プロローグ『一次不停止ダメ絶対』
初投稿です。
誤字脱字、日本語がおかしい等ございましたら教えていただけると幸いです。
特別な者になりたい。
きっと人間みんなそう思っている。
特異なものを口で否定しながら、心のどこかでは憧れてる。
他の人より秀でているところを無意識のうちに探して、自分は他の人と違う、というちんけな優越感に浸る。
自己顕示欲と承認欲求を拗らせて、でも万人に受け入れられるのは一握りの人間なんだと気づいて、自身にそんな才能がないと理解させられて、あっさり諦める。
それを後悔したりしなかったりしながら天寿を全うする。
俺はそうなりたくない。
何か大きなことを成し遂げてみたい。誰かの記憶に残るようなことをしたい。
夢を夢のままで終わらせたくない。
でも、そんなことを叶えられる素質が俺にはない。
夢を語れる度胸がない。粘り強さがない。頭が足りない。
結局なりたくない自分になってしまう。
今日だって、笑われるのを怖がり本音を隠して、周りに流されダラダラ生きている。
「じゃあな」
「うん、また明日」
さわやかな笑顔を向けてくれる同級生に、曖昧な微笑みを浮かべて手を振り返す。
学校はどちらかというと苦手だ。勉強自体あまり好まないし、なにより他人の目を気にしながら過ごすのは精神が擦り減る。
一人での下校にどこか開放感を覚えながら学校を後にする。
自転車に跨り、ゆっくり漕ぎだすと、見慣れた景色が流れていく。
金持ちっぽい家、古びた居酒屋、大きめのスーパー、駐車場の広いコンビニエンスストア。
適当な駐車場のあるところで親の迎えを待つ同じ学校の人を眺めながら迷いなく道を進む。
たまにアスファルトが剝がれ、ひどく凸凹とした道がある。ゴロゴロと落ちている石に車輪をとられそうになり軽く死を覚悟する。
自転車はちょっとした拍子で簡単に転んでしまう割に、ダメージがデカい。
気をつけなければ。
今日の晩御飯の予想をしていたら、十字路にさしかかった。ここはカーブミラーが設置されておらず、接触事故の隠れた名所だ。
町内会議でも、危険箇所として度々話に上がる。
まあだいたい事故ってるのはながら運転してた自業自得の阿呆だけだし、今はまだ明るい時間帯だから、多分大丈夫だ。
実際、俺は3年間この道を通っているが、1度も事故ったことがない。
いつもは標識に従い一時停止するが、今日は『どうせ誰も見てないしなぁ』と思ってそのまま突っ切ろうとした。
こういう、いつもと違うことをしてみたときに限って、その行動を後悔するような事が起こる。
俺が角から飛び出すのと、ほぼ同じタイミングでトラックも飛び出してきた。
狙ってたのか、と叫びたくなるほどジャストタイミング。
トラックと俺との距離は数センチほどしかなく、トラックのブレーキは間に合わず、俺はあっさり吹っ飛ばされた。
全身に激痛が走る。
あまりにも一瞬の出来事だったから、自分の身になにがあったのか理解するまで少し時間を要した。
バタバタと誰かが駆け寄ってきて、声をかけられる。トラックの運転手だろうか。よかった。少なくとも俺を撥ねた阿呆はひき逃げするようなクソ野郎ではなかったようだ。
勿論答えられるはずがなく、広がっていく赤い水たまりを眺めながらゆっくり目を閉じた。
『もしもし。もしもーし』
まだ声が聞こえる。
トラックの運転手も諦めが悪い。声をかけてないで119しろ119。
全身ひしゃげた感覚がしたから、助かるかは微妙だが。
『あのー、聞こえてたら何か反応して欲しいです』
今しがた鉄の塊でぶっ飛ばした少年が口をきけるとお思いかい??
早く119しろっつってんだろ。
『心の中でもいいのでリアクションお願いします』
心の中だけじゃ駄目だろう。
負傷者の意識があるか確認するために声をかけるんだから。
どうするつもりなのか知らないが、一応心の中で返事をしておく。
(聞こえてます)
『あ、よかった。まだ生きてるんだね』
つ、通じた、だと…!?
平凡なトラック運転手が急に謎の力に目覚めてしまったのだろうか。
てか、生きてるんだねじゃねぇよ。お前のせいで死にかけてんの!飛び出した俺も悪いけどさ!!
(あの、できれば早急に救急車を呼んでほしいです。さすがにまだ死にたくないです)
『きゅうきゅうしゃ?が何かわかんないけど、治療は間に合わないから諦めたほうがいいかも。体から魂が離れかけてるし』
おいおいおいおいおいおいおい!轢いた挙句に間に合わないから諦めろ!?殺すぞ!!!
死にかけの奴にかける言葉じゃねぇよ!!
しかもトラック運転手救急車分かんないの?現世と切り離されて生きてきたのか?
トラック運転手設定盛り盛りだな。
『ん?もしかして勘違いしてる?俺は君の世界の住民じゃないよ。別の世界から気合と根性で君に語り掛けてるの』
(エェ?)
まさかの急展開。トラックの運転手が地球の人じゃなかった?いや、そもそも話しかけてきてる人がトラックの運転手じゃなくて、別の世界の人なのか。
うーん、理解が追い付かなくなってきた。じゃあこの声は誰だ?謎の声と仮名をつけておこうか。
謎の声の飄々とした物言いは、どうも冗談を言っているようには思えない。
気合と根性で別世界に干渉しているあたり、謎の声は只者ではなさそうだ。
(あなたは何なんですか?俺になにか用事でもあるんですか?)
『俺が何かは言えないかな。君には手伝ってほしいことがあるから、こうやって君に話しかけてる』
(手伝ってほしいこと?)
『うん。だから、ほんとに急な話なんだけど、俺の世界に来てくれないかな?』
おやぁ?一応確認だけしておこう。
(…所謂、異世界ってやつですか?)
『あぁ、そういうのかな?君の世界と違うことが多いかも』
(魔法とか、モンスターとか?)
『うん。詳しいね。君の世界よりちょっと危険が多いけど、魔法楽しいよ。体はこっちで用意するし、ちょっとした特典もつけるつもり。どうかな?』
少しだけ考える。まだ何を手伝うか聞かされてないが、異世界にひどく魅力を感じるし、特典も気になる。
謎の声を手伝う以上、ある程度の面倒は見てくれるだろう。外に放り投げだされなければそれほどの危険もないはず。
特典次第では、俺TUEEEも夢じゃない!断る理由がないな!
(分かりました。あなたの世界に行かせてください!)
『やった。ありがとう。さっそく準備するからちょっと待ってて』
謎の声に従い、待っていると、真っ黒だった視界に人影がぼんやりと浮かんだ。
(なんですかこれ)
『俺の化身ぐらいに思ってくれればオーケー。それでね………ア゛』
謎の声が妙な声を出す。たいてい人がこういう声を出すのは、なにかやらかしたときだ。
(あのう、大丈夫そうですか?)
『ん、んん、大丈夫、大丈夫。なんかちょっと…うん。へへへっ』
なんだか全然大丈夫な気がしない。どちらかというと大丈夫じゃなくて笑うしかないって感じだ。
『……………とりあえず、魔力はいっぱいあげるね。多くて困るものじゃないから』
謎の声がそういうと同時に、さっきまでじっとしていた化身が腕を引き千切って俺の方にぶん投げてきた。結構驚いた。
『あ、やべっ』
(は?)
やべって言ったぞやべって。明らかに何かやらかしちゃってるじゃん。
一体何をしでかした?
『便利なスキルもあげよう。追い魔力もしちゃう。フフフフフフフフ』
化身がジンワリ光る球を二つほど投げつけてくる。さらに化身は俺に駆け寄り、俺は化身を取り込んでしまった。一気に水を飲みすぎたような感覚になった。
謎の声やけくそになってない?
『えと、まずはごめんなさい』
ほうら、やっぱりなんかやっちゃってる。
(キャンセルは?)
『申し訳ないけどできないです。もう引き返せないところまで来ちゃいました』
(Oh…)
『君はこれからたくさん大変な目に合うと思いますが、強く生きてください。いつか必ず、必ず迎えにいきます』
(マジですか?本気、正気?ちょっとまっ…)
文句を言い終える前に、意識が急激に遠のく。
脳裏に、謎の声の緊張感のない声がこびりつく。
俺は…俺は一体、どうなってしまうんだ?




