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第九話 第二の東西決戦

# 第九話:第二の東西決戦


慶長十八年(一六一三年)初夏。


播磨から摂津へ至る広大な野は、異様な緊張感に包まれていた。


東から押し寄せるは、征夷大将軍・徳川家康が率いる「東軍」三十万。対する西は、豊臣秀頼の「錦の御旗」のもとに集結した「西国大連合(九州王国・毛利・四国・豊臣遺臣)」二十万。


日ノ本を再び二分した「第二の関ヶ原」の火蓋は、かつて如水が青年期を過ごした故郷、播磨の地で切って落とされた。


「放てっ!」


開戦の轟音を響かせたのは、西国連合軍の誇る新兵器であった。


長崎の南蛮貿易で仕入れた数百門の「フランキ砲」が一斉に火を噴く。東軍の先鋒、猛将・本多忠朝の軍勢が、射程外からの凄まじい砲撃によって突撃する間もなく木っ端微塵に砕け散った。地響きを立てて炸裂する砲弾の嵐に、東軍の騎馬隊はたちまちパニックに陥る。


「うろたえるな! 敵は寡兵、数の利はこちらにある! 押し潰せ!」


家康の次男・結城秀康らが大軍を叱咤し、数の暴力を頼みに西国連合の陣へと殺到する。


しかし、そこに立ち塞がったのは、九州が誇る二頭の虎であった。


「豊臣の御恩、今こそ返す時! 我に続け!」


加藤清正が愛槍・片鎌槍を執って先頭に立つ。清正率いる肥後勇士の鉄甲騎兵が東軍の側面へと猛然と突っ込み、その陣形を強引に切り裂いていく。


さらに、もう一方の翼からは「島津の引かれ戦」が炸裂した。


島津義弘率いる薩摩兵が、わざと敗走を装って東軍を引きつけ、袋小路へ追い込んだその瞬間、周囲の草むらから数千挺の「南蛮式ゲベール銃」が一斉に姿を現した。


ズガガガガガッ!


雨あられと降り注ぐ弾丸の前に、東軍の兵士たちが次々と倒れていく。島津の統制された一斉射撃は、東軍の突撃力を完全に削ぎ落とした。毛利の水軍もまた、摂津の海から徳川の補給路を断ち、東軍をじわじわと干上がらせていく。


だが、徳川家康もさるもの。


三十万の兵力は伊達ではない。本陣の家康は、西国軍の猛攻に微塵も動じず、冷徹に兵を回して清正や島津の軍勢を包囲し返そうとしていた。数の差により、徐々に西国軍の前線に疲弊の色が見え始める。


その戦況を、後方の本陣で車椅子に身を預け、血を吐きながら見つめている男がいた。


黒田如水である。


「……ふっ、さすがは家康。力押しだけでは、あの老狸の首には届かぬか」


如水は口元の血を拭い、傍らに立つ長男・長政を見た。


「長政。仕掛けの時だ。私がかつてこの播磨の地に本拠を置いていた頃から、この日のために仕込んでおいた『最後の罠』を動かせ」


「父上、まさか……あの地雷火を?」


「そうだ。家康の動向はすべて読めている。奴は必ず、我が本陣を総攻撃で潰しに、この中央の谷を突っ込んでくる。そこへ誘い込め」


如水が最後の采配を振るった。


西国軍の中央陣地が意図的に脆く崩れ、後退を始める。家康はこれを「好機」と捉えた。


「黒田の本陣が崩れたぞ! 如水の首を取れ! 総員、突撃せよ!」


家康の命令一下、徳川の旗本衆、精鋭たちが一斉に中央の谷へと雪崩れ込んでいく。


数万の大軍が谷を埋め尽くしたその瞬間――。


如水は静かに、水鉢の水を一滴、床へ落とした。


「さらばだ、家康の野望よ」


ドン、ドロドロドロ……ッ!!!


天地を揺るがす大爆発が起きた。


如水が事前に地下深くへ埋め込ませていた、南蛮直輸入の莫大な量の「黒色火薬」が一斉に爆発したのである。山が裂け、大地が爆ぜ、徳川の精鋭たちは絶叫と共に土煙の中へと消えていった。


煙が立ち込める戦場。東軍の無敵の進撃は、完全に停止した。


静まり返る戦場に、如水の冷徹な声が響き渡る。


「全軍、突撃。家康の首を獲れ」


形勢は完全に逆転した。動揺し、壊滅状態に陥った三十万の東軍に向け、九州王国・西国連合の総突撃が始まったのである。


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