表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/59

40

 

 リリアナが隣の居室に戻ると、侍女のサラがちょうどお茶を淹れていた最中であった。


「あら?ユーリス様もおられましたのね。今、お席を準備いたします」


 サラは、アークが浴室のパウダールームからリリアナと一緒に出てきたことに、疑問も現さずてきぱきとアークの分のお茶も並べていく。


 ーーーそこは、軽く突っ込んで欲しいのだけど!


 リリアナが1人で、アークとパウダールームから出てきたことにサラが変な勘違いをしないかハラハラしていていても、サラは気にもしていない様子だ。

 一方、アークといえば、長椅子にリリアナと並んで座り、サラの事などお構いなしに、リリアナの髪を手櫛でとかすように、触り続けている。


 ーーーさっき、襟を直されたのも、びっくりしたけど。ちょっと、バカップルみたいに触り過ぎじゃないかしら?


 リリアナが半目でアークの過剰なスキンシップを見ていると、視線に気がついたアークがふっと笑い、リリアナの瞼にキスを軽く落とした。


「ちょっ!アーク!サラが見てるでしょ!ーーっん!」


「リリアナ様、どうぞ私の事はお気になさらずにお過ごしくださいませ」


 アークが続けてリリアナへ顔を傾けてくるので、唇にキスをされると感じたリリアナは、慌ててアークの胸元を押し留めて抗議をしたが、その手を退かされて結局キスをされてしまう。

 サラと言えばどこ吹く風で、主人達のいちゃつきを完全にスルーしていた。


 ーーー今日初めて会った人の前でキスとか!信じられない!


 リリアナの顔が真っ赤になっていくのを、笑って見ていたアークはサラの淹れたお茶を優雅に飲みだした。


「ーーさっき、メイルズ男爵から連絡が来たよ。リリーがこれから公爵家に滞在するのを了承してくれた。領内で魔獣が出たからね、城から調査団が派遣されて詳しいことを調べていくことになる」


 アークに急に真面目な話をふられ、リリアナは過剰なスキンシップへの八つ当たりの矛先を失った。けれども、話題が知りたかった内容でもあるため、恥ずかしさを我慢して大人しく聞くことにした。


「リリーが心配していた学園への入学準備はリーフェンシュタール公爵家でおこなうよ。リリーが姉上のレベッカ嬢とメアリー嬢に会いたいならば、2人を公爵家に招待すれば良い。」


 2人の相手の婚家もリーフェンシュタール公爵家との繋がりは悪く思わないだろうしねーーとアークに言われると、元日本人のリリアナは、貴族ってつくづく家同士の繋がりが大変だなと感じてしまう。


「でも、何から何までお世話になるのって抵抗があるんだけど。ーーーそれに友達にも会いたいし。事件が落ち着いてきたら帰っても良いんだよね?」


 リリアナは公爵家の桁違いの優雅な生活に些か不安を抱えていた。そのため、精神的にも落ち着くメイルズ男爵家に帰りたいと、早くもホームシックにかかりそうになっていた。

 アークはそんなリリアナを見つめながら、優しく諭すように言い聞かせる。


「リリーは近い将来、このリーフェンシュタール公爵家の家族になるんだよ?お世話になるーーって余計な遠慮なんかいらない。兄姉に会いたければ公爵家に呼べば良いし、友人達も屋敷に招いて茶会でも開いても良いんだから」


 アークはリリアナの話をにこやかに聞いていたが、リリアナをメイルズ男爵家に帰すことには完全に否定的である。リリアナには伝えていなかったが、リリアナが学園に入学するまで、リーフェンシュタール公爵家でリリアナを預かるとメイルズ男爵に通達を出していた。

 出来ればずっと帰したくないんだけどねーーとアークは呟いたが今日一日疲れて、くたくただったリリアナの耳には届かなかった。


 傍に仕えていたサラは、そんな2人を微笑ましそうに見つめていた。


 それから2人で今後の簡単なスケジュールーー学園の準備は屋敷に商人を呼び必需品を用意するとか、仕立て屋を呼んで茶会のためのドレスを作らせるとか、今後婚約披露の夜会を開くのでダイアナと相談していこうとかーーを確認した。

 リリアナが思っていた以上にアークはリリアナにかなり甘いらしい。必要なものは最高級品を全て買いそろえるという勢いに、リリアナは自分が公爵家にたかる悪女にでもなった気分になった。



 ーーーーーー



「ユーリス様、リリアナ様、もうすぐご夕食の準備が整いますが、本日はどちらでお召し上がりになりますか?」


 すっかり話し混んでいたため、時間が随分経っていることに2人は気がついていなかった。サラの一言に時計を見ると、夕食の時間になろうとしている。


「もうそんな時間か?ごめん、時間がかなり経っていたことに気がつかなかった…リリアナは今日は疲れただろう?父上はメイルズ男爵領の魔獣の件で城に登城しているし、母上は夜会で外出しているから、今日はここで食事をとろうか?」


 ーーーあっ!!そう言えば、リーフェンシュタール公爵家の皆様に挨拶していなかった…


 アークは何気なくリーフェンシュタール公爵夫妻の不在を伝えてきたが、いくら親戚の男爵令嬢でも黙って家に上がり込んでは常識が疑われてしまう。

 すっかり自分の事で精神的にいっぱいいっぱいになっていたリリアナは、肝心のご両親に来訪のご挨拶を抜かしていたことに青ざめた。



いつもお読み頂きありがとうございます。

ブックマーク&評価励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ