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 いっそうのこと、気絶してしまえば、楽に死ねるのかもしれない。リリアナはそう思いながら、魔獣の目を見据えた。

 魔獣は今にもリリアナの首もとを噛み切ろうとチャンスを狙っているのか、鋭い目付きでリリアナを睨んでいる。


 ―――これは、完全にThe Endだわ


 どうにか突破口を見つけて逃げようと気を張り詰めてはいたが、とうとう諦めの境地に達する。転生後、長生き出来れば良いなと漠然と願っていたのに人生は儘ならない。


 ―――逃げられない。せめて一瞬の痛みで死ねれば良いのだけれど


 幼い頃の誘拐監禁事件のような、いつ終わるかと恐怖する痛みは嫌だなーーと切に思う。


 ―――人生って、呆気なく終わるものなのね


 どうして男爵領にいないはずの魔獣がいるのかという疑問は湧かなかった。

 あまりの恐怖に生への諦めが募る。


 ―――せめて、バラバラのミンチにはしないでちょうだい


 魔獣にとっては、目の前のリリアナはただの食糧だ。殺した後は好き勝手に食べるのだろう。せめてもの願いで、発見された後、リリアナという自分の痕跡くらいは残してほしいと切に願ってしまう。


 グルルル…


 気を緩ませたリリアナに、さらに魔獣が近づく。後ひとっ飛びでリリアナは死ぬ。


 ―――魔獣って近くで見るとこんなに大きくて…臭いのね


 リリアナが場違いな感想を持ったその時、ザクッという音と共に魔獣がリリアナに向けて飛び掛かってきた。と同じくして、何故か胸が詰まるような息苦しさにも包まれる。


 ―――っ!死ぬ!


 キーンーー!!

 ギャァァァ…!!グゥゥ…


「っ!リリー!!」


 リリアナが死を覚悟し瞳を閉じた瞬間に、瞼を閉じていても、なお眩しい光が差す。

 と同時に大きな生き物が間近で苦しむ断末魔の声がし、聞こえるはずのない婚約者の叫びかこだまする。


 ―――?!アーク!!


 ぐいっと腕を引っ張られ、暖かい風に抱き込まれた瞬間、意を決して目を開けると見馴れた婚約者の顔が映った。


「どうして、ここに…」


「―!!兄上!!リリー姉さま!!」


 リリアナが突然、目の前に現れたアークに呆然としながらも驚いていると、同じくして、こちらの異変に気がついたパトリックの驚きの声が林に響いた。


「リリー!無事か?!怪我はない!?痛いところは?」


「兄上!一体なにが?!」


 アークは動揺を隠しきれず、青ざめるリリアナの体を隈なくチェックし、怪我がない事を確認した。しかし、腕の中のリリアナ小刻みにカタカタと震え始めていて、唇は真っ青だった。

 これでは余計に心臓に負担がかかってしまうーーアークは急いで、リリアナの自身の水の加護を手繰り寄せようと試みた。けれども、リリアナの水の加護は魔獣に遭遇した精神的負担から乱れており、アークの精霊魔法を持ってしても掴みきれない。

 これはかなり不味い!ーーアークの心配が最高潮に達したところに、走ってきたパトリックが側に駆け込んできた。


「兄上!これは一体?!なぜ、こんなことが?!」


 一面に広がる魔獣だったと思われる肉片と血飛沫にパトリックは信じられないとばかりに声をあげた。


「パトリック!状況確認は後だ!今はリリーを!」


 アークの怒鳴り声ではっとしたパトリックが、アークに抱き込まれたリリアナを覗き込むと、顔面蒼白で痙攣を引き起こす手前――

 すぐに、状況が深刻だと感じたパトリックは、全力で己の水の精霊魔法でリリアナを癒しにかかった。

 パトリックはリーフェンシュタール公爵家が代々受け継いでいる、水の精霊魔法を行使し、帝国内でも最高級の治癒することが出来る。

 アークがあまりの心配に言葉を失くしながら、しばらくパトリックの治癒を見詰めていると、リリアナの唇が少し動いた。


いつもお読み頂きありがとうございます。

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