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お伽噺は空の上で7 女子会

 ピンポーン


 インターホンが来客を告げミューツはパタパタと玄関まで小走りで行き引き戸を開く。


 「はろはろ~ーーんミューツさぁん」


 「はろはろーーんデス、しなちん」


 「うっわ! ミューツさん着物だっ、ヤバッスッゴく似合ってる!」


 「ウフフ、ありがとうございマス。地球(こっち)に来てから普段着にと頂いた物でしてわたくしもとっても気に入っているんデスヨ。今日は朝顔柄の小地谷縮を選んでミマシタ」


 「外国(あっち)じゃやっぱり和服は手に入り難いでしょうしね。

 普段着にってミューツさん普段から着物なんですか? あれ? でもこの間のプールの時は変Tとホットパンツだったし……」


 「あれはバイクに乗ってたからデスネ、何時もは着物デスヨ、着付けとか初めは戸惑いましたが慣れるとひとりでも着られマス」


 わいわいと会話を楽しみつつふたりは玄関に履き物を脱ぎ廊下を歩く。


 硝子戸の向こうの庭は暗く闇に塗り潰され夜気を纏っている。


 この時刻ともなれば日中の茹だるような熱気も鳴りを潜め涼しげな夜風が木々の合間を駆け抜ける。


 「あら、しなちん、遅かったですね、もう七時回ってますよ?」


 「ヤッホーしなちん、先に来てミューツさんに着物見せて貰ってたぞ、いやぁ、ミューツさん何でも似合うんだもん、やっぱ美女は特だよなぁ」


 「コバーー! ヨッチ、もなむー、出掛けにおかーさんに捕まっちゃってさ、三太夫の散歩頼まれちゃって…… ついでだから散歩がてら連れてきちゃった」


 「お! 三太夫も一緒か! 後で遊んでやろう」


 「でも大丈夫です? このお宅には大きな猫さんが居ますよ!? 喧嘩になるんじゃぁ……」


 「あ、さっき会った、スッゴくおっきい猫でしょ!? 子牛位はある目付きの悪い二、三人殺っちゃってそうな雰囲気の。大丈夫大丈夫、出会った瞬間三太夫尻尾股に挟んでお腹の見せてたから」


 「アハハハッ! ヨエー、三太夫ヨエー! 一応アイツ猟犬だろ!? なんつったけ? シコシコ? ティッシュペーパーがなんとかって……」


 「もなむー下品よ、スコティッシュディアハウンドでしたよね」


 「そう、スコットランドの猟犬、……なんだけどねぇ、流石にあの猫には勝てないって。知ってる? あの猫この間の畑に出てきた猪倒しちゃったんだから!」


 「あ! 知ってる知ってる! 何でもとある軍事施設でゲリラ殲滅用に開発された生体サイボーグでその爪は鋼鉄をも切り裂き尻尾の一撃は関東軍二個師団を三十六秒で灰塵に還え肉球から二兆八億四千万デシベルの電流を流し込むんだって弟が言ってたぞ」


 「………ツッコミ所満載の眉唾情報ですね、でも黒沢くん家の飼い猫だとは知りませんでした」


 賑やかに三人がおやびんの話題に盛り上がっていると障子が開き部屋の主がお盆片手に入室した。


 「しなちん、麦茶でよかったでショウカ? 皆さんも麦茶おかわりよろしかったラ」


 「ありがとうございまーすミューツさん、三太夫に併せて走ってきたから喉渇いてたんです。ん~~冷たい麦茶最高!」


 「三……太夫デスカ?」


 ミューツは小首を傾げる。走ってきたと言うことから動物、いや、バイクのような乗り物なのかも知れない。それに三太夫!? 大昔この国にいた支配階級の会計などを任されていた役職名だと記憶している。


 「家で飼ってる犬なんです。あ、勝手に家の前に繋いで来ましたけど良かったですか!?」


 「え!?ええ、繋いデ!? 構わないと思いマスガ……しなちん、『犬』とはいったい……」


 「ええっ!? ミューツさん犬知らないんですかっ!??」


 「は、はい、知りマセン、わたくしの居た場所には犬はおりませんでしたカラ」


 「へぇぇ~~ーーー、犬の居ない場所なんてあるんだぁ、犬なんて何処にでも居るもんだと思ってた」


 「人類が窖に居を構えていた頃からのパートナーですからねぇ、私も驚きました、ミューツさんが犬を知らないとは……世界は広いですねぇ」


 「ス、スミマセン、無知なモノデ……」


 彼女たちの常識を自分が知らない。地球外からやって来た故に仕方のない事だが僅かに疎外感を覚えミューツは肩を落とす。


 「そ、それじゃぁ外に三太夫見に行きましょうよ! 私もミューツさんにうちの子紹介したいですしっ、ふわっふわで大人しくて可愛いんですよっ!! きっとミューツさんも三太夫の事気に入ってくれる筈ですっ!」


 流石は姦し三人、いや、今は四人娘のリーダー水島志奈子は空気の読めるイイオンナ、直ぐ様この尊敬する美女の落ち込みを察するとミューツを外へと誘った。


 ぞろぞろと連れ立って玄関へ、靴を履き小さな外套の灯る外へと出るのだった。


 「そう言えば今日は黒沢くんとお兄さんの姿が見えませんね?」


 「タタラとテツヒトさんは今日は女子会をするって伝えたら逃げ出してシマイマシタ。タタラはまたからかわれるかもってちょっと涙目デシタ。テツヒトさんは気を使ってくれたんでショウネ」


 「そう……ですか」


 「ウフフ、残念でしタカ?タタラが居なくテ!?」


 「ちょ、ミューツさんっ! やめてくださいよっ!!」


 「フフフフ、しなちんお顔が真っ赤ですどうしマシタカ? お風邪でも召しマシタカ?」


 「ミューツさぁぁんッッ!!」


 「フフフフフフ、しなちんは思ったことが顔に出るタイプデスネ、そんな正直なところが可愛いデスヨ!?」


 言い捨て足早に去って行くミューツ、からかわれたからか、或いは図星を突かれたからか、耳まで真っ赤にして志奈子はその後を追い掛ける。


 楽しい女子会はまだまだ始まったばかりだ、笑い声は時計の針が天辺を指すまで途絶える事は無かった。




 一方こちらは黒沢家を女子軍団に明け渡した男衆。


 「タタラ、かやくくれ」


 「はい、卵入れる?」


 「持ってきてねぇ、オマエ家戻って取ってこい」


 「い、嫌だよ! にいちゃん取ってきてよ」


 「俺だって嫌だっての、仕方ねぇ具無しで喰おう」


 「……うん」


 ふたりは畑の小屋で侘しくコッヘルで湯を沸かし袋麺を啜っていた。


 はたはたと灯りに舞う一羽の蛾がより虚しさを演出していた。


 「あんちゃん」


 「ああ!?」


 「この袋麺何処で買ったやつ?」


 「隣町のスーパー」


 「ふうん」


 「一箱六百八十円」


 「ふうん」


 「あんまり美味しくないね」


 「……ああ」


 ずるずるずる


 ずるずるずる


 ずるずるずる


 ずるずるずる


 「多々良」


 「うん?」


 「おやびんどうした!?」


 「家に居るよ、女の子だけじゃ物騒だからって」


 「男前だな、アイツ」


 「うん」


 ずるずるずる


 ずるずるずる


 ずるずるずる


 ずるずるずる


 「あんちゃん」


 「ああ!?」


 「このロボット」


 「ガルガンティス」


 「ガルガンティス」


 「それが?」


 「随分と形変わったね」


 「ああ」


 「なんかカッコ良くなった」


 「そうだろう」


 「完成?」


 「八割方な」


 「後は?」


 「各関節のバランサーの調節とモニター類の取り付け、モジュールの調整に兵装の取り付けと機体本体との同期、各部スラスターの出力調整、宇宙(そら)に出る事を想定して気密の再確認だな、余裕があれば動作プログラムに不備が無いかも再確認したい、キャッシュの処理のオートメーション化、入力処理の最適化………」

 

 「あんちゃん」


 「ああ!?」


 「大変だね」


 「ああ」


 ずるずるずる

 

 ずるずるずる


 ずるずるずる

  

 ずるずるずる


 「多々良」


 「うん?」


 「オメェ俺の言ったことの半分も」


 「判んなかった」


 「だと思った」


 「全然」


 「ああ!?」


 「全然判んなかった」


 「そうか」


 「うん」


 ずるずるずる

  

 ずるずるずる


 ずるずるずる


 ずるずるずる


 「あんちゃん」


 「ああ!?」


 「なんか久しぶりだね」


 「何が!?」


 「こうやってふたりきりでご飯って」


 「そうだな最近はミューツのヤツも居たし……」


 「じゃなくって」


 「ああ!?」


 「思い出すよ」


 「何が!?」


 「ハルマシュカでにいちゃんに拾って貰って、こうやってラーメン作って貰って、あの時僕は……」


 「多々良」


 「うん?」


 「忘れろ」


 「……うん」


 「忘れちまえ」


 「うん」


 「いいな」


 「うん」


 ずるずるずる


 ずるずるずる


 ずるずるずる


 ずるずるずる


 「多々良」


 「うん?」


 「オマエは多々良だ、俺の弟、黒沢家次男坊、日本人、黒沢多々良だ」


 「……うん」


 「いいな」


 「………う"ん"ッ」


 「とっとと喰っちまえ」


 「……………うン"ッ」


 「泣くなバカッ」


 「…………………う"う"~~ーー……」


 ずるずるずる


 ずるずるずる


 ずるずるずる


 ずるずるずる


 夜は更ける。


 箸が転げても笑い声に包まれる彼女たちの上にも。


 言葉少なに麺を啜り込む彼らの上にも。


 星は平等に瞬いた。






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