ー13ー
「どんな魔法を使ってくれたんだい、アデライド嬢!」
国王陛下に呼ばれ、謁見の間で対面するなりこの言葉。
「なにか不手際がありましたでしょうか」
「逆だよ! シャルロット公爵令嬢のご実家が、これまでのダイヤモンドの取引を倍に増やしてくれるそうだ! 実際の契約はこれからだが、もうほとんど締結したも同然だ」
シャル様のいらっしゃった国はダイヤモンドの産出国で、ご実家のバシュラール公爵家は特に有名な鉱山をお持ちです。その質の高さが評判を呼び、どの国でも取引を望んでいるのです。もちろん交易が盛んなタリース国としても、なんとか取引を増やせないか画策しているところでした。
「バシュラール公爵家がいうには、娘が非常にお世話になった礼だということだ。これはアデライド嬢の功績、心から礼を言おう」
「いいえ、これまで堅実な取引を続けてこられた陛下たちの努力が身を結んだのです。私は何も」
私が首を振ると、隣にいた王妃殿下が慈愛に満ちた眼差しを向けてくれました。
「謙遜は必要ない。公爵が娘にひどく甘いのは有名な話だ。質の高いダイヤモンドはどの国も欲しがっている。しかもかさばらず、持ち運びもしやすい。うまく交易に使うことが出来れば、ますます我が国の経済が発展するだろう」
「王妃の言う通りだ。……それに国が富めば、それだけで避けられる災いもある」
ハッとしました。
陛下の言う通り、経済の発展と戦争は無関係ではありません。嫌なことですが、弱り、抵抗力がないと侮られればよからぬことをたくらむ国も出てくるもの。しかし逆に、国力を強くすることができれば隙を与えずにすむのです。
「無事に取引がうまくいくことをお祈りいたします」
そう、これはいいことなのです。
だから私はもっと喜ばなくてはならないのでしょう。それなのにすぐに悪いことを思いついてしまうのは、私のとても悪い癖です。
……もしシャル様が急に気持ちを変えられたら、この取引はどうなってしまうのだろう。そんな風に考えてしまうなんて……。
◇
陛下との謁見が終わり、人気の少ない廊下を歩いていると、途中で声をかけられました。
「アデライド様、お待ちください」
振り返るとそこにはあのお茶会の日、シャル様に紅茶をかけた侯爵令嬢――クロエ様がいらっしゃいました。
彼女はどこか思いつめたような表情をしています。
「まあ、奇遇ですわね」
「偶然ではありません。陛下と謁見をなさると聞いて、ここでお待ちしていたのです」
侯爵令嬢ともあろうお方が、待ち伏せまでして何の用なのか。
多分、それを聞く前からなんとなくの予想がついていました。
「シャルロット様について……お話がありますの」