ー11ー
「アデリー、一緒にお茶をしましょう!」
「アデリー、お花が咲いてるわ」
「アデリー、怖い夢をみてしまったから一緒に寝て?」
…………。
毎日、シャルロット様……いえ、シャル様がすごい。
まるで生まれたての雛鳥のように後をついてまわり、なにかと気を引こうと頑張ってくるのです。それの何がすごいかというと、これだけしつこくまとわりつかれているというのに、全然嫌だと思っていない自分がいるのです。
私は本来は静かな方が落ち着く性格で、一人の時間も楽しく過ごせます。
時々第二王子殿下が妙に絡んできて、そんな時は若干の面倒くささすら感じていたというのに。シャル様と一緒にいる時間はとても楽しい気持ちで一杯です。
こんなことって、ありえるのですね……!?
「それは、シャルロット様はお上手ですから」
家政婦長はしみじみと言いました。
ララも隣でわかりますー、とうなずいている。
「しょっちゅう話しかけてくる割に、引き際がいいんですよね。ちょっとしたことでもすごく喜んでくれて、あの笑顔でしょ。あれはモテない男はイチコロでしょうねえ」
どうやらモテない女の私はイチコロされてしまったようです。
だってもう、すごく可愛い。
「……そういえば、以前あなた達にいきなり自分の事は話さない方がいいって言っていたでしょう?」
私はふと、この間からの疑問を思い出しました。
「でもシャル様は、結構いきなりあけすけだったわ。あれってもしかして、シャル様も意外と社交下手だったりするのかしら。とてもそうは見えないけど……」
なんだそんなこと、とララが呆れたように溜息をつきました。
「何言ってるんです。人と仲良くなるのに、マニュアルなんてあるわけないじゃないですか」
「でも、貴方たち……」
「あれは人付き合いの基本の基本。どんな初心者でも失敗しない、最悪の失敗を避けるためのものですよ」
基本の基本。
初心者。
いやまあ、そうなのですけれど。
「実際、シャルロット様はアデライド様と仲良くなれてるじゃないですか。それも、とんでもない爆速で」
「た、確かにそうね」
「間違っても、あの方の真似などしてはいけませんよ」
家政婦長が至極真面目な顔で念押しした。
「シャルロット様ほどの方なら、多少相手の地雷を踏んでも、余裕で自分のペースに持ち込めるのでしょう。恐れながら、アデライド様とは格が違いすぎます」
「か、格が……」
「社交という面においてのお話ですよ。お間違えなく」
フォローをありがとう、家政婦長。