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―最終章 月影のプロミス―

 ――Zyuris story――



「さて、作戦会議を開くわ」



 鏡花がそう切り出した。

 私、鏡花、優稀菜、綺羅さん、琴美の五人は家に集合している。

 歩美は病院にいる。俊輝の傍にいさせてあげることにした。

 綺羅さんが口を開く。



「状況を整理しようか。現在ヤクザふたりは逃走中。美鈴ちゃんたちが非常線を張ったから、この街からは出ることができない。警察は動いてくれない。天気は急変。雨は降らず炎天下。三番隊と四番隊がここに向かっているけど……残念ながら時間がかかるため、全員待機状態。……ってとこかな」



 その通りだった。三番たちと四番隊は、ここにヤクザ達が集まっているのを知らず、わざわざいろんなところに出向いていた。だから、ここに集まるには時間がかかる。

 こんなときに役立つ警察も「こうなったのは、SICの過失のせいだろう。私たちは動かん」の一点張り。



「三番隊達が到着するまでの間にわたしたちで捕まえましょう」

「だね。優稀たちが俊ちゃんの仇を取ろう」

「いやいや、優稀ちゃん。俊くんは死んでないよ」

「あ、そうだったの」



 私たちは俊輝の無事を聞かされているから、もう冷静だった。



「そこで……わたしが仕掛けた発信機を使いましょう」



 鏡花はポケットから機械を取り出す。



「奴らが逃げるときに、駅員に化けていたヤクザに発信機を付けたわ。バレていなければいいんだけど……」



 機械をいじりながら言う鏡花。



「……大丈夫ね。ちゃんと動いているわ。……場所は……ここから二キロ西に行ったところ……あ、立ち止まった」



 これで敵の居場所はわかった。あとは……。



「じゃあ、行きましょうか。ワルガキ退治に」

『はい』



 私たちはその場所に向かった。



     ❁ ❁ ❁



「樹里たちが動き出した」

「は?」



 病院から抜け出して、走りながら俺は響にそう言うと、響はわけがわからないような顔をする。



「なんでそんなことわかるのよ」

「樹里に発信機を仕掛けた。場所は特定できる」



 俺は発信機を片手にそう返す。



「……いつの間に」

「俺は隠密機動隊の元隊長だぞ」

「……なるほど。倒れる寸前に発信機を仕掛けたのね。復活したらすぐに迎えるように」

「まぁな」

「自分が死なないと決め付けていたわね、アンタ」

「心臓は動いていたし、息も苦しくなかった。だから、心臓も肺も正常だと思っただけだよ」

「ふん、たいしたもんね。じゃあなんであそこで寝ていたのよ」

「……。…………歩美が怖かったから」

「はぁ!?」



 俺の素直な答えに響は仰天する。



「あんた自分の妹を怖がってんの!?」

「……おまえは歩美の怖さを知らない」

「はぁ? あんな可愛らしい十二番隊隊長が怖い? どうかしているわよ」

「まぁ、それは体験したひとしか知らない」



 あの可愛い笑顔は癒しの作用もあるんだが……有無を言わさない絶対的命令をしているようにも見えてしまうのだ。それは俺の知っている範囲では、樹里、優稀菜、そして鏡花しか知らない。

 ……歩美は実はSっ気があるのかもしれない。



「どうでもいいわ、もう。で? 彼女たちはどこに向かってるの?」

「ここから東に向かっている」

「……は?」

「どうした?」



 響が立ち止まる。



「こっから、東? それって……もしかして港の方じゃない?」

「港?……あ」



 そうだ。その方向は……港。しかも……。



「なんてこった!」

「それ、ここのヤクザの拠点じゃない!」



 そうだ! その通りだ! あの港はここのヤクザ……非指定暴力団の新橋組の拠点! 

 基本的に何をしているのかわからないとこだったから忘れていたけど……。



「ねぇ! もし地下鉄を建設している業者に、新橋組が絡んでいたとしたら……!」

「あんなとこに爆弾を仕掛けることも、隠し扉を作ることも、駅員に成りすますのも簡単にできるってこった! 俺たちは新橋組にはめられていたんだ!」

「だとしたら……ちょっ! 彼女たちが危ないわ! わざとそこに向かわされているかもしれない! あっちにはチャカやヒカリモノはもちろん、ひとも充分いる! そんなとこに少人数で行ったら返り討ちにされるのは当然! 海の藻屑になるわよ!」

「ちっ!」



 俺は鏡花に電話を掛ける。……。…………。…………くそ!



「繋がんねぇ! 電源を切ってやがるな、病院にいたから! ってことは全員、携帯は使えねぇ!」

「三番隊と四番隊が来るには時間がかかるし、警察は動いてくれない! すっごくヤバい状況よ!」

「急ごう響! 早く止めないと! あいつらは山梨を追っている! 新橋組のことなんか考えていない可能性がある!」

「そうね! ちょっと! そこの運転手!」



 響は車道で運転している車の運転手に声を掛けた。



「あん? なんだチビ!」

「その車! 渡しなさい!」

「んだとてめ――」

「ほら、一千万の小切手! これで車を買いなおしなさい!」

「あ、はい。どうぞどうぞ」



 ガラが悪い男を金の力で一瞬で従わせた響。すげぇ。



「ほら乗って! 行くわよ!」

「おう!」



 俺たちは貰った(?)車に乗り込む。当然運転するのは響だ。



「ちょっと乱暴運転をするわ! 気絶しないように目を瞑ってなさい!」



 こうして、俺を乗せた車が爆進した。……この運転で、俺は二度と響が運転する車には乗りたくないと決めたのは後の話。



 ――Zyuris story――



「着いたわ」

「ここは……港、なの」

「ここで合っているんだよね、ジュンちゃん?」

「うん」



 私たちは港の廃工場へ乗り込む。

 工場内はガランとしていて、人気がなかった。



「……ん?」

「どうしたの、鏡ちゃん?」

「そういえば、この街にも暴力団はいるわよね」



 鏡花のその質問に、優稀菜と綺羅さんが反応する。



「……あ。あったあった」

「たしか、新橋組。さほど大きくないし、なにをやっているのかわからないから、SICも今は黙認している非指定暴力団。拠点は確か……海沿いの港のどっかの工場だっけ。……あれ?」



 綺羅さんのその言葉にこの場にいる全員が凍りつく。



「う、海沿いの……港?」

「ど、どっかの……工場?」

「そ、それって……」



 もうみんな気付いた。気付いてしまった。



「……ここ、新橋組の拠点じゃない!」

「その通り」



 鏡花が叫んだ瞬間、後ろから聞き覚えのある声が響いた。

 私は憎々しげにそいつの名前を言う。



「……山梨!」

「よく覚えてくれていたじゃねぇか、SICの野良犬さんよぉ。他にもいるぜ」



 ぞろぞろ……。 

 山梨がそう言うと、物陰に息を潜めていた男たちがぞろぞろ出てくる。ざっと、五十人程度か。……全員なんらかの武器を所持。ベレにトカにナイフ、金属バット……いかにも暴力団らしい武器ばっかね。



「こいつら……新橋組か!」

「その通り。おまえらはなにをやってんだかわかんねぇらしいけどな、教えてやるよ。こいつらは俺たちのとこの所謂、チェーンなんだよ。俺たちが捕まった時の穴倉だ」

「……なるほど、それならなにをしているのかもわからないわけね。あんたたちが隠蔽しているんですもの。暴力団同士が手を繋ぐなんて誰も考えないだろうしね」

「頭いいだろう?」

「そういうのを才能の無駄遣いっていうのよ? それにいいの? そんなに色々ベラベラ喋っちゃって。あんたたちの目論見が全てばれちゃっているわよ?」

「……もしかして、この状況から逃げられると本気で思ってるのか? 俺たちがただで家に帰してやると、本気で思うか?」

「思わないわね。残念ながら」



 鏡花のその言葉にこの場にいる全員が反応する。……もう全員臨戦態勢だ。いつやりあってもおかしくない状況。……と、そのとき。



「……ん?」

「なんだ?」

「車の音?……こっちに近づいて来ている?」



 ブロォン! キキーッ!っと一台の車が廃工場の前に止まる。



「……ひゅう。間に合った」



 その車からひとりの小さい女の子が出てくる。金髪のツインテール……あ、あれは……!



「だ、誰だ! てめぇは!」



 山梨が小さな乱入者に少し驚いて怒鳴る。



「SIC一番隊戦闘専門教諭、小山内響」

『…………ッ!?』



 「一番隊」の言葉に一気に凍りつく暴力団の御一行。一番隊の恐ろしさは暴力団の間でも有名だったようだ。



「ほら俊輝。着いたわよ……って! ちょ! なに泡吹いてんの、アンタ! たかが数百キロで走っただけじゃない! こんなのレーサーだと普通よ!?」 



 なんちゅうスピードを街中で走行してきたのよ……っていうツッコミよりも、もっとひっかがることがあった。……え? 今なんて言った?



「……んあ? ああ、着いたのね。うんうん」



 車の中から……凄く聞き覚えのある声が響いた。そ、その声は……!



「俊輝!」

「俊輝!」

「俊ちゃん!」

「俊くん!」

「シュンくん!」



 そう、俊輝だった。元気良く車から降りてくるが、顔が青い。



「……おう、みんな。もう大丈夫だぜ……ていうか」



 俊輝が響のほうに目を向ける。すると……。



「なんちゅうスピードで街中を走ってんだよ! 事故ったらどうすんだ!」

「なによ! 事故ってないからいいじゃない!」

「そういう問題じゃねぇよ! サーキットじゃねぇ一般の道路でF1レーサーもビックリな速度で走ってんじゃねぇよ!」

「アンタ、F1レーサーなめんな! アレくらいのスピードでビックリするわけないでしょう!」

「おまえなぁ! 怖かったんだぞ! すっげぇ怖かったんだぞ!」

「情けないわねぇ! SICでたっぷりイジメてやるから覚悟なさい!」

「ぐぬぬ……」

「ぬぬぬ……」



 響と喧嘩を始めてしまった。……平和ね、あっちは。



「てめーら! なめてんのか!」



 我慢の限界だったのだろう。山梨が叫ぶ。すると俊輝と響は喧嘩を止め、物凄い殺気を迸らせる。暴力団の組員も引いているほど強烈なものだった。



「俊輝……こいつらうっさい」

「一応……全員倒すか。勝負だ響。どっちが多くのチンピラどもを倒せるか!」

「はっ! アンタ、先生のこと私に勝てるとも?」

「試してみせたいのか?」

「試させてほしいの?」

『ふざけんな!』



 ついにキレた暴力団員が全員俊輝たちのほうに向かう!……そう、全員。



「――みんな! 今だ! やれ!」

『オーケー!』



 こちらも全員動く。俊輝たちがつまらない喧嘩で暴力団たちの冷静さを欠けさせたんだ!



「ほらほら! こんなひとがぎゅうぎゅう詰めのとこでナイフを振り回すと!」



 ぐさっ!



「ぎゃぁあああああああああああああああああああああああああああああ!」

「仲間に刺さるわよ?」



 説教を入れつつ響が暴力団たちを殴り飛ばしていく。俊輝もその後ろで暴力団たちを殴り飛ばす。……あっちは大丈夫そうね。

 鏡花も優稀菜も綺羅さんも琴美も全員、全力全開で暴力団員を倒していく。



「さーて、私も」



 久しぶりに……背中から物差しを取り出す。そして……暴力団の腹や肩を次々と突いて行動不能にしていく。……あ、やば。ちょっと深く刺しすぎた。血が出ちゃって……まぁいいか。死にやしない。でも琴美。銃剣でブスブス刺さない。あんたの周りだけ血だらけじゃない。……まぁ、手加減しているようだしいっか。



「俊輝、何人倒した!?」

「十人だ! おまえは!?」

「十三人! 私の勝ち!」



 あのふたりはまだやっていた。



     ❁ ❁ ❁



「さーて、制圧完了。残りは……」



 私たちは新橋組のヤクザを全て倒して、優稀菜にワイヤーで縛り上げてもらう。

 残っているのは……山梨のみ。



「く、くそ……」



 山梨は完全に戦意を喪失。その場にへたり込んでいた。



「山梨平四朗。午前七時二十三分。公務執行妨害・逃走・凶器準備集合、および殺人未遂の現行犯で逮捕する。あんたには本部でたっぷり絞ってやるから覚悟なさい」



 私は山梨に手錠をはめた。



     ❁ ❁ ❁



「もう兄さん! なんで安静にしていなかったんですか!」

「ご、ごめんなさい、歩美」



 暴力団新橋組と山梨が三番隊と四番隊に連行される中、俺は歩美にたっぷり説教をされていた。……響と一緒に。地面に。正座で。



「響さん。もうこんな勝手なことをするのはやめてくださいね……? 一番隊でもやっていいことと悪いことがあるんですよ……? いいです……ね?」

「はっ、はいっ! も、申し訳ありませんでした!」

「よろしい」



 響は完全に丸くなっちまう。歩美はそれだけを言い残して、美鈴の方へ行った。…………。



「な? 怖いだろ?」

「え、えぇ……こ、怖かったわ……」



 流石の響もビビってしまっていた。



「じゃあ、私は本部に帰るわ」

「え? もう少しゆっくりして行けよ。お茶出すぞ」

「ありがと。でも……やることがあるから」

「そっか。じゃあ、また今度な」

「うん。アンタもSICに来なさいよ。たっぷり扱いてあげるわ」



 それだけ言い残して、響は立ち去っていった。一方で。



「……待機と言ったはずでしょう、みなさん。なんでこんなことしたんですか?」

「私たちビックリしたんですよ? 命令違反にもほどがあります」

『……はい……』



 あーあ。次は鏡花たちがお説教されてる。どうやら、待機だったのに……勝手に動いてしまったらしい。美鈴と歩美が笑顔でキレている。……隊長格も頭が上がらねーな。



「はぁ……まったく。響さんと兄さんが来たからまだしも……」

「あなたたちだけで相手したら……ああ、怖い」

『本当にすいませんでした』

「まぁ……いいでしょう」

「結果オーライです。大目に見ます」



 そう言って、美鈴と歩美は本部に連絡を入れるといって、どっかに行ってしまった。

 みんなも疲れたらしく、車に戻っていく。

 俺は樹里の手を掴んだ。



「樹里」

「あ、俊輝」

「大丈夫か?」

「私は無傷よ……俊輝」



 樹里は俺に抱きついた。



「バカ……あんたは……なんで……」

「ごめんな。バカなことをしたな、俺」

「本当にバカ! あ、あんなことして……死んじゃったら……私は……私はっ!」

「本当に、ごめん」



 樹里には迷惑をかけてしまった。俺の身勝手で、樹里は傷がついてしまうところだった。



「約束したのに……守れなくてごめん」

「……やっと、思い出してくれた」

「ああ……思い出した。もう一回、約束させてくれ」



 俺は面と向かって樹里に言った。



「俺は絶対におまえを守って見せる」

「俊輝……ありが――」

「俊輝!」

「ジュリちゃんだけズルい!」

「そうだよ! 贔屓だよ!」

「幼馴染の特権乱用です!」

「……あんたたち……」



 口を挟んできた鏡花たちに叫ぶ樹里。



「もう! 今は私と俊輝の時間よ! あんたたちはまた今度話しなさいよ!」

「それじゃあ遅いのよ!」

「そうなの! 遅いの!」

「あっははっ、ゴメンねー!」

「今のうちに食い止めておかないと!」

「食い止めなくていい!」



 ……相変わらず、賑やかな連中だ。でも、それが楽しく、温かかった。



「ほら、みんな。帰ろう」



 俺たちはこの賑やかな状況のまま、帰路に着いた。



               月影編……end!

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