第三話「蛇を治そう」
意気揚々と治療しようとしたが、一つ問題が発生した。
まず、蛇に水をぶっかけたせいで、蛇の怪我してるところから血がめちゃくちゃ出てきた。
別にこれは問題ではない。すぐに移動させればいい。
問題はここからだ。蛇を移動させようと引っ掴んだら、血がべっとりと手についた。
最初は特に気にせず地面に適当に擦り付けて放置していた。
そして、治癒魔法を会得しようとうんうん唸っていたら、手に痛みが走った。
びっくりして手を見ると、手がジュクジュクと爛れていたのだ。蛇は体液も毒だったみたいだ。完全に失念していた。
もう大焦りである。爛れはどんどん広がっていって、痛みが増す。半泣きで腕を振り回し、息を吹きかける。当然意味はない。
最終的に魔法に頼ろうと、爛れ続ける手を魔力で一旦覆う。
そして全力で毒が消えるよう祈る。体育祭の前日に雨を願った時より強く祈る。どういうイメージをすれば毒が消えるか見当がつかないからとにかく祈る。謎の声にも祈っとく。
何十分もそうしていた。手の痛みは酷くなるばかりである。
諦めかけていると、急に手を覆っている魔力が俺の意志に反して膨張し、体全体を包みこんだ。
そして、体の中が掻き回されるような感覚に陥る。かなり不快な感覚だが、痛みはない。止め方も分からないから大人しく身を任せた。やがて、膨張した魔力が収まり、俺に吸収されていった。
手の平の様子を伺うと、グロテスクに爛れたままだったが、それ以上広がっていくことはなかった。
ただ祈っていただけなのに、毒を消すことに成功したらしい。
幸い爛れたのは左手で、俺の利き手は右手なので、痛い、キモいことを除けば特に不便はない。
蛇を治したいだけなのに、なぜこんなに苦労しなければならないのか。
しかし、治癒魔法のヒントは得られた。
さっき自分の手に施したように、蛇の体を魔力で覆う。んで祈る。
解毒願掛けが上手くいったんなら治癒願掛けもいけるだろう。頑張れ頑張れ。
粘り強くその状態を維持する。
すると、魔力が淡い緑色に輝き出した。
「おぉ!!」
緑色=回復、常識だ。青も意外とあるか?
祈るだけで会得できるなんて、魔法って案外イージーなんだな。
爛れた手にも治癒魔法をかけておく。気持ち痛みが引いた。綺麗に治るといいな。
祈ってた時間より長い時間が過ぎた。
蛇の傷の状態を確認してみる。
「え…?治ってなくね…?」
蛇の体には切り傷がしっかり残っている。
もしかして、治癒魔法初級だと擦り傷ぐらいしか治せないのか?
俺の左手もグロテスクなままである。
魔力を消費してる感覚はあるし、手の痛みだけは薄れているから効果はある信じたい。
もう少し粘ってみるか。
辛抱強くなんちゃって治癒魔法をかけ続ける。魔力が底を尽きる様子はない。謎の声ありがとう。早く迎えに来てね。
蛇の傷は少しだけ浅くなっている。ジワジワと治癒できてるらしい。
HPバーを1ずつ回復させてる感じなんだろう。
ずっと使ってるんだし、ちょっとぐらい回復量が増えてるといいな。
不意に、蛇の体が微かに震えた。
蛇は意識を取り戻したらしく、ゆっくりと頭を上げた。そして俺と目が合う。
まだぼんやりしているのか、じっと見つめてくるので曖昧に微笑み返す。
「シャアアァッ!!」
「ギャーッ!?」
少し間を置いて襲い掛かってきやがった。
油断していた俺は腕を噛まれる。くっそ痛い!!
外そうとしても腕に完全に巻きつかれ取れない。生物を殺す事に慣れてやがるこいつ。
某動画閲覧アプリで毒蛇に噛まれた時の対処法みたいなのを見た記憶があるが思い出せない。蛇が出るような場所に行く趣味がなかったから必要になる時がくると思わなかった。
というか、腕に巻き付かれた時の対処法って紹介されてたか?
とにかく、首に巻きつかれないうちになんとかしなければ。
無事な方の手を蛇にかざし、水の玉を生み出す。
水の玉が蛇の頭を覆い、息ができなくなった蛇はゴボゴボっと泡を吐き出しながら俺から口を離した。
故意に苦しめるつもりはないので、水の玉を解除する。そして、再び噛まれないよう素早く蛇の首を掴む。
蛇は無茶苦茶に威嚇してくる。すっごい怖い。
蛇の体はまだ俺の腕に巻きついた状態なので、思いっきり絞められていて骨がボキっといきそうだ。力強いこいつ!
しれっと胴体も絞めてきやがる。
モタモタしてたら蛇にぐるぐる巻きにされてしまう。
「やめてくれよぉ!!!」
やけくそで叫ぶと蛇は動きを止め、驚いたような表情をした。
そっか、俺今赤ちゃんだもんな。急に喋ったら驚くよな。
だがしかし、この蛇には赤ん坊が喋って驚ける程度の知能があるわけだ。
単純におっきい声に驚いただけかもだけど、あの鉄鷹とやりあったんだ。相当肝が座っているだろう。
対話を試みてみるか。
「頼む、言葉が通じるなら離してほしい」
蛇は首を横に振った。
通じてるっぽい。スゲェこの蛇超頭良いじゃん。
蛇は尻尾の先で地面に何か書きだす。
『お腹が空きました』
蛇が書いていたのは文字だった。
見たことのない文字だが、なぜか読める。自動翻訳スキルみたいなのを持っているのかもしれない。
文字も書けるのかこの蛇、天才かよ。
妙に丁寧な文体だ。
「じゃあ俺のこと食べるの?」
蛇は力強く頷いた。そして口をガバッと開ける。
「待て待て待て。食うならもっと肉の付いた奴の方がいいだろ?な?さっきの鉄のやつとかさ」
こいつが食えるかは知らん。
蛇は小首を傾げキョロキョロと周りを見渡してから再び地面に書き出す。
『ここにありませんよ?』
「移動してきたんだよ。戻れば残ってるんじゃないか?」
別のモンスターに食べられてても、結構大きいし無くなってはないはず。
『案内してください』
「いや、あっちの方に…」
「シャアッ!」
「はい」
全快してないくせに元気なやつだぜ。
ということで、俺は身体に蛇を巻きつけた状態で鉄鷹の死体のところへ戻ることになった。
蛇を引きずってきたおかげで、血液の道標ができていて、それを辿る。
移動中の蛇は大人しく、舌をチロチロだしながら俺を監視している。
歩きながら噛まれたところを治しておく。
痛いなーとわざとらしく騒いだら首を絞められそうになった。
調子乗ってすみません。
ついでに蛇と手も治す。蛇の傷はほとんど良くなっており、鱗が生えてきてくれれば完璧だ。
やるなら最後まで完璧に。俺の座右の銘だ。今作った。
治癒魔法を使ってるときは緑色に光るから、緑色発光している赤ん坊と蛇、というなかなか面白い絵面になっている。
虫とか寄ってこないよね?
鉄鷹の死体のところに着いた頃には、蛇の体はテルンテルンに綺麗になっていた。
かなり時間がかかったので結構達成感がある。
俺の手も大分マシになった。もう痛くない。
鉄鷹の死体はしっかり残っていた。
しかし先客がいる。
体は真っ黒く、瞳は不気味にグルグルと赤く光っている、謎のモンスター。
パックリと割れた大きな口で、鉄鷹の死肉を引き千切るようにして食べている。
一匹だけではなく、おおよそ十匹程度が鉄鷹の死体に群がっていた。
「うげ、あれじゃあ食えないかもなぁ」
勘弁してくれ。
あれがダメなら俺が食われるんだぞ。
蛇は俺の体から降りた。そして
『問題ないです』
と書き残し、黒い群れに突っ込んでいった。
おいおい、せっかく治したのにまた怪我するつもりかよ。せめて死ぬなよ。
とかなんとか思いながら見てたら、普通に蛇が完勝した。無傷で。
絞めたり噛んだりして無双してた。十匹もいたのに。
蛇は自分で仕留めた黒いのを食べ始めた。
遠くから観戦していた俺は蛇に近づき、一応怪我がないか確認する。
「鷹は食わなくていいのか?」
『こっちの方が美味しいので』
蛇って味気にするんだ。
相当腹が減っていたのか、蛇は黒いのを六匹食べた。どこに入っていったんだろう。
蛇の食事を見てたら俺も腹が減ってきた。
蛇は黒いのを俺に譲る気はないらしく、残る四匹を自分の身に寄せると、七匹目を食べ始めた。
黒いのは柴犬ほどのサイズがあり、蛇はそれを噛みちぎって食べている。
丸呑みするイメージがあったから結構驚いた。
十匹平らげた蛇がジッと俺を見てくる。
「なんだ?まだ足りないのか?まだこっちが残ってるぞ」
俺が鉄鷹を指差すと、蛇は頷いて鉄鷹にまで手を出し始める。
まだ食うんかい。




