあの杉並って男……あのとき見られてたなんて……」

「でも見間違えていてくれたおかげで、こんなチャンスが舞い込んでくるなんてね……」



 解散してから十分後、ハリベルの部屋にふたりの人物が足を運んでいた。



「それにしてもあなた……ハリベルを殺すなんてやるじゃない」

「ううん。私は殺してない」

「え? じゃあ、誰が?」

「さぁ? でもどうでもいいじゃない。おかげで邪魔者は全員消えたし」

「たしかに。今のところSICは全員あの郷っていう男の聴取してるし、警察もここに来るまで多少時間かかるし、おまけにハリベル殺したバカが鍵まで持って行ってくれたんだから早く済ませちゃいましょ」

「そうね」



 ふたりがハリベルの部屋の前までたどり着き、ドアに手をかけ、部屋に入った。



『……!』



 瞬間、ふたりは驚きの表情に包まれた。



     ❁ ❁ ❁



「やっぱりあなた達ですか……。犯人の沢崎さん、高橋さん?」



 ハリベルさんの部屋で待機していた俺が部屋に入ってきたふたりに話しかける。当然、他のやつらもいる。



「な、なにを言っているの?」

「わ、私たちは犯人にこの部屋が荒らされないように見張りをしようとしただけですよ?」

「すっトボケても無駄ですよ。もうあなた達の正体は割れているんですから」



 俺のその返答に眉を寄せるふたり。



「あなた方……スパイ、なんでしょ? 高田家の弱みを握って脅すための」

「しかも、それを自分たちの利益にしか使わない極めて悪質な」



 静かに尋ねる優稀菜と綺羅先輩。



「な、なにを根拠にそんな」

「根拠ならありますよ。この部屋に」

『?』



 なんのことかわかっていないふたり。



「もう出てきていいですよ……ハリベルさん、栗林さん」

「オーケー」

「ふぅ……」

『!?』



 ベッドの下から生きているハリベルさんと栗林さんが出てきた。



「バカな! お、おまえたちは殺されたはず!」

「な、なんで……!」

「ハハハ……あなた達バカね。なんでワタシ達が殺されたと思ったの?」

「だ、だってそこのSICが……は! は、図ったのね……?」

「はい」



 超簡単なトラップに本当にひっかがってくれた。意外と扱いやすくて嬉しかったですよ、ほんと。



「百聞は一見にしかず……ちゃんと、自分の目で見たモノにしか信じちゃいけませんよ」



 琴美が笑った。



「すべて、聞かせていただきましたよ。ハリベルさん達から。あなた達が悪質なスパイであることや他にもいろいろな仕事をなさっていたことも。高橋さんに限っては息子の康彦さんの心に付け込んで彼女になってまで高田家に潜入したと」

「しかし……ある日、許嫁の月島さんが現れた」



 歩美と鏡花に樹里が続く。



「月島さんもあなた方と同じ、裏社会に関係する人物でした。手帳を拝見させていただいたら簡単に解けました。本当に簡単です。いくつか、不自然に『仕事』の文字が書かれていたのです。その『仕事』こそ……月島さんの目的だった。そう……月島さんは自分が許嫁であることを利用して、高田家に毒牙を掛けている人物を探していたんですよ」



 樹里のその言葉に沢崎さん達の表情が少しずつ固まっていく。



「それに気付いたあなたたちは……月島さん殺害の計画を立てた」

「ちょ、ちょっと待ってよ。た、たしかにハリベルが言ったことはあっているわ。私たちはスパイよ。でも、今回の奈緒子への殺害と結びつけないでくださいませんか?」

「わ、私たちがここに来たのも、ハリベルが死んだって聞いて、都合が悪いモノを持ち去るために来ただけで、奈緒子の殺害とは関係ないじゃないですか!」



 沢崎さんと高橋さんが乱入してくる。往生際が悪い。



「あのですね、今回の犯行はあなたがた以外、不可能なんですよ」

「なんでそんなことが言いきれるのよ!」

「ひとつ目は動機です」

「動機?」



 歩美が指を立てて、説明する。



「はい。月島さんを殺す動機がないんですよ、あなた達以外。まず、ハリベルさんと栗林さんは月島さんの見方。高田一家は大事な許嫁。康彦さんは今日の今日まで彼女が自分の許嫁ということは知りませんでした。そんなひとがこんな計画的な犯行は行えないので消されます。ギャンブラー三人は月島さんとは初対面で論外。つまり、こんな犯行が行えるのはあなた方しかあり得ないんですよ」

「もうひとつありますよ」



 今度は俺が説明する。



「それは密室殺人のトリックにあります」



 そう……三十階のホテルの個室から忽然と消えた犯人のトリックだ。



「あれは密室殺人なんかじゃありません。極めて簡単な出来事です。あのとき……銃声がしたとき丁度に沢崎さんはあなた方の手によって銃で殺されたんですから」

『…………』



 俺のこの推理にふたりは黙りこむ。

 俺はポケットの中から、部屋にあった本当に小さなレコーダーを取り出す。



「これを見つけたときは完全に騙されました。犯人がこれを流して犯行時刻を紛らわしたものかと。しかし。そんなの不可能だったんですよ」

『……?』

「だってこのホテル……ドアが閉まっていた場合、音はほぼ完全にシャットアウトしてしまうほどの防音対策がされていたんですから」

『!?』



 俺がこれに気付いたのは、今日の夜だ。

 部屋の中であんなに大声で騒いでいたのに外に出てドアを閉めると、ぱったり音が止んでしまったんだから。

 そして、最初にこのレコーダーを見つけて再生したときは部屋のドアが開いていた。だから、樹里たちが駆けつけてきたんだ。



「ということで、あなた達が言う、銃声を聞いた時はドアが閉まっていて部屋の中が完全に密室だったときは、このトリックは成立しないんですよ」

「ていうことは、可能性はもうひとつしかない」



 鏡花が俺に続いた。



「あなた達がその場で月島さんを銃殺。そして、わたしたちが駆けつけてくる間に窓から銃を捨てて、あたかも、その場で月島さんの死体を発見し、部屋が完全に密室に見せかけようとした。違いますか?」

「……証拠は? 証拠はなにかあるの?」

「そ、そうよ。証拠を見せなさいよ!」



 あーあ。サスペンスとかでよくある、犯人が追い詰められて時に出てくる言葉が飛び出てきたよ。



「硝煙反応……と言いたいところですが、おそらく銃を袋に入れて、発砲したんでしょう。硝煙反応はあてになりません、が。証拠は、このテープレコーダーです」

「テープレコーダー?」



 優稀菜が言う。



「このテープレコーダーから指紋が検出されました。このテープレコーダーはおそらく、あなた達が月島さんを銃殺したときに録音されたんでしょうね。……素手で」

『……!』

「あなた方の指紋を取らせていただけませんか? それがこのテープレコーダーにあったものと同じものであれば立派な証拠になりますよ? あと、逃げないでくださいね。五十嵐さんが警部に連絡して、ここら一帯に非常線を張りました……って、もう聞こえてきましたね。破滅の足音が」

『…………』



 外には手配したパトカーのサイレンの音が響きまくっていた。

 ふたりはついに意気消沈。自分たちの罪を、認めた。



     ❁ ❁ ❁



「さて、行こうか」



 ホテルの外、パトカーに乗り込む沢崎さんと高橋さん。



「も、桃子……!」



 康彦さんが高橋さんに呼びかけるが、彼女はなにも話さずパトカーに乗り込んだ。

 ふたりのアイドルは……パトカーで警察まで送られていった。



「さて、この人質を解放しますよ、長淵警部?」

「ああ、返していただこうか」



 鏡花が五十嵐刑事を長淵警部に引き渡す。



「今回はあなた達のおかげで解決できましたが……警察の身としては、全てを容認することはできん」

「容認されようだなんて思ってもいないわ。こっちはこっちの仕事をしたまでよ」

「ふん、言ってくれるな、銀髪。……五十嵐。よくやった。今夜は飲むぞ。とっとと乗れ」

「は、はい!」



 長淵警部に促され、五十嵐刑事が長淵刑事が乗ってきた覆面パトカーの前まで行き、



「えっと、SICの皆さん。勉強になりました、ありがとうございました!」



 とだけ言って、覆面パトカーに乗り込んだ。



「では、私も失礼する」



 と言って、長淵警部は俺たちに敬礼。俺たちも全員敬礼で返す。

 長淵警部は少し笑い、覆面パトカーに乗り込んで去っていった。



 ――Polices――



「どうだった、五十嵐。SICは」

「子供ですけど……我々と同じで、凄くかっこよかったと思いますよ」

「それは、本当か?」

「はい。私も警察にあこがれて努力した者です。だから……雰囲気でわかるんです。SICも我々警察と同じで、平和を願うものたちである、と」

「ふん。くさいぞおまえ」

「そ、そんな~」

「……まぁ、でも。大人の警察に対して、子供のSICだ。私たちも負けてはいられんぞ」

「もちろんですよ。私は警察官です。これからも警察官としてSICに負けないように尽くすつもりですよ」

「うむ。それでいいのだ」



     ❁ ❁ ❁



「結局、散々な旅行だったなぁ……」

『うん……』



 三日間だったはずの旅行はまさかの一日のみになるとは……。



「まぁ、仕方ないわよね。土田さん達がこの事態を社長に伝えて、このホテルの開業を延期することになったんですから。ほら、他の客だってみんな帰ることになったんだし、もとはタダなんだから損はしていないわよ」



 鏡花の言う通りだ。

 もうすでにギャンブラー三人と高田一家は帰っており、残っているのは俺たちとハリベルさんと栗林さんだけだ。ハリベルさん達も、部屋にあった荷物を持ってきている。



「まさか、ハリベルさんと栗林さんがCIAの諜報員だったときよりも、俺たちが部屋に入った時の死んだふりが怖かったですよ」



 怖かった。本当にあれは怖かった。忘れよう。



「ハハハ、これでも女優ね。演技やフリは得意よ」



 笑いながら答えるハリベルさん。



「いつから月島さんと通じていたんですか?」

「ほら、前に言ったでしょ。道に迷っていた彼女を道案内したって。そのときから、よ。彼女からは訳有りな匂いがしたからね、ちょっとセリを呼んで問いただしてみたのよ」

「半ば拷問に近かったですけどね」



 苦笑して答えてくれるセリさん。

 ……やっぱり、このひとは拷問の達人だった。なんとなく、キャリーっぽい感じがしていたんだよな。メガネをかけているからよっぽど。



「さて……これでワタシもアメリカに戻りましょうかね。ワタシがニッポンで活動していたのも月島さんのアシストだったから……。でも、ニッポンは好きだからまたたびたび来るわ。今度はSICニッポン本部で会っちゃうかもね」

「そんな時間はおそらくありません。これから祖国でラジオ番組、歌番組、バラエティーがほぼ缶詰め状態です」

「……Oh,no……」



 栗林さんの言葉を聞いて、落ち込むハリベルさん。



「まぁ……仕方ないですよ。またお会いできたらうれしいですね」

「こっちもね。じゃあ、See you next time! Goodbye!」

『Bye!』



 ハリベルさんに全員挨拶。

 ハリベルさんと栗林さんは、ここから立ち去っていった。



「さて、俺たちも帰ろう」

『うん』



 俺たちも部屋で荷物をまとめ、土田さんに挨拶して家に帰った。

 こうして、俺たちの波乱の休日も過ぎていった。

 そういえばの話。証拠の指紋の話だけど、あれは嘘だよ。



           橘編……end!

はい、結構無理矢理感があった橘編でしたね。

さて、次からは「青空編」に入っていきます。

天真爛漫な視力四・三の天才スナイパー、瀬良琴美の回になっております。お楽しみに。

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