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荷物を片付けていると、修弥が帰ってきた。
「梓、いるか?」
「うん。
いるよ」
ほら、やっぱり今日は戻ってきた。
そんな予感がしていたんだ。
「……梓。
お前、何してるんだ?」
「荷造り。
やっぱり私、ここを出ていくから」
「なんでだよ!?」
慌てたように、修弥は私のそばへ駆け寄る。
「婚約の話をすぐに説明できなかったのは悪かった。
オヤジを説得することに夢中だったんだ。
でも、あの話は絶対に断るから……だから、気にしないでほしい」
「違う。
婚約の話は関係ないよ?」
私は、わざと明るくふるまった。
これ以上、気持ちを悟られてはいけない。
そうしないと、修弥はまた、私のために無理をすると思うから。
「じゃあ、なんでだよ」
「私ね、やっぱり違ってたって気づいたの。
こういう場所は、疲れるんだ」
「どういう意味だ?」
軽い口調で答える私とは対照的に、修弥の声は沈んでいる。
「彼氏は社長で、高級マンションに住んで……こんな生活、私には、どう考えても重荷なの」
修弥、私を見損なって。
憎まれてもいい。
それがあなたにとって、一番いいと思うから。
私が、修弥の足を引っ張っちゃダメなの。
「修弥、ありがと。
いい夢を見させてくれて。
私は、私の世界に戻るね」
「世界って……。
梓とオレで、違うところなんてないだろ?」
「違うよ。
違いすぎる」
修弥には、何よりも大切にするべきものがあるんだから。
私じゃない人と、それを守っていって。
「ずっと前から感じてたの。
修弥といる私は、自分らしくないって。
自分自身を偽ってるって」
「……だから、出ていくのか?」
「うん。
出ていくだけじゃないよ。
……別れよう。
私たち」
修弥の表情が、固まったのがわかる。
「別れるって……オレと?」
「当たり前じゃない。
他に誰がいるのよ」
私は、わざと笑ってみせた。
「私ね、もう修弥に愛情がないの。
いろいろと疲れちゃって、好きって気持ちが失せちゃった」
私の話を聞きながら、修弥は何も言わずに目をそらした。
「だから、バイバイ。
さよなら……」
荷物を肩にかけて、私は部屋を出た。
ドアを閉めた瞬間、涙が溢れてくる。
嘘だからね。
修弥に今言ったことは、全部嘘だから。
私は、あなたが好き。
大好きで、一緒にいられるだけで幸せで、自分らしくいられて……。
だから本当は、別れたくなんかない。
さよならなんてしたくない。
でも、ダメなんだよ。
私が修弥のそばにいちゃ……。




