―第壱拾伍章 銀色のリアリスティック―
俺は細いシルエットの女を捕えようと追いかけまわしていた。
一階を周り、一回外に出て別館校舎に入り階段で四階に着く。
すると、女は突然立ち止まり、俺もつられて立ち止まる。すると――。
――ダッ!
女が俺の方に突然向かってきた! そして――シャッ!
「!?」
空気を裂くような音が聞こえた途端、不意を突かれ、無防備な俺の体はなにかに縛られる!
これは……針金、ワイヤーか? ヤバい! 首を縛られたら殺される!
しかし、いつまで経っても首にワイヤーが縛られない。それどころか……。
「……うっ、うっ……。ゴメンね……俊ちゃん……気絶させるだけなの……」
女が泣きながら俺に謝っていた。しかも、それは俺に聞き覚えがあるものだった。
「……おまえ、まさか!」
月にかかっていた雲が流れ、その女に月光が当たり、顔が見えた。その顔は――。
「……優稀菜!」
そう。俺の親友、長いポニテの女子、加賀美優稀菜だった。
泣きながらワイヤーを操り、俺を締め上げているのは間違いなく優稀菜だ。
「……バレ……ちゃった……」
涙をなお一層流し、なにかに絶望したように声を絞り出す優稀菜。
「……なに泣いてんだよ。謝るんだったら……放してくれないか……?」
笑いながらできるだけ優しく尋ねる俺。すると優稀菜は一瞬手が緩むもやっぱり放さず俺を縛られたままだった。
『シュンくん。その女、射殺するよ』
イヤホンマイクから瀬良さんの声が聞こえる。
「……いい。やめてくれ」
『……死ぬ気なの、シュンくん? 無駄死には――』
瀬良さんの言葉を遮り、俺が張り裂けるような声を上げる。
「いいから言うことを聞けェッ! この女を撃ち殺したら、俺がおめぇの額に風穴開けんぞ、琴美ィッ!」
『!? は、はいっ。すみませんでしたっ!』
――ピッ!
それと同時に通信が切れた。……あとで謝んないとな、瀬良さんに。
「しゅ、俊輝……? あ、あんたどうしたの――って、え? 優稀菜……?」
気付けば後ろに鏡花がいた。そして俺を縛っている優稀菜に気付いて、目をパッチリ見開く。
途端、優稀菜が涙をさらに浮かべ、憤怒の形相になる。
「……あなたが……あなたがここを夜な夜なまわっていたからっ。優稀は……私はっ! 大切なひとを失った!」
俺を縛っていたワイヤーを解き、窓を開ける。
「絶対に、絶っ対に許さないっ! 私はあんたを恨むよ、十七夜鏡花ッ!」
叫び、優稀菜は窓から飛び降りる。お、おい。ここは四階だぞ!
窓から見ると、優稀菜はハンググライダーを使ってここから逃走していた!
「っ! 琴美! 彼女、優稀菜は!?」
『――見失ったよ。ハンググライダーの色が黒みたい。なにも見えないよ。追跡は不可能だね』
「ちっ! ダメか……」
優稀菜にうまく逃げられたようだ。
「どうしたんだい? 大きな声が聞こえたんだけど……」
「すっごい大きな声だったね。でも、なんか。どこかで聞いたような声だったけど……気のせいかな?」
龍侍さんと綺羅さんが入ってくる。
「そっちは?」
鏡花が訊く。すると、龍侍さんが首を横に振る。
「ダメだ。撒かれたよ。相手はここの隠し扉を完璧に知り尽くしているらしいね。ボクらが知らない隠し扉をたくさん使われたよ。そっちは?」
「こっちは、ですね……」
鏡花が苦虫を噛むような顔で言う。
「ターゲットの顔を見ました。ターゲットは……優稀菜です」
「……へ?」
綺羅先輩が間の抜けたような顔をする。
「……ウソはやめて。悪い冗談だよ。ね? 俊くん?」
綺羅先輩は鏡花の肩を掴み揺さぶりながら、俺に訊く。
「嘘……だったらよかったんですけどね」
「……へ?」
まだ理解できてない先輩にはっきりと告げる。
「もうひとりの、ターゲットは……優稀菜です」
「……ウソ……」
瞬間。綺羅先輩は力が抜けて――その場にへたり込んだ。
「き、綺羅先輩!?」
「大丈夫だよ、俊輝くん。あんまり、こういうのには慣れていないからね。綺羅ちゃんは」
慌てる俺に龍侍さんが呟き、綺羅先輩の背中をさすりながら通信をする。
「――こちら、京竹だ。作戦は失敗。撤退するよ。お疲れ様。――以上」
龍侍さんが綺羅先輩を抱え込み、俺たちに言う。
「キミ達も疲れたろう。色々と。もう帰っていいよ。なに、大丈夫。綺羅ちゃんはボクが送るから」
「わかりました。お疲れ様でした。さぁ、行こう? 鏡花」
「……わかった。うん……」
隣の鏡花は思いっきり沈んでいた。
❁ ❁ ❁
「……お、おい、鏡花?」
「…………」
帰り道。俺は鏡花に話しかけるも返事が返ってこずに戸惑っていた。歩美は琴美と一緒に、あとで帰宅するらしい。
鏡花に叫んだ言葉。
――あなたが……あなたがここを夜な夜なまわっていたからっ。優稀は……私はっ! 大切なひとを失った!
優稀菜のこの言葉には、一人称を変えてしまうほどの怒りと悲しみに包まれていた。
――絶対に、絶っ対に許さないっ! 私はあんたを恨むよ、十七夜鏡花ッ!
涙を流して、くしゃくしゃな顔で鏡花に叫んだこの言葉で理解できる。よほど、優稀菜にそのひとは好かれていたことが。
一体、誰を失ったんだ? いつも笑っているおまえに、そこまでの感情を芽生えさせるほど。鏡花はおまえと仲がいいひとを奪うようなことはしないはずだが……。
「……あんた……本当に鈍感ね……」
なにかを察した鏡花にボソリとそう突っ込まれる。ちっとも意味がわからない。
結局、俺は鏡花を慰めることができず帰宅した。
To be continued




