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「オスカー・シュタインブリュック、婚約者がいると分かって、愛を告げるのはマナー違反だと思うのだが?」


 部屋に重い空気が漂う中、アークは諭すようにオスカーに話しかけた。


「それはお前が皇帝まで動かして、リリアナとの急な婚約を急いだからだろう!!」


 落ち着いた態度のアークとは反対にオスカーは苛立ちを隠そうともせずにアークに詰め寄った。


「確かに、俺はリリアナとの婚約を力業で奪い取った。この婚約をメイルズ男爵も娘を嫁に出したくないと初めは抵抗していたが、先程了承してくれたよ。リリーの幸せが、俺との将来にあると。娘を頼むーーとね」


 ーーーっ!!私抜きで良かった!!


 先程、父であるメイルズ男爵に婚約の了承を伝える際に、一緒に行かなくて良かったと心底リリアナは思った。その場にいたら恥ずかしさやら、なんやらで居たたまれなかっただろう。

 リリアナがアークの影で赤面をしているのを見たオスカーは、己の敗北を察したが認めたくない。


「ーー!!俺だって!ずっとリリアナが好きだった!」


 ーーーひぇー!!オスカー!落ち着いて!


 自棄糞混じりの怒鳴るようなオスカーの告白に、リリアナは居たたまれなさを感じた。


「オスカーそれではお前をリーフェンシュタール公爵家の婚約者を誘惑するーー即ち、当家の敵と見なすことになるが?ーーー少し冷静になれ!」


 敵対の意思を伝えたアークに、リリアナはぎょっとし、アークの袖を引っ張った。


 ーーーちょっと、アークも落ち着いてよ!!


 驚きを覚えたリリアナがオスカーの告白に怯えたと勘違いしたアークは、リリアナを引き寄せて腕に抱き締めた。


 ーーー抱き寄せたら、余計に逆効果じゃない?!


 言葉と行動がチグハグなアークに、リリアナが心の中で突っ込みを入れると、部屋の外からノックが聞こえた。



 ーーーー


カツカツカツ…。神経質そうなハイヒールの音が部屋に響く。先程までの苛立ち混じりの部屋がうって変わって、シーンと張りつめた空気が漂った。


「ーー外までオスカーの怒鳴り声が聞こえてましてよ。今、貴方の家の者を呼びに行かせたわ。貴方、淑女の部屋で何を騒いでいるのかしら?」


 女王様のような凛とした美しさを怒りに染めて、上の姉レベッカがオスカーに事の次第を問う。その有無を言わせない強い口調に、オスカーははっと我にかえりリリアナを見た。


「リリアナに精神的負担をかけるなんて、貴方は何を考えてるの?ほんとにリリアナを好ましく思う人間がとる態度ではなくてよ!」


「お、お姉さま!!」


 いつにないレベッカの憤りに、リリアナはいくら親戚筋でも、シュタインブリュック侯爵家嫡子を相手に男爵令嬢ごときが叱責するのは、不味いのではないかと慌てた。


「レベッカ嬢の言う通りだ。オスカー、とりあえず場所を移そう。リリーは部屋で少し休んでおいて」


 アークもレベッカの意見に賛同し、リリアナを寝室へ促した。

 するとそこへ、バタバタと複数の足音が近づいてきたかと思うと、慌てた執事が部屋に飛び込んできた。


「失礼します!シュタインブリュック公子様、侯爵夫人様がお呼びです!ーーっ!夫人!!」


「オスカー!!貴方何をしているの?!」


 入室してきたのは、メイルズ男爵家の執事ジャックと、オスカーを呼んでいる筈の侯爵夫人アンジェリーナだ。アンジェリーナはアークとレベッカの怒りの表情から事態を察知し、オスカーに詰め寄った。


「オスカー、今さら何なのです?!リリアナに打診をした婚約は、メイルズ男爵に受け入れられなかったのです。アークとリリアナの婚約が整うのは時間の問題だと伝えた筈ですよ。リリアナをからかってばかりで、もっと素直に自分の想いを告げなかった貴方の落ち度です!!」


 ーーー!!アンジェリーナ様もオスカーの気持ちに気がついてたのね…もしや私以外勘づいてたのかも…


 いくらアークに恋をしていたからと言って、自分への好意に微塵も気がつかなかった…自分はアークの言う通り鈍いのかもーーとリリアナが凹むでいると、レベッカがリリアナの体調を心配して言った。


「とりあえず、昨日もリリアナは倒れているのです!皆様場所を移動しましょう」


「そうね。リリアナ取り乱してごめんなさいね」


 執事のジャックが先導し、レベッカとアンジェリーナに促されながら押し黙ったオスカーが部屋から連れていかれる。


 ーーーまるで犯罪者のようね……


 リリアナはアークやレベッカに助けられていたため、オスカーにきちんと告白の返事をしなかったという罪悪感が込み上げてきた。そして、周りの大人に叱られて部屋を出ていくオスカーに、もう気楽な従妹として見て貰えないかもと寂しさが募った。


「ーーメイドのカナだったね?リリアナは昨日から疲れが溜まっているだろうから、晩餐まで少しでも休ませてあげてーーーリリーまたあとでーー」


 少し気が臥せっているリリアナを心配そうにみつめながら、アークはリリアナのこめかみにチュっとキスを軽く落とした。そして赤くなるリリアナの顔を見て満足げ微笑むと部屋を後にした。

 リリアナは、疲れが溜まった元々の元凶は、婚約を急いだアークでは?ーーと思いながらも疲れていたため言い返さず、そのままカナに付き添われて寝室へ引きこもることにした。


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