14・共闘
「おい、ダリオ、女性にそのような物言いはどうかと思うぞ」後ろから、さらに上背があり体格がいい方の男性が進み出てきた。濃い金髪に明るい青い目で胸板も厚く、格好も相俟っていかにも騎士然とした人だ。
あら、こっちの人少しは会話ができそうかな?
「失礼した。わたしはアルノルトという青晶級冒険者だ。こいつはダリオ。二人で組んで動いている」
ダリオと呼ばれた人の肩に手を置いてアルノルトさんが言った。
「今回お互い、ここまで移動した日数や手間を考えて、協力するというのはどうかな」
落ち着いた声でそのまま村役さんを振り返って付け加える。
「あちらとこちら、双方に依頼を出した上に、依頼取り消しが遅れた事も多少問題があると思う。ここは依頼金に少し上乗せしてはどうだろう。四人で行くのなら、調査に加えて討伐も可能だと思うが」
「では、申し訳ないが暫くお待ちください。一度砦に行ってギルドへも連絡して決めてきます。おい、お客様にお茶をお出ししててくれ」
村役さんはわたし達を応接室に案内しながら、奥に声をかけ、椅子に促してくれる。
「一刻もかかりませんのでお待ちください」
そう言って慌てて出て行った。
大変そうだなぁと後ろ姿を見送りながら、ひとまず椅子に座って待つことにする。
ここの建物は王都の家々と同じような石壁を組んだ頑丈そうな作りで、窓だけ木枠だ。椅子も木で組んであって座り心地はあまり良くない。でも外から見た他の家は、腰辺りの位置までは石造りだけど、その上は木造みたいだった。柵もあったけど、そこまで頑丈そうでもないように見えたってことは、そんなに魔獣の被害はないのかな。あ、そうか、砦の壁があるんだ。なんて、少し逃避気味に思考を飛ばしていたのに。
「あんた魔法師?役に立つのかねぇ」
赤銅色の髪の、確かダリオとか言ったっけ、無駄に長い足を偉そうに組みながら宣った。
……今わたし、ちょっとピキってなったよ?
少々剣呑な顔になってたんだろうわたしの、横に座ってたリラがそっと顔を寄せて耳元で囁いた。
「あのひと達、歪んでないよ」
――なんですって⁉︎
ちょうどお茶が運ばれてきたので焦りは顔に出なかったと思う。
お茶は、いわゆる紅茶とは違って、ハーブティーのような、香草を混ぜて調合してあるようで、宿屋で飲んだのともまた違った味わい。温かくて優しい香りが喉を通っていくのを感じて心を落ち着ける。
「わたしは〝アンタ〟では無く、エリカという名前がありますよ」茶器を口から離しながら目を眇めてダリオを見た。
「そうだ。失礼だぞ、その態度は」
向かい側でお茶を飲みながらアルノルトさんも横目でダリオを見ながら嗜めてる。そうそう。もっと反省したまえ。
「だってさ」気不味そうに後ろ手で軽く頭を掻きながらダリオが呟いた。
「あっちの嬢ちゃんは狩人だろうけど、こっちの嬢ちゃんは見るからに細っこいじゃないか。グラウルの群れとかもし居たら危ないっつーか」
思わずぱちぱちと瞬きしてしまった。
えー? えええー??ツンデレなの?心配してたの?いやわからんって。
「言い方があるだろう。それでなくてもお前、言葉が足らずに嫌われやすい」
「いいんだよ、俺は。誰にでも好かれたいわけじゃないんでね」
なんだか二人で言い合いしてるし。
「わたしはリラ、アルネ村のリラ。狩りと罠、採取が得意で灰晶級。こっちはエリカで今の所魔法師?同じく灰晶級」
ようやくリラが口を開いた。多分今まで動向を見ながら観察してたんだろうな。
「あなた達二人とも青晶級?ならちょっと安心だね」にこっとリラが笑うと、急に場が落ち着いた気がした。
茶器を、音も立てずに綺麗に卓に置いて、小さく咳払いした後にアルノルトさんが喋り出した。
「本当に失礼した。改めて、わたしはアルノルト。敬称は要らない。戦闘では主に盾役をやってる」
そういえば壁際に大きい盾と大剣が立て掛けてあるなと思っていたけど、この人のものか。わぁ、あれを軽々と扱えるなら相当体力も腕力もありそう。
そして隣を指して付け加える。
「こっちはダリオ。前衛だ。双剣を使うし、魔力もそこそこあるが魔法師では無い」
うーん。この流れだとこのまま四人で行くことになりそうだよね。大丈夫かなあ。でもリラが〝歪んでない〟って言ってたしなぁ、なんて考える。ただ、盾役が居て、前衛がいて、遠距離と魔力の見えるリラが居て、後方支援としてわたしが居る、となると、あら?バランスはいいな、これ。問題は連携というかチームワーク?ううむ。
そうこうしているうちに村役さんが帰ってきた。
「お待たせしました。なんとか連絡が取れたので」
扉から入ってきながら話してくれた。
「どちらかお二人なら最初の銀貨二十枚、四人で行ってくださる場合、調査内容によりますが五銀を追加。討伐まで含めたら四十銀、もし中級以上の魔獣が居たらギルドでも補助が出るそうで、五十銀を出すとのことです」
それは大きいな。横を見たら、
「せっかくだから青晶級の動きを見せてもらおう?」薄く笑ってリラが言う。
あ、この子もちょっとダリオの物の言い方に引っかかってはいたんだなと気がついた。
「そうね。勉強させてもらいましょ」わたしもダリオの方を向いて続ける。
「冒険者の先輩としてよろしくお願いしますね。頼りにしますので」
面食らった顔をして目を見開いたダリオとは違って、アルノルトさんは鷹揚に頷いた。
「こちらこそよろしく頼む。冒険者に魔法師は少ないので助かる」
村役さんに魔窟の場所を確認して、書類にもちゃんと署名した。控えはわたしとアルノルトさんがそれぞれ一枚ずつ仕舞い込む。件の場所はここから歩いて一刻程だとか。
ダリオは双剣と聞いてた通り、左右に剣よりは短いが短剣というにはやや長い、少し湾曲した剣を腰帯している。一方、大楯と大剣をしっかり装備したアルノルトさんは、なんかもうでっかい、という感じ。余計なお世話なんだろうけど。
「あの、アルノルト……?その装備で歩くのは大丈夫なんですか?」敬称無くすの慣れないな。でもつい聞いてしまう。
「ありがとう。わたしは魔力が無い分、鍛えたんだよ」柔らかい笑顔で答えてくれた。やはりこの人は言葉を交わしやすいし、さっき見ていた感じ、育ちが良さそう。そういえば何気にダリオも所作が綺麗だったな。
こちらの世界で冒険者や街の人を見ていて、なんとなく粗雑だなとうっすら感じていた立ち居振る舞い。この二人からは感じられないんだよね。いや、ダリオの態度は悪いけども!
「わたしはそこそこ魔力あるので、お水は出せます」あ、これだと水をちょろちょろ出せるだけみたいに聞こえちゃう。咄嗟に出た日本人の謙遜気質、恐るべし。
「へえ。水は出せるんだ。じゃあ怪我や返り血はすぐ対処出来るわけか」すかさずダリオが突っ込む。言い方!
「わたしは少し魔法補助しながら射れる」リラが付け加えた。
小さく口笛を吹いてダリオがリラの背の小型クロスボウをまじまじと見ている。「なるほど、ここに刻印入りの魔石を嵌めているのか」
あ、ちゃんとそういうところは見てるんだ。やっぱり初心者のわたしなんかとは違うんだな。そこは尊敬する。
「なるべく早く確認しよう。どういった場合でも明るいうちに対処できた方がいい」
そうアルノルトが言うのを聞いて、わたし達は館を出た。
魔窟が発見されたのは少し前だそうで、小さな土砂崩れが起こった際に出来たとか。特に何もない浅い穴だと放置していたら、いつの間にか何かが住み着いたらしく、近くの畑が少し荒らされ出した事で問題視し始めたらしい。小さな木立のある、村の広場から見たら真南にあたる場所で畑からは結構離れた位置。村役さんはそう説明してくれた。
「一番前はわたしが進むから、遅れないよう二人は後ろから着いてきてほしい」
アルノルトのその指示に素直に従いながら向かうと、その魔窟があるらしい木立が見えてきた。意外に木々が密集している。
魔窟ってどんなものなのか。慎重にわたし達は足を進めた。




