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ーーーえ……今のところ大丈夫とは?
突然の降って湧いたような、自身の身の危険話にリリアナは心の動揺を隠すことができない。
思わず、幼い頃に受けた誘拐監禁事件がフラッシュバックしそうになり、ぎゅっとアークのジャケットを握りしめた。
「リリアナにとっては、すごく迷惑な話だとはわかっている。でも、今度は必ずリリアナが怖い目に遭わせないと誓う」
リリアナの戸惑いと恐怖が伝わったのか、アークはリリアナをじっと見つめながら真剣な声で約束した。
ーーーでも、前回は子爵家令嬢だったけど、今回は隣国の王女様なのよ…
「きっと、また、危ないことが起きたら、今度こそ恐怖から這い上がれない…」
前回は、幼いリリアナが前世の日本人の記憶を甦らせ、何とか精神バランスを回復させた。次に、同じようなことが起これば、トラウマとなりいよいよ精神的に持たなくなりそうだ。
「リリアナには精神的な負担をかけてしまうのは承知している。それでも俺はリリーと結婚したい。リリー以外の女性と結婚して家庭を作ることなんてできない」
アークはリリアナの誘拐監禁事件の現場を救出の際に目撃している。どんな惨状だったか、リリアナの恐怖がどんなものだったかも理解した上で、リリアナとの結婚を懇願しているのだ。断れる覚悟もしている筈で、アークは珍しく自信のない表情を見せリリアナの言葉を待った。
ーーーこんな時に、そんな顔をするなんてずるいわ。ーーそれに、アークが誰とも結婚しないなんて選択はできないんじゃない?
リリアナはアークが筆頭公爵家嫡子であることから、リリアナがアークとの将来を断れば、いつかは他の誰かと結婚してしまうだろうと思った。
ーーーせっかく、ずっと一緒にいれるかもしれないチャンスなのに…。でも、またなにか起こったら…
アークと隣国のルーシャ王女との婚約の噂話により、1度初恋を諦めた時の辛い想いを思い出す。あれを再度味わうことになるのかと思うと、リリアナは悲しみでおかしくなりそうだ。と同時に事件の恐怖も忘れられない。
「…指先が冷たくなってしまったね。リリー、飲み物でも用意しようか?」
リリアナの落ち込む暗い顔を見ていたアークは、もしかしたら良い返事が貰えないのではと、今までになく不安になっていた。
確かにこれまで制約魔法のせいで、直接リリアナに想いを伝えることは出来なかった。しかし、頻繁に男爵家へ逢いに来たし、幾度もプレゼントを贈って喜んで貰っていたと信じていた。
リリアナからは時折、好意のような感情を感じていたが、違っていたのかーー背中に悪寒が走り、公爵嫡子として相応しい振る舞いをしようにも、少しばかり混乱した。
ーーーまさか??アーク、実験器具でお茶用意する気なの?!
アークにとっては勝手知ったるリリアナの研究室ではある。座っていた椅子から立ち上がり、ガチャガチャと大きめの三角フラスコを棚から取り出し、水を入れて3脚のついた台にのせて火をつける。リリアナが昔、そうやってアークにお茶を出したことはあるのだが、実験器具で飲み物を用意するなど公爵嫡子の発想とは思えない。
なぜ、侍女を呼び、飲み物を用意させないのかとリリアナは思ったが、はっと気づいた。
ーーーアーク…断られると思って、動揺してる?
アークの驚きの行動に驚いたリリアナだったが、いつも完璧な公爵嫡子がそこまで気が回らないくらいに、リリアナのことを真剣に想ってくれていると感じて、嬉しさが込み上げてくる。
ーーーアークを信じたい。やっぱり、私もアークが好きなんだわ。それに、もう、皇帝陛下の婚約の承認も下りてるしね
皇帝陛下から婚約及び婚姻の話を認められているのに、リリアナの意思を確認するようなアークな言葉と、ちぐはぐな行動も相まって微笑ましくなる。
ーーーアークとなら、幸せになれる
「ふふ…。アーク、三角フラスコでお湯を沸かすよりも侍女に頼みましょうーーーそれと、私もアークと結婚したいーーー」
リリアナが応えると、アークが初めは恥ずかしそうなばつの悪い顔をしたが、リリアナの返事を聞いて、喜びのあまり抱きついてきた。
ーーーちょっ!危ない!!
ーーー(ガシャーーン)ーーー
アークが抱きついた勢いで、また、置いてあったガラス容器が床に落ちて粉々に割れてしまった。
ーーーあぁ…私の実験器具が…
「ーーっ!すまない!」
結局、ガラス容器の破損により、甘い雰囲気は拡散してしまった。しかし、ガラス器具の破損でかなり落ち込むリリアナの様子から、アークは直ぐに代えのものを用意すると約束してくれた。当初のリリアナの狙いであるパトリックの割ったナスフラスコの弁償分と合わせて、アークに買ってもらうことにリリアナは図らずも成功したのである。
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