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―最終章 銀色のトゥルース―

 ――Kyoukas story 自分――



「――これが、真実です。鏡花さん。私たちは……兄さんのクローンなんですよ」

「そ、そんな……」



 歩美から語られた真実。それは、二年前の物……俊輝の記憶だった。

 歩美には俊輝の記憶がジェームズによって全て入れられていたらしく、れっきとしたものだった。



「『そんな』じゃなくて、真実よ。これが、現実」

「樹里……」



 教室に入ってきた樹里は、わたしにそう言う。



「言ったでしょ? 私も後から行くって。真実を聞いてどう思った、鏡花? 受け入れがたいでしょう?」

「……受け入れがたいに決まっているじゃない。わたしが……クローンだなんて……」

「俊輝に施した記憶封印は俊輝自身の精神状況、精神の強さで解けたけど……どうやら、鏡花。あなたに仕込まれた記憶封印は度重なる戦闘体験のせいで完全に消え失せちゃったみたいね」



 ……たしかに、わたしは沢山の戦闘訓練を受けていたから昔の戦闘体験なんて、封印されていたけどいつの間にか、その情報自体が上書きされてしまった可能性があった。



「でも……俊輝が付けた名前だけは覚えていたみたいね。あんたが目を覚ました時に最初に呟いた言葉が『鏡花』だったのよ? 当時のあんたには鏡輔に名前を付けられたことが、よほど大きい出来事だったようね」



 ……わたしは辛い訓練の中でも「鏡花」という名前で癒されていたような気がする。教官がわたしのその名前を呼ぶ度に、喜んでいるわたしが、たしかに存在していた。

 ――ピリリッ。ピリリッ。

 樹里の携帯が鳴る。



「ちょっとごめんね。――もしもし。あら、俊輝じゃない。……うん……うん。……そっか。……わかっ


た。私と鏡花、歩美は二年B組の教室にいるわ。……うん、じゃあね――鏡輔」

 !? 今、樹里が俊輝の名前を鏡輔って呼んだ! ってことは……。



「俊輝――鏡輔が記憶を取り戻したわ。今からここに来るって」

「そうですか……」



 樹里の言葉に歩美が元気なく答える。



「鏡花。信じることができないなら、今から来る鏡輔に訊いてみなさい。最も、鏡輔自身が自然に話しかけてくるような気がするけど」



 ……この言い方だと、たぶん、同じことを言われるんだろうな。



     ❁ ❁ ❁



「二年B組か……」



 樹里と電話をし終わった俺は、携帯を閉じて呟く。…………。



「……おーい。こっちだみんなー。犯人は気絶しているよー」



 ここに入ってきた中目無隊長率いる警官隊に合図する。

 気付いた警官たちは俺が閉じ込められていた部屋に突入する。おー、こわ。



「俊くん、ありがとうねん♪ おかげで制圧完了だよ」

「中目無隊長……お久しぶりですね」

「ふぇ? なんで? 私たちさっきまで一緒だったじゃん? それになんで呼び方が変わっちゃったのん?」

「ああ、こっちの俺に逢うのは久しぶりっていう意味ですよ」

「???」



 オッドアイの中目無隊長の目から「?」の視線が飛んでくる。可愛いおひとだ。



「……やっぱり。キミは彼だったのかい?」



 合流した京竹隊長。



「流石、京竹隊長。お久しぶりですね」

「いやいや、こちらこそ。二年ぶりだね――十七夜鏡輔初代十番隊隊長」



 やっぱり、京竹隊長は薄々気付いていたみたいだ。



「……え? ええ!? 鏡輔くんって、あの突然失踪した鏡輔くん?」



 中目無隊長の思い出し方に俺は苦笑して答える。



「はい。そうですよ。記憶がなくなっていて『杉並俊輝』と名乗っていましたけど」

「……成程。で、これからどうするんだい?」



 京竹隊長が俺に真剣に訊いてくる。



「それを今から決めに行くんですよ」

「……そうかい。じゃあ、気をつけてね」

「……なんかまだ、頭の整理はつかないけど。私からも言っておくよ。頑張ってね。あとさ、できれば、今までの私の呼び方でいいよ。だってもう私たち、友達でしょ?」

「うん。別に、強制はしないけど、いつもと同じでいいよ」



 ……優しいよな、このふたりは。



「ありがとうございます。綺羅先輩、龍侍さん」

「うんうん。いってらっしゃいだよん♪」

「絶対に解決するんだよ。あと、ひとつだけ情報をあげるよ。――ジェームズは本日午前一時四十三分に捕まったよ。ちょっと様子がおかしかったけどね」

「――ありがとうございます。では」



 俺は綺羅先輩と龍侍さんに礼を言って、二年B組に向かった。



     ❁ ❁ ❁



「来たみたいね……」



 俺の走る足音が聞こえたのか、そんな樹里の声が聞こえた。



「……よう、歩美、鏡花、樹里」



 俺は教室内に入る。

 歩美は涙で顔がくしゃくしゃになっており、鏡花は凄く苦しそうな顔をしていた。



「樹里。鏡花に話したのか? 俺の過去を」

「ええ、話したわ。全てをね」

「鏡花と歩美が……俺のクローンだってことを……か?」

「そうよ」



 そっか。やっぱりな。



「……やっぱり……わたしは……あんたの……クローンなの……?」



 震える声で俺に訴えかける鏡花。



「そうだ。現実だよ。俺の名前は『十七夜鏡輔』だ。おまえが俺に似ていたから俺が『鏡花』って名前をつけたんだぞ?」



 笑って話しかけるけど、鏡花は落ち込んだままだった。……笑い話にはならないよね。



「……じゃあ、わたしが……ここにいるのは……なんで……?」



 ?



「どういうことだ?」

「わたしは、なんでここにいるのって訊いてんのよッ!」



 叫ぶ鏡花は、泣いていた。思いっきり俺の服を掴んで叫ぶ。



「普通に生まれずに、存在してはいけないクローン人間として生まれてしまったわたしの気持ちはわかる!? わかるわけないわ! わかるとしたら歩美くらいだけど、歩美にはあんたへの贈り物っていうまだわかる存在意義がある! ならわたしは!? わたしはただの実験材料よッ!」



 ……自分の存在意義は実験の材料としてだけ。そう言われて受けた鏡花のショックは俺の想像以上だろう。



「……でも、わたしはジェームズに捨てられた……。わたしを残して逃げたってことは、わたしがいらなくなったってこと! じゃあ、わたしはなんのために生まれたの!?」



 鏡花は声を張り上げる。……おそらく彼女の中には、行き場のない怒りと悲しみが爆発しているんだろう。



「……実験材料として生まれたわたしが、実験材料になれずに捨てられた……。わたしに存在意義がなくなっちゃったじゃない! わたしはどうすればいいの!? これから! 一体どうすればいいのよ!?」



 ……鏡花は現実を受け止めようと必死になっている。しかし、受け入れようとすると、どうしても、クローンとして生まれてきてしまった自分の存在意義という壁に突っ掛かってしまう。



「こんなんだったら助けて貰わないで、実験材料として生きた方がよかった!」



 ――バシッ。

 そう叫ぶ鏡花の言葉に樹里が容赦ない平手打ちを入れる。



「おい! 樹里!」

「鏡輔は黙ってて!――あんたなんですって!? 実験材料として生きた方がよかった!? ふっざけんじゃないわよッ!」



 涙を溜めて鏡花に叫ぶ樹里。それはまるで、悪いことをした妹を怒る姉のようだった。



「実験材料が存在意義ですって!? そこにあんたの意思はあるの!? あるんだったら、あんたはもう、人間じゃない!」

「……人間じゃない……?……そうよ、その通りよ! わたしはクローンよ! 最初っから、人間なんかじゃないわよッ!」



 ――バシッ!

 今度は俺が平手打ちをする。……んだと?



「クローンだから人間じゃないだと!? 自分のことだけでなく歩美まで巻き込むんじゃねぇよ! 俺の大切な妹を泣かすんじゃねぇッ!」

「!」



 鏡花が歩美を見る。歩美は涙を溢れさせていた。



「樹里の言う通りだ! おまえは本当にそれでいいのか!? 自分は実験材料であろうという意思があるのか!?」

「い、いやよ……そんなの……」



 俺と樹里にぶたれてさらにショックを受けている鏡花は小さな声で否定する。



「だったら金輪際、自分の存在意義は実験材料だなんて……そんな悲しいこと言うんじゃねぇ!」



 気付かぬうちに、俺は泣いてしまっていた。……男なのに情けねぇぜ。



「じゃ、じゃあ……」



 鏡花が俺に弱々しく訊く。



「わたしの存在意義はなに? なんで生まれてきちゃったの? わたしは、これから……どうすればいいの? クローンのわたしに人権なんてない。わたしの正体が知られたら、今までの戸籍も全て破棄される。わたしはどうなっちゃうの? わたしはどうすればいいの……?」



 自分の存在意義と居場所がわからなくなり、途方に暮れて泣いてしまう鏡花。……泣き虫だな。

 自分の頬の涙を拭いて鏡花の頭を撫でながら、俺は鏡花に話しかける。



「おまえな。自分の存在意義も居場所もあったんだぞ? 二年前から今までずっとな。無意識に認識していたはずだぞ? 歩美から話は聞いたろう? 俺だって、さっき言った。おまえの名前を決めたのは誰でもない、俺だ」

「……そ、それが……?」

「本来、俺たちに施された記憶封印は対象の記憶をなにかの反動がない限り永久に記憶が失われる。でも、おまえ。それを受けて全ての記憶を失ったはずなのに、自分の名前だけは覚えていたじゃねぇか」

「!」

「だからな、俺が名前をあげたときから今まで、ずっと俺の妹――」

「――はぁ? 私のDNAも使われてんだから、私の妹でもあるわよ?」



 俺が折角いい話をしようとしているのに樹里が突っ掛かって割り込んでくる。



「あぁん!? 俺が名前を付けたんだから俺の妹だろ!?」

「! なに言ってんのよ! 鏡花の名前を本部に登録したのは私よ!?」

「いやだいいやだい! こんな可愛い妹、俺が独占したいんだい!」

「可愛い妹ならあんたには歩美がいるでしょう!」

「もちろん歩美は可愛い妹だ! でも鏡花も俺の可愛い妹なんだい!」

「だだ捏ねないでよ! 私はひとり暮らしで寂しいんだから、私にちょうだいよ!」

「今思い出したんだが、鏡花は俺の家に住んでいるし~(ニコニコ)」

「ウザッ! その余裕の笑顔止めてくれる!? キモイッ!」

「失礼なこと言うねキミは! そんな娘に俺の大事な妹はあげません!」

「だーかーらー、私の妹よ!」

「――ッ!」

「――ッ!」



 鏡花の取り合いがヒートアップする俺たち! すると――。

 ――ダキッ。

 俺に鏡花が抱きついてきた。



「!?!?!? きょ、鏡花?」



 突然の鏡花の抱擁に動揺する俺。どどどどうした!



「……ありがとう……本当に……ありがとう……」

「な、なにが!?」

「クローンのわたしの居場所をくれて……」

「……もう、クローンなんて単語は使うな。おまえは俺の妹だ。人間だ。俺の傍にいろ。わかったか?」

「……うん」



 鏡花が頷く。……ふっ。



「どうだ樹里! これで鏡花は俺の妹だぜ! ハッハッハッ!」

「……ま、負けた……」



 樹里が衝撃を受けていた。ざまぁみろ。俺は歩美に手招きをする。



「でもよ、俺は別にジェームズを捕まえようと暴れたりしなかったぞ、歩美、樹里」

『え?』



 驚く樹里と歩美。鏡花は「?」の字を浮かべていた。



「俺たちの記憶を封印した理由はそれだろ? 俺がジェームズを捕まえるために暴れて、クローンの存在を世間に知られることが怖かったから。鏡花も同じ理由だ。従来のクローンは、姿は似ても元の人間とは性格は全然違くあるのが一般的だ。しかし、ジェームズがどうやったのか、俺の戦闘体験の記憶を植え付けた。戦闘体験だけとはいえ、俺の記憶は記憶だ。だから自然と、俺と同じような性格になってしまった恐れがある。だから、俺と一緒に鏡花の記憶も封印した」

「な、なんでそれを兄さんが……?」

「……あんた、起きてたわね? あのとき」

「ご明答」

「! じゃ、じゃあ、兄さん。わざと記憶を!?」

「ああ、まぁな。それが条件だったんだろ?」

「……そういえば、そんなこと歩美が言ってたわね」



 納得した表情を浮かべる鏡花。呆れる樹里と苦笑いをする歩美。



「まぁ、最も。鏡花の場合は完全に記憶をなくしちまったから、俺とはあんまり性格は同じじゃないが……戦い方やクセはよく似ているな。そこまでは忘れられなかったみたいだぜ?」

「……たしかに、そうね……」



 赤くなって頷く鏡花。



「……さ、もうこの話はこれでお終いだ」

「……本当にいいの? わたしが一緒で」

「いいんだって、鏡花。おまえらもいいだろ?」



 鏡花を撫でながら歩美や樹里に訊く俺。

 歩美と樹里はお互いに顔を見て、ニッコリ笑って言った。



「特に断る理由なんてないですよね、樹里さん」

「ええ、別に何の文句もないわ」

「…………ありがとう、みんな」



 よし。これで、万事解決だな。



「ほら。鏡花、歩美、樹里。帰ろう、家に」



 こうして、俺たちの過去への因縁は切れた。

 俺たちはこのあと、優稀菜と綺羅先輩、龍侍さんと一緒に家に帰った。

 そして、ここから、俺の第二……いや、第三の人生が幕を開けた。



                      銀色編……end!


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