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お伽噺は空の上で8 襲撃

 僅かに開いた障子戸の隙間から射し込む朝日の眩しさでミューツは目を醒ました。


 むっくりと身体を起こしはだけてしまった胸元を整えるとしばつく目を擦り昨夜の惨状を改めて確認する。


 スナックの空き袋がよくもまぁこれ程に食べたものだと呆れるほど放置され数本のペットボトルが転がっており

もなみの持参した人生ゲームの子供銀行券が部屋中に散乱し何故だか数枚夏乃の乱れた寝間着の間ブラとDカップに挟まれている。


 もなみは何故か壁に立て掛けられた卓袱台の脚に両手両足をくくりつけられ大の字で死んだように眠っている。薄い胸がゆっくりと上下している事からバイタルは正常のようだ。


 志奈子は更に悲惨だ、上は着ているものの下半身はすっぽんぽん、うつ伏せで膝立ち、小振りなヒップをこちらに高く上げ両の臀部にはマジックで『通常価格二万八千九百円のところ今なら大サービス一万八百円!! 三十分以内のお電話でさらにもうひとつ!! ただしお一人様限定! お求めはお早めに!!』と書かれている。彼女の頭のある箇所は障子戸があり、少し開いている事から頭が障子に挟まれているのだろう。


 「これは……酷いデスネ」


 ミューツはあくびをひとつ、片付ける前に先ずは朝食の用意をと立ち上がった。


 布団に抱き付き涎を垂らす夏乃を踏まないよう細心の注意で跨ぎ皆を起こさないよう静かに部屋を出る。


 「オアヨーごじゃいまぁぁすぅミューツさぁぁん」


 「おはよーミューツさん、早起きッスね! うわ、朝ごはんだ! スッゴく美味そう!」


 「お、おはようございます……あ、あの……ミューツさん、私のパンツ知りませ……にょわぁぁぁァァッ!??」


 朝に弱い質なのか怪しい語尾で夏乃が、縛られていた手首を擦りつつも元気にもなみが、最後に彼女らしくないおどおどとした様子で志奈子が今に顔を出した。


 丁度朝食の準備も終わり三人を起こそうとしていた矢先だ、タイミングとしては丁度良かった。


 「おはようございマス、しなちんどうしマシタカ!? 朝からその様な大声デ」


 志奈子は出迎えたミューツを見ると奇声を発し指を指す。


 夏乃ともなみもミューツを見ると驚きの表情を浮かべ次いで笑出した。


 「どう、どう、どうしましたかって……ミューツさん、あた、頭、わ、わたしの………」


 「あらあらあら、ミューツさんって本当にお茶目さんですね。そう言ったところ、嫌いではありませんよ」


 「ブッハッ! ミューツさんっど、どうしたってブフッ、頭にブハハハハ腹ッハラいたァァ~~ーーーーー!!」


 もなみに指摘され頭に手を添えるとナニカを被っている。

 何だろう? ずっと被って朝の準備をしていた様だ、気が付かなかった。


 「アラ、可愛ラシイ」


 それを脱ぎ目の前で広げて見れば果たしてそれはクマのイラストがキュートなコットンパンツ。


 「アッ!?」


 釣り船屋の息子ボクサーも裸足で逃げ出すダッシュで志奈子はミューツの懐に潜り込むと腰のバネを活かしたアッパーで掬い上げるようにマイパンツを奪取する。

 反射的に顎を引いたミューツはちりりと髪が焦げる匂いを嗅いだ。


 「あ、あ、アリガトウゴザイマスッッ! わ、私のパンツ保護してくれてたんですねッ!」


 その場で後ろを向きサッとパンツで生尻を隠す。ちらりと見えた『通常価格二万八千~』の文言は未だ残ったままだった。


 和気藹々と朝食で腹を満たし散らかった部屋を片せばもう時間は十時間過ぎ、そろそろ解散とは誰も口に出せなかった。

 惜しいのだ、この楽しい時間が終わる事に。


 しかし昼までここでたむろって居たら黒沢兄弟も帰って来難い。


 「………そろそろ、お(いとま)しましょうか」


 口火を切ったのは志奈子だった。


 「そうですね、これ以上は黒沢くんにもご迷惑が掛かってしまいますし、残念ですが」


 「そうだな、でも楽しかった! またやれば良いじゃん」


 「そうですね、では今度は私の家で。稽古場に布団をひけば多少騒いでも母屋には聞こえませんから」


 「おぉ! ナイスヨッチ!」


 ぱちんと手と手を叩き合う夏乃ともなみ。


 「それじゃあ途中まで送らせてクダサイ、ひとりでこの家に居るのはチョット寂しいデス。送るついでにタタラとテツヒトさんをお迎えに行こうカト」


 「ならみんなで行きませんか!? 黒沢くんちの畑ならみんなの帰り道だから」


 「おぉ! しなちんもナイス! みんなで迎えに行こうぜ」


 夏乃としたように手をもなみは上げる。そこに志奈子も手をぱちん。


 「ホラ、ミューツさんもっ」


 今度はミューツにも手は回ってくる。


 「ハイッ!」


 もなみとミューツもぱちん。


 「あ! 私も、私も!」


 「私だってミューツさんとしたいですっ!」


 志奈子、夏乃とも手を叩き合う。


 もなみと志奈子、志奈子と夏乃もお互いに手を叩き笑い合う。


 他愛のないお遊びだ、だがその他愛の無さが彼女たちの親密さを現していた。



 

 晴れ渡る青空の下、四人は田舎道を歩く。


 田舎故車の往来は全くと言っていい程に無い、それを良いことに四人は道いっぱいに広がり思うがままに尽きる事のない話題に華を咲かせた。

 ミューツの持つリードの先の三太夫もご機嫌だ、美女に手綱を握られ歓ぶのはひとも獣も変わらないと言う事か。


 不意に上空を轟音と共に数機の航空機が編隊飛行で飛び去る。

 今日何度目の目撃だろう、始めは気にしていなかった彼女たちもやがて上空を気にし始める。


 「今日はやけに沢山飛んでるなぁ」


 「演習でしょうか?」


 「判んないけどこんな所ではしないんじゃない? 基地ってここからスッゴく離れてるじゃない」


 「そうなんデスカ? きっと忙しいひとが沢山乗っているんでショウネ」


 「出た! ミューツさんのとんちんかんな答え!」


 「エッ? エッ? あれは飛行機じゃないんデスカ!? いっぱいひとを乗せて外国とか遠い土地に運ブ……」


 「いいえ、ミューツさん、あれは飛行機ですけど旅客機じゃなくて戦闘機なんです、ひとは恐らくひとりかふたりしか乗れませんよ」


 「エェッ!? ひとりかふたりしか運べないんじゃ効率が悪いのデハ?」


 「だから戦闘機ですってば!戦う為の飛行機です」


 「戦う!? それじゃぁ何処かで戦争トカ……」


 「いやぁ、それはないッスよ、精々領空侵犯とか?」


 「こんな山中で!? そーゆーのって海の上の海域ギリギリの場所とかであるものじゃないの!?」


 「あッ! また来マシタッ! 今度は多いです五機!」


 ゴウッ


 「きゃぁぁぁぁぁッッ!??」


 低空で通過した戦闘機に砂埃が舞い上がる。強風に衣服を叩かれ頭を抱えて少女たちは蹲る。


 「なんだよっ、アイツら!?  アッブねぇなぁ!!」


 気の強いもなみが憤慨して飛び去る戦闘機に悪態をつく。


 その刹那。


 ドウッッ! ドドドドドッッ!!!


 「撃った!? 撃ちやがった! ミサイル撃ちやがったァァッッ!??」


 「えっ? えっ? 嘘でしょう!? なんで!? どうしてっ!??」


 「………あっち、山の向こうって」


 もなみが叫び志奈子が自分の常識を超えた事態に混乱し夏乃が意外にも冷静に爆発を起こした山向こうを指差す。


 「あ……向こうって……太町市」


 人口三万人弱の両脇を山に囲まれた南北に伸びる小都市だ、元は幾つかの町、村が平成の大合併を機に市として登録された。田畑の多い土地とは言え市の中心部にはそれなりの人口が密集している。


 「ヤダッ! ヤダよっ! おかーさん死んじゃうッッ!! あんなに燃えちゃったらおかーさんがぁぁッッ!! やだぁぁぁぁぁぁッッッ!!!」


 「しなちん!? しっかりしてクダサイッ!」


 「しなちん! 落ち着いて! まだ太町方面ってだけで街にミサイルが落ちたって決まった訳じゃ無いからっ! 大丈夫だからっ!」


 「もなむー、しなちんハ……」


 「しなちんのおばさん太町で介護士してるんだ」


 「そんナッ!?」


 「アイツ片親だからさ、もしおばさんが巻き込まれでもしたら……」


 もなみの呟きが耳に入ったのかミューツの抱き締めていた志奈子の背がびくりと震える。


 「もなむー止めて! そんな事絶対口にしないでっ!!」


 「わ、悪い」


 夏乃の普段より堅い口調にもなみは気圧される。


 「それより一旦家に戻りマショウ、緊急事態ですしタタラとテツヒトさんも戻ってくる筈デス。しなちんをひとりで家に待たせる訳にもイキマセン!」


 「そうですね、幸いスマホで連絡はとれます。みんなでいる方が心強いですし」


 「あ! スマホッ!」


 志奈子がその存在に気が付き直ぐにポケットから取り出す。震える指先で幾度も間違え間違え漸く母の番号を押すが。


 「……そんな、スマホ繋がらない。どうしてっ!?」


 それではと母の勤める介護施設に問い合わせるが今度は話中、何度リコールしても電話に繋がらない。


 「しなちん、おばさん仕事中はスマホ切ってるんでしょ!? それにあんな事が起こったんだもの、施設だって対応に追われて電話対応に忙しいはずよ、少し待ってからまたかけてみたらどうかしら!?」


 「ッ! その間にッ! 待ってる間におかーさん死んじゃったらどうするのよっ!? ヨッチ助けてくれるのっ!? おかーさん生き返らせてくれるのっっ!??」


 「……しなちん」


 「ねぇ助けてよっ! ヨッチ学年でも一番頭いいじゃない、助けてよっ!! どうにかしてよっ!!! お願いよぉぉぉっっ~~ーーー」 


 夏乃の膝にしがみつき泣き出す志奈子に優しくミューツは肩を抱き立たせる。


 汚れた膝の泥を払ってやり正面を向く。


 「しなちん、わたくしを見てくダサイ!」


 「……………ッッ」


 「しなちん! 顎をあげてしっかりとデス!」


 「ミューツ……さぁぁん……」


 ぐずぐずと泣き濡れた目を志奈子はミューツに向ける。銀の睫毛に彩られた瞳はアイスブルー、その氷の様な視線がしっかりと志奈子を捉えていた。


 「ここで貴女が泣いていたって状況は変わりマセン、お母様が心配なのは解りマス、ですがこんな時だからこそどっしりと構えて居なければイケマセン」


 「で、でも……おか、おかーさん……」


 「大丈夫デス! お母様はきっと無事デスヨ!!」


 「うう………ミューツさぁん」


 ミューツは志奈子を胸に抱き締める。流れた涙が着物に黒い染みの跡を残す。


 「こんな母親想いの良い子を遺して行く訳はありマセン、大丈夫、大丈夫デスヨしなちん」


 「ミューツさんっ! しなちんっ!空ッ! 何か! 飛行機じゃない何かが居るっ!!」


 もなみの焦った声にはっと離れるふたり、志奈子のその瞳は未だ涙の跡が残るがもう泣いてはいない、燃えるような強い意志が宿っていた。


 「あっち! 太町の方ですっ!!」


 夏乃の指した方角、西の空に黒い点がひとつ、青い空を汚す一点の染みの様に見えるそれはどんどんとその穢れを大きくして……


 「こっちに向かって来てるんだ」


 「…………アレハ」


 「知ってるのですか!? ミューツさん」


 知っている。よく知っている。幾度もブレードを叩き付けライフルを撃ち込んだ相手だ、ついには時空転移に巻き込まれこの異世界に連れてきた元凶。


 「……………………………………スナークデス」


 スナーク、やはりアイツだ! 蟹に似た姿で左腕は失ったまま。

 それでも何処かで回復していたのか戦闘機を翻弄する動きは当初環状銀河の片隅で戦友と共に交戦した時分と遜色のない軌道を描いている。

 地球製の兵器をからかうように避けつつもスナークは着実に此方へ近付いて来ている。


 理解()っているんだ、自分を破壊しえる力を持つ女が此処にいる事を。


 「くっ! ガルガンティスは………」


 大破しエネルギーも尽きている。最早動ける状況に無いと多々良は言っていた。


 どうする!? どうしたらいい!?


 この星系でスナークのなんたるかを知りその対処法を知るのは自分ひとり、しかしその対処法であるガルガンティスは手元にない。


 万事休す


 そんな言葉が脳裏に浮かぶ。


 膝に力が入らない。


 がくがくと全身が震える。


 恥も外聞もなく泣きわめき命乞いをしそうだ。


 命さえ助かるならばあの異形にこの肉体を捧げてもいい。


 この美しい惑星を捧げて


 そこで友義を交わしたこの三人を捧げて


 あの親切な世話焼きの老婆を捧げて


 あの無邪気に自分を姉と慕う少年を捧げて


 あの鋭い視線の中に優しさを宿した口の悪いあのひとを捧げて


 そう、全てを、全てを捧げればあの醜い敵性体も気紛れで女ひとりの命くらい…………


 「ミューツさん!」


 はっとミューツは我に返った。


 バカな、自分は何を考えていた!? 捧げる? あの醜悪なおぞましい破壊者に? あり得ない! あり得ない! あの悪を塗り固め具現化したようなスナークに交渉などあり得ないっ!!

 そんなもの言ったところでヤツは嘲笑(わら)いながら壊すだろう蹂躙するだろう殲滅するだろう。


 恥を知るがいい! ミューツ・リュー・ミリュノフッ! 貴様の価値はそれほどなのか!? この美しい惑星(ほし)を、優しい友情を暖かい家族を贄に供してまで生き永らえる程に価値あるものなのか!?


 違うだろう。貴様の価値は慕ってくれる兄弟、互いに笑い合える友人、彼らが居てこそのミューツだろう!?


 全てが失われた荒野に佇む貴様になど何の価値もありはしない!


 だのに…


 だと言うのに……


 仮初めの平穏を得るためにこの愛すべき者たちを差し出すなどと……


 「ミューツさんっ!?」


 パンッと己れの頬を張る、予想外に大きな音がして三人の友人は驚く。


 「わたくしは大丈夫デス! 逃げてクダサイッ! テツヒトさんの小屋まであとチョットデス、あそこにはテツヒトさんが居る筈デス、彼ならばスナークとて敵ではアリマセンッ! サァ! 後ろを振り返る事なく走ルノデス!!」


 「そんな……ミューツさん着物で……走っても……」


 「わたくしは足留めをシマス、皆さんが辿り着くまでココデ」


 「そんなっ!?」


 悲壮感に叫ぶ志奈子にミューツは笑顔を向ける。そこに愁いはない、志奈子が好きになった太陽の様な明るい笑顔だ。


 「心配はイリマセン、わたくしは幾度もスナークを墜としてキマシタ、あの左腕だってわたくしがもぎ取ってやったんデスヨ!? 百戦錬磨のミューツ・リュー・ミリュノフに隙はありマセンッッ!!」


 「ッ!! ミューツさっ」


 「くぅっ!!!」


 「「「きゃぁぁぁぁぁっっ!!?」」」


 空間移動で突然目の前に現れたスナークは目の前のエルフをそばに居る原住民ごとミンチに変えようと巨大な右腕を叩き付けた。


 ミューツの脳内に仕込まれていたインプラント。その機能の一端、バリアシステムが発動しスナークの右腕を弾く。


 スナークは宙でたたらを踏むように下がる。


 「ぐっ…………うぅ」


 しかしバリアシステムはあくまでも非常時の緊急用だ。その出力は使用者本人の生命力とも言うべき力、マナを消費する。


 マナが枯渇すれば当人は早晩その生に幕を降ろす事となろう。


 「ミューツさん………ッッ!?」


 耳、目、鼻、口毛穴からすらも血を滴らせ崩れるミューツを助けようと伸ばした志奈子の手はしかし救助対象であるはずのミューツによって振り払われた。


 振った腕から飛び散る血が志奈子の顔を汚す。


 「行きなサイ! ここで貴女のする事はありマセン」


 「そんなっ!? だってミューツさんそんな死にそうな身体で………」


 「死にはしまセン、少なくとも貴女たちが逃げるマデハ」


 「ミューツさんッッ!!」


 「行きなサイッッ!! 水島志奈子ォッ!!!」


 「ホラ、行くぞしなちん、ここに居たらきっとミューツさんの邪魔になる!」


 「でも……」


 「ミューツさん、しなちんは私ともなむーが連れて行きます!」


 「く………あっアリガトウヨッチ、もなむー………お……ねが、シマス」


 「ですがあの怪獣の事、ミューツさん自身の事、それからその耳の事、全部ひっくるめて後でちゃんと説明していただきますからね!  覚悟してくださいよ」


 「ハ、イ………トモダちですかラ、隠し事ハ、イケ……ませんシネ」


 「そーゆー事! 行くよヨッチ、そっちの腕持って!」


 「持ったわ! 走るわよしなちん!」


 「ミューツさっ! ミューツさんっ!! ミューツさああぁぁぁんっっ!!!」


 駆け去る三人の少女、志奈子の声は耳の中でごうごうと血の流れ出るミューツにも届いた。


 「説明……です、カ。どう、言ったラ……信じテ、貰えルン、デ………しょうネェ」


 くつくつと笑う、絶体絶命の窮地にあっても笑う事の出来る自分にミューツは驚いた。


 「ホント……ウの、事、言っテモ、信じテ貰えソウニ、あり、マセンシ」


 いや、彼女たちならば信じるかも知れない。あの純真な少女たちならば友達の言葉を疑うなど思いもしないだろう。


 「マ、ア……全てハ目ノ、前のスナークを………倒してカラ、ノ、話で………スネ」


 ミューツはよろよろと立ち上がる。


 それを確認したスナークは威嚇するように右腕を高く掲げる。


 「フン、待ってテ……クレルなンテ、す……ナークも、チョットは気ガ、利くジャナイ………デスカッ!!」


 そして降り下ろされる!


 バリアシステムは使えるとしても後数回が限度、避けられるならば避けた方がよい。


 「ぐぅアァッ!!」


 直撃は避けたが巻き上げられた礫がミューツの全身を射つ。尖った小石が柔らかい肌に食い込む痛みに耐えきれず呻き声が漏れる。


 攻撃は続く、叩き付けた腕をそのまま横薙ぎにミューツを吹っ飛ばす。


 「あがぁぁッッ!!」


 ごろごろと堅い地面を数度転がる。


 更に追い討ちをと追い縋るスナーク、その進行方向に黒い影が走り込んだ。


 「ミ"グニャァ~~ーーーッ!!」


 ミューツとスナークの間に割って入った小さな影はその勢いのまま小さな肉球をスナークの硬質な外殻添え……


 バシッ!!


 辺りを青白く染める閃光。

 焦げ臭いつんとした臭いがミューツの鼻孔を掠める。


 「おや……びん、サン!?」


 「ニャゴルルル!」


 ちらりと振り返りまだ敵は倒れてはいないとスナークに視線を戻すおやびん。


 「助……ケテ、くれるンデスか……」


 当たり前だと言うように太い尻尾が揺れる。


 おやびんがどの様な手段でスナークを退けたかは判らなかった。だが明らかにスナークは怯んだ。この地球産の獣の攻撃はミューツの防御機構よりもよっぽど有効な様だ。


 「おやビンサん、ありガトウ……ゴざいマス、絶対、絶対スナークハ、仕留めマショウ」


 「ミ"ニュガァァァッッ!」


 「行きマスッ!!」


 ミューツは立ち上がった。

 

 最早打てる手段も乏しい。よい打開策も浮かびはしない。


 それでも。


 それでもだ。


 自分はエルフ!


 (いにしえ)に世界樹の守護者として名を馳せたエルフの一族!

 ガルガンティスの無い時代、弓と矢を手に惑星(ほし)喰らう怨敵に命尽きるまで抗った誇りある一族の末裔(すえ)

 悠久の戦いの果てに世界樹は失われてしまったが、その血脈はミューツにも受け継がれている。

 ならば護って見せようではないか!

  

 ミューツ・リュー・ミリュノフは立ち向かった。


 無手であろうともその勇気を武器に。



 


 


 

 

 

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