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―第壱拾壱章 青空のアサルト―

『みんな……集合してくれたな』



 俺たちはイヤホンマイクで先生の声を聞く。

 現在時刻は十時十分。

 俺と鏡花、琴美は現在学園の中心部である校舎一階の廊下にいた。

 二階には綺羅先輩と龍侍さん、外には樹里と優稀菜がいる。



『気をつけろよ。俺たちは手出しはできん。せいぜい、おまえらのアシストとSICへの報告しかできねぇ。その場は協力して乗り越えろ』



 先生と歩美は俺の家にいる。

 監視カメラを歩美がハッキングし、俺たちを見守ってくれている。



『じゃあ、捜索しろ。琴美からは目を離すなよ。離した瞬間襲われる可能性もあるからな』

『了解』



 それだけ返す。



「いこうか」

「うん」

「はい……」



 俺たちは行動し始める。

 外にいる樹里たちも少し離れて動いてくれているし、綺羅先輩たちも二階で捜索している。



「……怖いっすね……このまえもこんなところを回っていたんスか?」

「そうよ。わたしに限っては一週間ずっと」



 苦笑しか出来ない鏡花の回答だった。

 たしかに、初見のひとはこの校舎を怖がるだろう。普通だ。

 どれ。面白い話を聞かせてやろう。



「そういえばさ、新しい学校が建てられている敷地って、大抵訳有りなのは知っているか?」

『え?』



 お。知らなかったようだな。よし、話してやろう。



「こんなにでかい建物を公共のものとして建てるんだ。莫大な費用がかかってしまう。安い設備にすると生徒達の勉学にも支障をきたし、だからと言って、欠陥だらけにして安上がりの校舎を作るわけにはいかない。だから経費を少しでも削れるように、必然的に安い土地……訳有りな土地に建てるしかない。これは警察署や病院にも同じことが言える。そして……この学園にもな」

「へ、へぇ……」

「よ、よく知っていますねぇ……」



 よしよし、喰らいついてきたな。



「じゃあ、訳有りな土地とはなにか? さすがに地盤沈下とかそういう欠陥的な土地じゃない。じゃあ、どういう土地だと思う?」

「さ、さぁ……」

「なんですか……?」

「それはな……」



 雰囲気が出るように一拍開ける。



「元々墓地だった土地さ」

『!!!』



 それを聞いて、鏡花たちの顔が一気に凍りつく。……面白いから続けてやろう。



「だから、学校の怪談や七不思議という物は意外にガセじゃなく本物のケースが多いんだ。トイレの花子さん、誰もいない音楽室で流れるピアノの音色、あの世と続く鏡、走る人体模型、目が光る美術室の石膏像、人霊……とかな」

「ふ、ふん。そ、そんなの……迷信よ、迷信」

「そ、そうっすよ……そんな非科学的なもの……」



 ……ビビってるビビってる。面白いからもっと言ってみよう。



「そういえば、こんな噂を知っているか?……消えた校長」

「え、えぇ……」

「このまえ、先生に教えて貰いました……」

「実はな……その噂はマジだったりするんだよ……」

『!?』

「五十二年前、この学園の三代目の校長先生が失踪したんだ。原因は不明。ただ言えるのは、その校長がいなくなって生徒も教師もせいせいしたことだった」

「ど、どうして?」

「なんでもその校長。殺人の前科があったらしいんだ。名前を変え、自分の友人の教頭のさらに弱みを握って無理矢理就職したんだ。当時はこの学園は進学校ではなかったし、出来たのも最近で伝統がない、ほぼ無名校に近い学園だったから警察も注目していなかった。しかし……」

「し、しかし……?」

「その校長は……女子生徒の弱みを握っては性的暴行をしていたんだ。その数は二十人にも及ぶ」

「な、なんてやつ……」

「当然、その噂もミックスされ、その校長先生はたちまち学園の嫌われ者になった。そんなある日。その校長は忽然と姿を消したんだ」

『!』

「警察に捕まった、被害にあった女子生徒の彼氏に殺された、世間体に耐えられず蒸発した……などと、さまざまな噂が流れたんだが、一番に噂されたのがこの噂だ」

「な、なに……?」

「どんな噂なんですか……?」

「……前に言ったように、この学園の土地も、元々は墓地だった。……そう、墓地だったんだ」

「だ、だから……なによ」

「覚えているか? その校長は前に殺人の前科があったって」

「……!」

「ま、まさか……」

「そのまさかだ」



 涙目になりつつある鏡花と琴美に、ニヤッと笑って答える。



「埋められていたんだよ……そいつに殺された、少女が……」

『!!!!!』



 最上級に驚き、涙目になるふたり。目をパッチリ開けていた。



「少女は校長の全く反省していない様を見て……校長をあの世に連れて行った。これがこの学園の七不思議のひとつ『消えた校長』の元ネタだ」

「………………」

「………………」



 あらら、放心状態だ。

 このふたり、こういうオカルト話に弱いのかな。まぁ、いいや。面白かったし。



「……ん?」



 なんだ?



「どうしたのよ、俊輝」

「しっ」



 聞いてきた鏡花を制する。

 ……聞こえる。なんだこの音は、上からだ。…………ッ!



「鏡花! 今何時だ!」

「え!? えっと……十時半……十秒前。……!」



 やばいやばいやばい!



「みんな! 走れ! この校舎から出るぞ!」



 俺は叫び、その言葉に反応して全員が走る! ヤバいぞ! これはまずい!



「……今、半になったわ!」



 ヒュンッ!

 鏡花が叫んだ瞬間……天井からひとりの人間が出てきた! く、クソ! そっから来るのかよ! 急襲だ!



「ぐはっ!」



 そいつは一歩出遅れた鏡花に鋭い手刀を入れる!

 鏡花は思いっきり吹っ飛ばされた!



「この……はぁあッ!」



 吹っ飛ばされた鏡花は素早く受け身を取って、素早くそいつに近づいて近接格闘を繰り出し戦う。



「琴美! こっちに来い!」

「は、はい!」



 俺は琴美をこっちに来させ、イヤホンマイクで全員に呼びかける!



「全員に告ぐ! 現在校舎一階出口付近で急襲! 応援を!」

『えっ!? そっちでも起こってんの!?』



 すぐ返ってきたのは樹里のそのセリフだった。な、なに?



『こっちも現在応戦中なの! 外で!』

『こっちは綺羅! 二階から外に行くね!』

『ボクは俊輝くんのとこへ向かう! 少し待っててくれ!』



 優稀菜と樹里は戦闘中! 綺羅先輩はそっちの応援で、龍侍さんがこっちに来る! それまでの辛抱だ!



「鏡花! 身体を左に傾けろ!」

「!」



 俺は鏡花に指示すると鏡花は素早く反応してくれる! よし!



「はあぁッ!」



 俺はそいつの頭に向かってロールキックを放つ。



「いい蹴りだな」



 そいつはそれだけ言うと、簡単に俺の蹴りをかわしてしまう! な、なに!? 今のはベストなタイミングだったはずだ! ってことは、こいつ! 相当マズい!



「そ、その声……まさか……」



 琴美が目を見開いて呟く。……やっぱり。そうなのかよ!



「よう、琴美。ここずっと家に帰らないでどこほっつき歩いているんだ?」

「……あ、兄貴!」



 琴美がそう漏らす! ちっくしょう!



「鏡花! 一旦距離をとって琴美を守るぞ! 危険だ!」

「了解!」



 俺たちはすぐにそいつから離れ、琴美の傍に寄る。



「いい判断だね。下手なマフィアよりもよっぽど凄いよ、お兄さん、お姉さん」

「あんがと」

「誇りに思わせていただくよ。……瀬良順平君?」

「ふふふ、どうも。元十番隊隊長十七夜鏡輔こと杉並俊輝さん? 妹がお世話になっています」



 顔がようやく見えた。

 それは結構なイケメン顔だが、イタズラが好きそうな無邪気な子供っぽいさもある男子生徒だった。

 ……俺の正体に気付いている。



「兄貴! なんで……なんでこんなことするのさ!」



 琴美が順平に向かって叫ぶ。

 しかし、順平は笑うだけだった。



「琴美。俺たちはSICの味方じゃない。なんでも屋、だ。つまり依頼に答えるのが俺たちの仕事」

「つまり、なに? これは仕事なの?」

「それはそっちで考えてみろよ」

「ふっざけんな! アタシに殺意的な視線で見ていたのはやっぱり兄貴たちだったのか!?」

「そうだと言ったら?」

「どうして!? どうしてアタシを狙っているの!?」

「だから自分で考えろって」

「ふざけんな!」



 冷静な順平の言葉に琴美は怒りをマックスにする!



「琴美、頭を冷やせ」

「シュンくんは黙ってて! これはアタシと兄貴たちとの――」

「琴美ィッ!」

「…………ッ!」



 ……また、怖がらせちゃったな。



「ゴメン、琴美。だが、少し落ち着け。な?」

「は、はい……」



 頭を撫で、落ち着かせる。ったく、なんで俺はこんなに怖がらせちまうんだ。



「さ、さすが、元隊長。怖い怖い」



 順平も少し頬を引きつらせている。……怖かったのか?



「おっと! 厄介なのが来た! もう逃げよ! じゃあな、琴美! また今度、会おうぜ!」

「ちょ、ちょっと! 待って!」

「逃がすか! 鏡花!」

「あいよ!」



 俺と鏡花が順平に駆け寄る、が。



「ははは! ばいばーい!」



 笑いながらサングラスをかけ……なにかを投げる。……あ、あれは!



「みんな! 伏せろ!」



 俺が言った途端、そのなにかが弾け、カッと光を放つ! 閃光弾だ!

 光が止んだ時には、やつは消えていた。逃がしたか。



「ボクが来た瞬間逃げ出したねぇ……まったく」



 龍侍さんが俺の立っていた。……そうか。このひとが来たから逃げ出したのか。

 たしか、歩美言ってたな。

 絶対兄妹のふたりは龍侍さんに似ている、と。

 似ているから苦手らしい。龍侍さんはむしろ相性がいいらしいけど。



「まったく。変な罠にひっかがって遅れちゃったよ。綺羅ちゃんのところの明美さんも逃げちゃったし、まぁ、犯人がわかったからよしとしようか」



 そうか……。あっちで樹里たちと応戦していたのは、やっぱり妹の明美さんか。



「……なんで……」



 いまだに信じられない様子の琴美。……やっぱり、辛いか。



「琴美。あなたを重要参考人にするわ。少し、付き合って貰うわよ」

「鏡花ちゃん。琴美ちゃんを少し、休ませてやったらどうだい? 聴取はこれからじゃなくていいだろう?」

「ダメです。相手は琴美を狙っている。今すぐにでも、琴美からあのふたりのことを聞き出さないとまた琴美が襲われますよ」



 鏡花の龍侍さんへの反論に俺は少しイラついてしまう。



「鏡花、落ち着け。流石に酷いと思うぞ。琴美だって疲れているんだ。主に精神的にだ。今は休ませよう。琴美を守るのが俺たちの役目なんだ。襲われたら俺たちが守ればいいじゃないか」

「あんたはなにを言っているの? 相手は絶対兄妹よ? 簡単に守れるわけないじゃない。むしろ、下手したら死者が出る可能性があるのよ? 一刻の猶予もないわ」



 た、たしかにそうだが……。鏡花。ちょっとおまえ、琴美に対して冷たすぎるぞ。どうしちまったんだ。



「琴美もいいわよね?」

「……鏡花さん……すいません……休ませてください……」

「なに言ってんの? あんたは彼らの義理とはいえ妹。あんたが話してくれないと、彼らの目的やメッセージが伝わらない。この事件は解決しないわ」

「……お願いします。明日は休日です。その時に話します。……だから」



 弱々しい琴美の言葉。しかし……。



「ダメよ。今すぐ。今すぐ吐いて貰うわ。こっち来なさい」



 問答無用でつららのように冷たい鏡花。

 琴美の腕を乱暴に掴む。



「いっ、いやっ……やめて……」

「鏡花! いいかげんにしろ!」



 耐えられなくなった俺はいやがる琴美を鏡花から引きはがして俺の後ろに隠し、鏡花の肩を掴む。



「どうしちまったんだよ鏡花! らしくもねぇ!」

「俊輝は黙ってなさい!」

「黙っていられるか! こんなにいやがっているんだぞ!? 琴美だって被害者だ! おまえがやろうとしているのは琴美のためなんかじゃない! ただの拷問だ!」

「ふざけないで! 拷問ですって!? あんたに何がわかるのよ!」

「なにもわかんねぇよ! だから訊いているんじゃないか! どうしちまったんだって!」

「今聞かないとこの子はまた黙っちゃう! 心を閉ざしてしまうのよ! この子はこういう時に自分の言いたいことを素直に言えない超不器用なのよ!」

「……なんだと?」

「あのときもそうだったわ! わたしが琴美を連れ出したあのときだって――」

「も、もうやめてください!」



 鏡花がなにかを言おうとした時に、琴美が大声を上げる。



「も、もう……やめて……アタシは……アタシは……っ」

「はぁ……まったく」



 震える琴美に龍侍さんが背中をそっとなでる。



「鏡花ちゃん。琴美ちゃんの聴取は明日。今日はもう、無理だよ。キミの言いたいこともわかるが、琴美ちゃんは精神状態的にキツい。休ませてあげよう」

「……はい、わかりました」



 すごく。すっごく不機嫌そうな顔で返す鏡花。



「よしよし、それでいいんだよ。だいじょーぶ。あのふたりはすぐには襲ってこないよ。もうちょい、様子を見てからじゃないかな」

「どうしてわかるんですか?」



 俺は龍侍さんに訊く。



「ボクはね、以前、瀬良瀬良順平くんと戦ったことがあってね。大体わかるんだよ」



 ああ。そういえばそうだ。龍侍さんは既に戦闘経験者だったな。



「じゃあ、全員に連絡して。今日はもうお開き。解散だってね」

「は、はい」



 俺は龍侍さんの指示に従い、全員に帰還するように報告を入れた。

 こうして……この夜は明けていった。







             To be continued

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