―第玖章 銀色のリビングトゥギャザー―
「あぁーっ、もう! なんであんたと同じ家に住まなくちゃいけないのよ!」
先輩方と別れた帰り道。
家に向かって歩く俺の隣で鏡花はぼやいていた。気分は、恐らく最悪に近いだろうね。
「そう言うなよ。俺だって抵抗はあるんだ」
一応言っておくが、別に鏡花が嫌なやつだからとかそういう問題ではない。主に、その……男女のうんたらかんたらとか、そういう意味での抵抗だ。
「じゃあそう言えばよかったじゃない!」
「ぶっ!」
鏡花のとんでもない言葉に、俺は思いっきり吹きだす。
「おまえ話聞いてなかったのか!? そんなこと言ってみろ! 俺の人生終了のお知らせが流れるぞ!」
「そんなこと知ったことないわよ!」
「なんて自分勝手なやつだ! そういうおまえこそ、そう言えばよかったろ!」
「ちょっ! そ、そんなこと言ったら……ねぇ?」
「そういうことだ」
俺たちはあの話を断った途端に、お互いにヤバい目に会う。
そういう風に仕組まれていたのだ。……先輩方、笑顔で恐るべし!
「そ、そうね。それは、ヤバいわよね。ご、ごめんなさいっ。わたし、まだ動揺していたみたいで……」
「いや、いいって。こんな話、最初はみんなそんな風になるだろ? 特に女子は。大丈夫だ、安心しろ。うちには家事全般が得意な妹がいるから」
「あれ? ご両親は――ああ、なんでもないわ。ごめんなさい」
「ん。ありがとな、鏡花」
だいぶ落ち着いたらしく、普段の鏡花っぽくなってきた。俺の両親のことを不用意に訊いてしまったことに素直に謝るようになってきているし、もう大丈夫だろう。
「質問してもいいか?」
「なに?」
俺は鏡花に質問する。
「おまえの正体はなんだ? さっきおまえ、拳銃持っていたろ?」
「! あ、あぁ……それは、ね……」
やっぱりそうなっちゃうよね。
「ああ、無理しなくていいぞ? 迂闊に喋っちゃいけないことだと思うしさ」
「え、ええ。わかったわ。いずれ教えてあげる。多分それは、近い将来だと思うけど。それよりさ。まだ、着かないの?」
「ん? ああ、もう着く。ほら、あそこだ」
忘れてた。俺たち帰る途中だったね。
「あそこね。わかった。改めて言うわ。お願いね」
「な、なんだおまえ。やけに潔くなったじゃないか」
「だって、いやでもあんたのとこに住むんだし。挨拶はするもんでしょ」
律儀なやつだな。
「あっ、そういえば……」
鏡花がなにかを思い出したらしく俺に訊いてくる。
「ねぇ、今、思ったんだけどさ」
「おう、なんだ?」
鏡花が眉を寄せて俺にこう訊いてきた。
「なんであんた、あんな時間に学校にいたの?」
……。…………。………………。……………………あ。
「し、し、し、しまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!」
俺は近所迷惑だとわかっていてもこう叫ばずにはいられなかった!
そうだよっ! 何してんだ俺! 俺、ゲームを取りに行ってたんじゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!
「うっわ、めっちゃ叫んでる! そ、そんなに大事なことだったの?」
「…………うん」
なんてこった!……くそぅ!
ガクリと崩れ落ちる俺。
「……えっと……あの……なんだかわかんないけど、一応謝っておくわね。ごめんね?なんかわたしが悪い気がするからさ。今度なんか奢るから。ね?」
沈む俺に、優しく背中を撫でてそう言ってくれる鏡花。……いいやつだなぁ。
鏡花の優しさに癒された俺は、鏡花を連れて家に帰宅した。
「おーい、歩美ー。ただいまー」
俺は歩美を玄関に呼び出す。
「はーい、おかえりなさい、兄さん。随分遅かっ――あれ? お客さん?」
二階から降りてきた歩美は、俺の隣にいる鏡花を見て首を傾げた。
「ああ、こいつはアメリカからうちのクラスに急遽、転校してきた日系の留学生だよ。俺がコンビニに行ってるときに偶然遭ってな。ホームステイ先が先日引っ越したようで学園の寮を使おうと思ったらしいんだけど、今日の噂で怖くなっちゃったみたいでよ――」
「あ、あんた、べ、べつにそんなのっ、怖くなんかないんだからねっ!」
……鏡花、ナイスツンデレだ。おかげで、嘘が本当っぽく聞こえるよ。まぁ、本人は天然らしいし、言わないでおこう。
「だからさ、うちに住まわせてやろうと思うんだが、おまえはどうだ、歩美?」
「はぁ、そうですか……わかりました」
少し嫌な顔をしながらも歩美はどうやら納得したらしい。……よく、こんな嘘つけたもんだ。自分自身ビックリだよ。
「はじめまして。杉並歩美です」
ぺこりと行儀よく自己紹介する歩美。鏡花も歩美に自己紹介をする。
「今日からよろしくね、歩美さん。十七夜鏡花です」
「鏡花さんですか。……え? 鏡花さん?」
名前を聞いた途端、歩美の顔が驚きの色に包まれる。
……あれ? どうした歩美?
歩美が恐る恐る俺に訊いてきた。
「ね、ねぇ、兄さん? も、もしかして……学校に、行きました……?」
…………え?
「な、なんで、それを知ってんだ?」
「え、えっと……それは……」
どうも歩美の返事がぎこちない。
この会話を聞いた鏡花が歩美に話しかけた。
「……やっぱり。名前を聞いてもしやとは思ったけど……そうなのね、十二番隊の杉並歩美さん?」
「……………………はい」
なんだなんだ? どうしたんだ、ふたりとも。
「知り合いか? 歩美、鏡花」
そう、俺が訊くと鏡花が嘆息しながら歩美に話し掛ける。
「……ねぇ、もう、言ってもいい? あんたも兄貴に隠し続けて、疲れたでしょう? 大丈夫よ。あんたの兄貴は、万引き犯を逃がしちゃうほど、甘っちょろい優男だから」
「……………………はい」
軽く俺を侮辱して歩美を説得させたらしい鏡花は、俺に言う。
「俊輝。あんた、訊いたわよね。わたしの正体について」
「あ、ああ」
なんで今、そんなことを?
「教えてあげる。わたし、いや――」
ちらっと歩美を見て鏡花は台詞を訂正する。
「わたしたちの正体を、ね」
……! わたし「たち」だって……?
歩美は横で歯を食いしばっているが、鏡花が構わず重い口を開いた。
「わたしたちはね……ううん。さっきの先輩方も、二年前にできた日本とアメリカの国際組織の一角、SICの者よ」
To be continued




