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第一章
第一節 異世界
今日は日曜日。誰にも咎められることもなく自由に動ける嬉しい日。
この解放感が最高で、晴天ともなればまた気分は上がる。
そよそよと吹く風と、緑の木々が揺らす木漏れ日の日差し。
あの一人きりの部屋と同じように、ここも無音なのに、「淋しさ」は感じない。ここは色とりどりの色で染められ、音は無いけど賑わっていた。
━・・ヤク・・・━
不意に誰かの声が聞こえた気がして、皇は振り向く。そこに人はいない。
ただの空耳、そう思いまた暖かい日差しの下を歩きだす。
━オチロ━
今度ははっきりと、そう聞こえる。
(「落ちろ」・・・?「落ちろ」ってなんだ?)
意味不明な言葉に、皇は立ち止まり頭を悩ます。辺りを見回しても、何処にも人が「落ちそう」な場所は見当たらない。それどころか、ここは段差さえない真っ直ぐなコンクリート造りの一本道だ。あるのは昨日の雨で出来た「水溜り」が一つ。
皇はその水溜りの傍まで行くと、そっと上から覗き込む。
(・・・いや、落ちれないだろ・・)
水溜りは浅い。上から見て、コンクリートの地面が見えている。これでは落ちるどころか、靴の底が濡れて終わるだけだ。
謎は更に深まる。皇は人がいない事を確認すると、その場にしゃがみこんだ。
指で触れてみる。そこには水の波紋が浮かび、水面に映っていた皇の顔を歪ませた。
「浅い・・・よなぁ」
指の第一関節にも満たない水溜りを眺め呟く。と、そこに。
━早く、落ちろって━
またあの声が聞こえた。今度はすぐそばで。
すると平静を取り戻した水面に知らない影が映っている。皇の真後ろにその影はある。
「へっ!?」
慌てて後ろを振り返るが、そこには人はおろか鳥や虫さえもいない。ホッと息を吐き水溜りに向き直ると、そこにはやはり「影」が映っていた。
━無駄だって、ソコには居ねえもん━
耳元で声がする。楽しそうに嘲笑う声に、皇の背筋は凍りついた。
「何なんだ・・・一体」
そう呟くのが早いか、その声の主はニッと笑った気がした。そして・・・。
━とっとと、落ちろー(笑)━
その声と共に、皇は背中を押され顔面から水溜りへと突っ込んだ。
「ばっ、バカ!!」
顔から地面に激突する恐怖で・・・いや、信じられない事が起こっていることへの恐怖かも知れないが、皇は思わず目を閉じる。すぐに来るはずの痛みは、何故だか来ない。
恐る恐る、閉じていた瞳を開くとそこには信じられない光景が広がっていた。
黒い背景に光る水の泡。辺りには走馬灯のように景色が目まぐるしく移り変わり、そこに彼の知る景色はない。
「何だ・・・これ」
水の中にいる感覚は確かにあるのに、服も濡れていないし息も苦しくはならずに呼吸が出来ている。
不思議な感覚。
━イクヨ、ツイテキテ━
今度は光る泡になったその声に、皇は手をひかれる。
「泡」に手はないのだから、実際に手をひかれている訳ではないのに、何故かそう思った。
その光に導かれ、皇は知らないセカイへと足を踏み入れる。
誰も知らない━『水溜りに映るセカイ』━へと・・・。
次話更新です。
ようやく異世界へと飛びました。
これから、どういう風に進むのか乞うご期待下さい。




