第一章-23. 巡礼と追跡者
坑道の果て――
行き着いた先は、不自然なほど整然とした一区画。岩にまみれた道の果てに、ぽつりと佇むそれは、まるで祭壇のようだった。
(……やっと、か)
レムナは微かに息を吐いた。疲労の蓄積により、判断力すら鈍りはじめていた。
この場所が“知っている通り”に存在するのか、どこかで間違っていたのではないかと、不安が膨らんでいた。今すぐにでもその場に座り込みたい衝動をこらえ、慎重に近づく。近くで見れば、祭壇と思われた構造物は、“寝台”としての意匠を帯びていた。
王のための――最後の安息の場。
目線をわずかに落とし、アイテムボックスから“指”を取り出す。度重なる連戦の果て、つかみ取った戦利品。
《親指》《人差し指》《中指》《薬指》《小指》
五本すべてを、ひとつずつ丁寧に寝台の上へ並べる。
そして――
静かに、空間が震えた。
五本の“指”を捧げたその先に現れたのは、完璧な静寂だった。整然と敷かれた石畳。幾何学模様が刻まれた円柱。まるで王の棺へと続く、礼拝堂のような空間。
(……ここが、“あの場所”か)
魔物の気配は、ない。殺意も、敵意も、何もない。それだけで――この塔においては、異質だった。
(……ははっ、やっぱり……歩き続けた甲斐があったな)
ようやく、休める。この場所には“王”が眠っている。門をくぐらなければ、彼は目を覚まさない。
それがゲームだったとしても、ここだけは安全地帯だった。塔の第一階層における、唯一の“安息”。
壁にもたれかかり、レムナは剣を外す。脚が、笑っていた。
座る。その瞬間――
「……っ」
ポータルが、揺れた。
レムナは反射的に跳ね起き、剣を構え直す。光の縁が歪み、空間に新たな気配が流れ込む。
現れたのは、紅の髪を翻した少女と、銀の騎士服を纏った護衛の少女。
「……っつ……!」
(なぜ、ここに――!?)
限界寸前の疲労状態にあったレムナにとって、それは予期せぬ罠に等しかった。構えた剣を下ろせず、ただ相手の一挙手一投足を警戒する。
緋色の少女は、何かを言いかける。だが、それよりも早く、騎士の少女が彼女を庇うように一歩前に出た。銀の瞳に宿る、確かな敵意。
(……やはり、略奪者か)
この塔には、魔物だけではなく人間もいる。時に、人間のほうが遥かに残酷だ。声をかける暇もなく、空気が鋭く張り詰める。
剣と声が交差する寸前。
それは、休息と戦慄の狭間――
新たな対話の幕開けであり、あるいは剣戟の予兆でもあった。




