お伽噺は空の上で9 離別
疾走る! 疾走る! 疾走る!!
水島志奈子は疾走る!
もう目の前に小屋はある。
後数十歩の距離だと言うのにその数十歩が遠く感じる。
もなみ程では無いが志奈子も運動は得意だ、中学時代には体育祭の短距離走で陸上部の男子を一位を獲得した事さえある。
抑えましてやこの数日プールに通い詰め体力は上がっている筈だ。
なのに自分の足がこれ程に遅かった事に苛立ちを覚えた。
三太夫はずっと先を走り志奈子と小屋のちょうど真ん中の距離にいる。
自分が犬だったらよかったのに……
愚にも付かない考えが頭を過る。
「はぁっはぁっはぁっはぁっ」
少し後ろを走る夏乃の荒い呼吸が聴こえる。
「ガンバレッヨッチ! あともうちょっとだっ!」
隣を走るもなみが叱咤する。
そう、あとちょっとだ。
なのにその『ちょっと』がやけに遠い。
ドォンッ!!
「ぐぅアァッ!?」
ドッ!!
「あがぁぁっっ!!」
背後から悲痛な叫び。
「ッ!ミューツさっ……」
「しなちんっ! 振り返るなっ!!」
隣のもなみが振り向こうとした志奈子の肩を掴む。
「でもっ!だってっ!ミューツさんがっ………」
「ミュ、ミューツさんは『行け』って……はぁ、言いました。はぁはぁ、『自分なら大丈夫』とも……はぁ、はっはっ、『私たちに全部説明してくれる』とも………ミューツさんは大丈夫です! 絶対絶対絶対ッ! 大丈夫なんですッッ!!」
「ヨッチの言う通りだっ、ミューツさんは死になんかしないっ! あんなバケモノなんて直ぐに倒してこっちに戻って来てくれるさっ、だからっ、アタシたちはそんなミューツさんの邪魔にならないように………くぅっ………だからっ、だからっ!!」
肩に痛い程に食い込もなみの細い指、力を込めすぎて白くなっている。
表情は苦し気で汗が吹き出ているのに真っ青だ。
怖いのだ。恐ろしいのだ。
何が!?
あのバケモノが!?
違う。
バケモノも怖いがそれ以上にあの心優しい年上の友人を喪おうとしている事が。
脚を停めた事で隣に並んだ夏乃は涙すら浮かべている。
彼女ももなみと同様なのだ。
それでも振り向こうとしない。
何故ならば約束したのだ。
『必ず戻って来る』と。
『またあの楽しい日々を共に過ごそう』と。
言葉ではなかった。
口で伝えはしなかった。
だが約束したのだ。
最後に見た彼女のアイスブルーの瞳は雄弁に語っていた。
ならば振り返りはしない。
約束は果たされなければ意味が無いのだから。
「行きましょう!」
「ウォン!」
心配げに足元をうろうろしていた三太夫が主人の再起に吠える。
一度止まった足が動き出す。
疾走る。疾走る。疾走る!!
水島志奈子は疾走る!
もう小屋はすぐそこだ。
あと三歩、二歩、一歩! たどり着いた!! 志奈子はドアノブに手を掛けた、錆びた真鍮の古めかしいノブ。
志奈子がドアを開けようとノブを捻った刹那。
ドゴッッ!!
「ひゃぁぁぁっっ!!?」
「きゃぁっ!!?」
「うっぁっ!!?」
小屋の屋根が弾けた。
木屑が三人に降り注ぎ風雨に曝され色褪せた波トタンがぐしゃりと畑に落ちる。
「何っ?何っ?今度は何なのぉっ!?」
「しなちん、ヨッチ、上ッ!」
もなみの叫びに志奈子は空を仰ぐ。
暗い。
太陽を何かが遮っている。
影になりよくは見えないがそのシルエットはひとの形によく似ている。
あれは……
「ロボ…………ット!?」
ミューツは疾走った!
下駄は脱げ美しい着物も既にボロボロだ、脚を動かす度に身体から血が流れ緑の草を紅く染める。
それでも脚は停まらない停められない。
停まればスナークの腕が降り下ろされる。
彼女の上にではない、すぐ側に、礫と衝撃が彼女を痛め付ける距離に。
いたぶられている。
ミューツは歯痒さに眉をしかめる。
悔しさに唇を噛む。
スナークはミューツに己れを沈める手段が無いのを悟ると彼女を直ぐには殺さずいたぶり始めた。
無邪気な子供がするように。
犬を棒を持って追い掛けるように。
ネズミを檻に入れ水底へ沈めるように。
おやびんはミューツの隣、時折振り返り距離を不用意に詰めすぎたスナークに飛び掛かる。
青白い衝撃は出さない。
出せないのだ。
不機嫌な彼の表情にも疲労の痕がある、あの一撃はおやびんにしても渾身の一撃であったようだ。
それでもスナークは甲殻に傷痕を残す爪の一打を嫌いおやびんの届かぬ空へと上昇する。
次いで空間転移でミューツの側へと現れ追い始める。
ドォッ!!
「………ンイィッッ!!」
脚は停まらなかった、それでも腕は落ちてきた。
疲労で速度が落ちてきたのをスナークが見逃さなかったのだ。
白く細い脚に食い込む小石もそのままにミューツは疾走る長く走ればそれだけ彼女たちは無事で居られる。
その想いだけが彼女を疾走らせた。
不意に影が射す。
「な……ニ?」
いよいよ出血が酷くなり目の前が暗くなったのかとも思ったがそれは違った。脚は動く、意識もこのダメージにしてはハッキリしている。
では一体!?
「ミュー姉ちゃんからぁ離れろぉぉぉぉっっ!!!」
叫びがミューツの耳に届いた。
この数ヶ月、幾度も聞いた聞き慣れた声。
『姉ちゃん』『姉ちゃん』と何度も呼んでくれた聞くたびに彼女の心を優しさで包み込んだ声。
死を前にして最後にもう一度、と求めて止まなかったあの声。
だがその声は未だかつてミューツが聞いたことの無い程に怒りに染まり感情を剥き出しにした荒々しいものであった。
ドゴオォォンッッ!!
背後で爆発したような轟音、振り返ればスナークはミューツから離れ腹を天に仰向けで転がっていた。
砂埃の舞う中、ミューツを背にし立つその姿は………
「ガルガンティス!?」
いや、違う。
ガルガンティスではない。
少なくとも彼女の愛機『マシュール35式』ではなかった。
マシュールの特徴的な長い肩部装甲と一体化した腕はその身体に見合った長さであり代わりに肩には半円状の板を幾重にも連ねた装甲板が、頭部は一般的なガルガンティスよりも小造りで左右に張り出した角が見える。
胴体はやはり何重もの装甲で厚く盛り上がりその喉元に三本の短い角で飾られた装飾。紅い組紐が垂れ下がっている。
その下に伸びる腰はこの巨大な上半身を支えられるのか!? と心配になる程に細い。
脚部はその付け根に肩部に似た装甲板。
太めの腿にそこからきゅっとすぼまった膝の下。
大地を踏み締める足はまるで足袋のように真ん中で割れている。
背には四つの細長い担架が背負われその先端に握りが覗いてる事からブレードと推察出来た。腰部担架に下がる二本の筒は射撃兵器か。
鋭角的な兵器ぜんとした印象の強い環状銀河製のガルガンティスとは何処か趣を異にした赤黒い巨大人型兵器。
ミューツは知っている。その雛形を。
どこで見た!?
休日だ!
多々良の学校が休日のその日、夕食を終え居間で食後のお茶を三人で飲んでいた時、TVに映っていたのだ。
国営放送でやっていた大河ドラマ、その一幕で目の前の兵器に似たモノが馬に乗り掛け声も高らかに刀を振るっていた。
そう。
古のこの国で武を誇りとして互いの優を競いあった……
「武者!」
そう。
そう。
そうだ!
あれこそは!!
「鎧武者ダ!!」
『暴力』
その言葉こそ今の武者型ガルガンティスの振る舞いにふさわしいものだった。
「姉ちゃんにぃ汚い手で触わんなぁぁぁっっ!!」
ひと振り。
スナークの比較的柔らかい腹部に拳が刺さる。
手の甲にある短い角が白く薄い殻に細かいヒビを産む。
「姉ちゃんはなぁ!」
更に一撃。
ヒビは広がる。
「オマエみたいなぁ!」
更に一撃。
ヒビは腹全体に達する。
「オマエみたいななぁ!」
更に一撃。
細かいヒビの間から赤い血がじわりと滲み出す。
「薄汚いガザミ野郎が傷付けていい相手じゃないんだよぉぉぉっっ!!」
バキンッ!
ついにスナークの殻は衝撃に耐えかね割れる。
細かい破片が飛び散り血が噴き出す、武者の右腕がスナークの内部まで達し肉を曳き毟る。
痛覚は在らずとも己れの体内を蹂躙される恐怖にスナークはのたうつ。
武者はそれを踏みつける事で押さえた。
「多々良ッ! このバカ! 拳を使うなっ! 右腕がイカれちまうだろうがっ!! 武器を使えっ! 刀で戦えって教えたろうがっ!?」
武者からは多々良以外に鉄人の声が聞こえてくる。どうやら二人とも武者の中に居るようだ。
「あんちゃん、生温いよ。コイツには刀は生温い。それじゃぁ直ぐに死んじゃうじゃないか。
ミュー姉ちゃんが味わった痛み、恐怖、絶望、全部ひっくるめて万倍にして返してやらなきゃ生温い!」
「はぁぁ~ーー、オマエキレると相変わらずだなぁ…… カニ野郎が暴れるとその側にいる大事な姉ちゃんが危ないって言ってんだ! もういいからミューツを回収するぞ! ホレ、足元だ」
武者の胸部甲冑がせり上がりコクピットが開く。
やはりそこに居たのは多々良、そして座席の後ろに座る鉄人であった。
「ミュー姉ちゃんっ! 大丈夫!? ああっ、こんなに怪我して……」
「痛みマスガへっちゃらデス、タタラ、テツヒトさん、ありがとうございます助けに来てクレテ」
「へへ、当たり前だよ! でも遅くなってゴメン」
「多々良にコイツの操縦教えんのに時間食っちまってなぁ、ホント悪かったな」
「いえ、テツヒトさんならどうにかしてくれると思っていましたカラ、それよりもこのガルガンティスは一体……」
「オマエさんのガルガンティスをバラして得た情報で以て造り上げた地球産のガルガンティスだ、見ての通りデザインは日本の鎧武者をイメージしている」
「メチャメチャ趣味に走ってマスネ」
「普段の仕事と違ってあれこれ横槍を要れてくるスポンサーもいない、好き勝手にやらせて貰ったからな、性能もそう悪いモンじゃ無いぜ? 理論値ではオマエさんが持ってきたヤツの1.5倍は出る筈だ。」
「1.5!? マシュールは最新鋭機デスヨ!? ウィルミンのベル・クアールに匹敵する性能じゃないですかっ!!」
「『ウィルミン』も『ベル・クアール』も判らんがそうか、コイツと同等のガルガンティスはもう環状銀河には在るんだな。面白れぇ、何時かそのベル・クアールとかってのも凌駕する機体を造ってやろうじゃねぇか! 技術屋の腕が鳴るってもんだぜ!」
「あんちゃん、ミュー姉ちゃん、喋ってないでさっさと入って! スナークはまだ生きてるんだよ!」
「悪ィ、ついこの手の話んなるとな……ミューツ、俺の腕を取れ」
「ハイ」
鉄人が多々良の脇から身を乗り出しミューツをコクピットまで引き上げる。
おやびんもミューツの脇をするりと抜け武者内部に進入する。
ミューツとおやびんがコクピットの中に入った事を確認すると胸部甲冑は降ろされた。
「ミューツ、コイツは単座機だ、補助席はあるが既に俺の尻の下だ。
済まねぇが俺の上に座っててくれ」
「判りマシタ、座り心地はよくはなさそうデスガ我慢しまショウ」
「お!? 軽口が言える様なら上等だ、揺れるぞ? しっかり掴まってろよ!?」
「了解デス」
「二人とも! 来るよっ!!」
踏み付けられ無軌道に振られていた右腕が武者に向かう。スナークの甲殻を破壊せしめたとは言えそれは軟らかな腹の装甲での事、ガルガンティスを殴り付ける為の太く逞しいその腕を食らえばいかな武者とて無事ではいられない。
衝突の瞬間、武者は両手で腕を取る。
兵器にそぐわない優しいタッチで勢いを殺さぬよう取った腕を軸に体を捻る。
同時に踏みつけていた足をスナークと地面の間に差し込み踵で跳ね上げる。
スナークは宙を舞った。
己れの力ではなく武者によって舞わされたのだ。
「どぉりゃぁぁぁぁっっ!!」
烈迫の気合いと共にスナークは地面に叩き衝けられた。
「一本ッ!」
鉄人がニヤリとひとの悪い笑みで合いの手を入れる。
そう、一本だ。それは柔道で言うところの一本背負いによく似ていた。
「油断しなイデッ! 時空転移デス!」
叩き衝けられたスナークは起き上がろうとはせず消えた。
何処に!?
時空転移は厄介だ、どれ程にこちらが優勢であっても死角から襲われる事で逆転される目が残されているのだから。
「ここだっ!」
焦るミューツと鉄人を尻目に多々良は何もない頭上に向かって腕を突き上げる。
ドンピシャ!
上空に出現したスナークは突如目の前に拳が現れ防御の暇も与えられず直撃を喰らった。
再び地に墜ちるスナーク。既に戦意は残っていない。
ズルズルと浮くことも叶わない重たい身体を腕一本で引き刷り少しでも武者から離れようと逃げ出した。
ふとスナークの身体が止まった。
何処か一点を見詰めている。
姿が朧になる。
また転移か!?
ミューツと鉄人は思った。
「てんめぇぇはぁぁっっ!!」
多々良が怒気も露にレバー横のボタンを握り混む。
「どこぉぉまぁでぇぇぇっっ!!」
それに答え武者の背の担架が動き出しその手に刀を握らせる。
「性根ぇぇっっ!!」
火花を放ちつつ刀は鞘を走りその長大な刀身をミューツたちの前に晒す。
「腐ってんだぁぁぁぁぁぁっ!!?」
投擲。
ひゅん、と風切る音と共に刀は宙を回る。
向かう先は黒沢家の小屋の方角。
そこにはドアの隙間から顔を出し此方を伺っていた三人の。
「しなちん!? ヨッチ!? もなむー!?」
少女たちの姿が!
三人のすぐそばの空間が歪みスナークがその姿を現す。
腕を少女たちに向かい伸ばす。
「「「きゃぁぁぁぁっっ」」」
ザンッ!
だが伸ばした腕は届かない、触れる直前飛来してきた刀が地面に縫い停めたのだ。
武者の肩と腿に備え付けられたスラスターが咆哮を発する。
重力に逆らい武者は跳ぶ。
着地した先はスナークの甲羅の上、シャッ! 二本目の刀が抜き放たれ横薙ぎに伸ばされた腕を付け根から切り落とす。
ガッ!
息つく間も無く上段からの突き卸し。
堅い装甲は易々と貫かれ深くその身を穿つ。
二度、三度、スナークは痙攣しやがて目から光が消える。
「やっ…………タ!??」
「どうやらな」
恐る恐る問うミューツに鉄人が大きく息を吐き出し応じる。
気が張っていたのだろう、スナークを倒した事で漸く全身に張り詰めていた緊張が解けミューツはへなへなと崩れ落ちた。
「おっと!」
「すみまセン、テツヒトさん」
背後にいた鉄人がミューツを支える。
「いや、気にすんな。それよりもお前さんを心配にしてる連中に姿を見せてやれ」
「心配してる連中!?」
鉄人がモニターに向かって顎をしゃくってみせる。
モニターには恐る恐るスナークを迂回しつつ小屋から姿を現した三人の少女。
「あ!しなちん、ヨッチ、もなむー」
気を利かせた多々良が武者のコクピット前の装甲を開放する。
「ミューツさんっ! やっぱりミューツさんだっ! ヤダッ、ボロボロじゃない! 大丈夫なの!?
「はい、しなちん、わたくしはなんとか……タタラとテツヒトさんがガルガンティスで助けてくれましたカラ」
「ミューツさん、このロボットって……」
「ガルガンティスですヨッチ、尤もわたくしの乗ってた機体ではなくテツヒトさんが造り上げたものデスガ」
「バケモノ、死んだんだよな!?もうミューツさん痛い目に合わなくてもいいんだよな!?」
「ハイ、タタラが倒してくれましたカラ、もう心配は要りマセン、安心してクダサイ」
ミューツの声を聞きほっとしたのか三人は固かった表情にも笑顔が見えた。
「よかったぁ、ミューツさん無事で本当によかったぁ」
「本当に。ご苦労様でしたミューツさん、それじゃぁ帰りましょう。お風呂でも入ってゆっくり疲れを癒してください」
「いや、ヨッチ、その前に怪我の手当てをしなきゃだろ」
「そうですネ、もう今日はお風呂入って寝ちゃいたいデス」
口々に喜び合うミューツと三人娘。それを遮ったのは多々良の固い声だった。
「終わってない! スナークがっ!!」
武者の脚に踏みつけられて息絶えているスナークの姿が溶ける様に歪み始める。
「時空転移の兆候デスッ! 死んだはずなのにドウシテ!?」
「最初から倒されたら転移するよう設定してあったのかもな、てか、俺たちの身体まで歪んでるぞ!?」
このスナークの転移能力はその身に触れていた者まで同様に跳ばしてしまう。
このままではスナーク諸共に何処とも知れぬ場所まで連れて行かれる。
そう鉄人は判断を下し。
「多々良ッ! 脚をスナークから退けろっ、離れるんだっ!!」
「ダメでスッ! このママ!」
鉄人の命にレバーを引く多々良をミューツは止める。
「何故だっ!? このままでは……」
戸惑いの多々良、怒りの鉄人にミューツは落ち着いた声音で理由を説く。
「既に時空転移は始まってイマス、今スナークと距離を取ればわたしたちは単身時空の狭間を漂う事となり最悪何処とも知れぬ異界に放り出される事態に陥りマス。
スナークの転移先はおそらくデスガ予想は付きマス、ならばこのままスナークと行き先を共にした方ガ……」
「まだマシな場所に出られる可能性があるって訳か」
「そうデス。あ! しなちん! しなちんたちは離れていてクダサイ、転移すればここへは戻って来れないかも知れマセンカラ」
ミューツは眼下の志奈子たちに向かって叫ぶ。
それを耳にした志奈子たち三人は顔を青くし叫び返した。
「そんなっ! ミューツさんも無事だったのにまたバラバラになんてっ……」
「すみマセンしなちん、でも仕方のない状況なのデス」
「戻って来られますよね!? ミューツさん、直ぐに戻って来られるんですよね!?」
「ヨッチ…… 判りマセン、おそらくは難しい事と思われマス」
「せっかく仲良くなったのにお別れなんて……そんな悲しい事ってないだろっ!!」
「もなむー…………」
口々にミューツに訴え走り寄ろうとする三人娘に。
「ダメデスッ! 近寄ってはイケマセンッ!! 」
強い口調で制止を促す。
少女たちの脚が停まる。
「しなちん、お母様のご無事を心から願ってイマス。ヨッチ、日本舞踊観に行くって約束破ってシマイゴメンナサイ。もなむー、豊胸のコツは無重力などではなく日々の鍛練こそがものを言うのです。
サヨウナラ、しなちん、ヨッチ、もなむー、わたくしの大切なお友達、離れて居てもわたくしたちはずっと……」
「済まんっミューツ、限界だっ! 多々良!ハッチを上げろっ、転移先が不確定な以上コクピットを曝しての状況は危険だっ!」
「ゴメン!ミュー姉ちゃん」
装甲が引き下ろされハッチが閉まりコクピットが外界から遮断される。
ミューツはモニターに飛び付いた。
画面の中少女たちは未だ口々に叫んでいる。
「しなちんっ! ヨッチッ! もなむーっ! 友達デスッ! わたくしたちは離れていても友達デスッ! ずっと…… ずっと………… どれ程に隔たっていようともわたくしたちはずっと……………………………」
転移が始まった。
スナークと武者の歪みは最大になり次の瞬間音もなく。
「…………消えた」
もなみが呆然と呟く。
天高く太陽の下、そして遥か遠くコクピット内部、四人の瞳から涙が流れ落ちたのは同時だった。
これにて地球編(?)終了。
予想以上に三人娘が活躍してくれました。反面小田渕タカさん(81)が空気になってしまいました。
次からは環状銀河編、よろしくお付き合いください。
これでストック分は無くなりました。完成次第あげるか何話か出来てから投稿しようか迷ってます。
それでは今後とも『お伽噺は空の上で』をよろしくお願いいたします。