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 アークと屋敷に戻り、両親がいるサロンへ逃げ込もうとリリアナは画策したが、呆気なくアークに捕まった。


「一昨日、パトリックがガラス器具を壊したんだって?しばらくリリーの研究室も見てないし、お邪魔するよ」


 ーーーもはや提案じゃなくて、決定事項じゃない。


「最近、研究があまり進んでいないの…それでも良いのなら」


 リリアナは研究室の出資者に近い立場のアークをしぶしぶ研究室に招き入れた。若干、パトリックが割ったガラス器具を再度アークに用意して貰えたらなぁ…、なんて淡い期待をかけながら。


 ーーーそうだ、化粧水の改良についても聞いてみようかしら?


 研究室に入れば、すぐに自身の婚約話なんてそっちのけで、モナミ草の格安で手にいれる方法はないか相談することにした。


「ふーん。モナミ草ねぇ。確かにここ最近は手に入りづらく、価格が高騰しているね。リリーはどれくらい使いたいの?」


「うんとね、領内で販売する分の化粧水に使うから、そんなに多くはないんだけど」


 恐る恐る使う量を提示すると、アークは可笑しそうにくすくす笑いながら、その程度なら準備できると両手を差し出してきた。


 ーーーなによ、笑って!アークの手を掴めばいいの?!


「リリー?警戒してる?」


「当たり前じゃない。モナミ草の確保と手を握ることが関係しているの?」


 いいから、いいからーー、とアークが渋るリリアナの手を握ると手の平から急に温かな気配を感じた。


 ーーー?!これって!


「まさか、精霊魔法?でも、どうして?薬草と何か関係が?」


「今、リリーを介して大地の精霊にモナミ草の確保のお願いをした。精霊からは優しい柔らかな感触があったのがわかっただろう?精霊からは了承の旨があったよ。きっと、いつもリリーが薬草を取りに行く領内の林に近いうちに生えてくるよ」


「ーーアークの精霊魔法、超便利ー!!」


 リリアナが興奮して心の声を駄々漏れにすると、アークは可笑しそうに笑った。そして、ひとしきり笑った後、にやりとイタズラを思いついた顔をして、リリアナの手をそのままアークの口許に近づけ、誓いのキスのようにリリアナの手の甲に口付けた。


 ーーー!!


「研究の話は、これで一旦おしまい。これからは俺とリリーの婚約の話を続けよう」


 リリアナは口をパクパクさせながら、顔を真っ赤にしてコクコク頷いた。なぜ、密室の研究室にアークと来てしまったのかーー後悔先に立たずである。



ーーーーーー



「リリアナも俺とルーシャ王女の婚約の噂を耳にしているかも知れない。今回の休暇に直ぐに男爵家にこれなかったのには、皇帝陛下から直々に婚約の打診があったんだーー」


 ーーー(…びくっ…)


 アークは真剣な表情を見せ、しばらく沈黙した後、開口一番に、隣国のルーシャ王女との婚姻の噂について語りだした。

 これまでのアークからの説明により、リリアナはアークと王女の婚姻はないとは思っていたが、聞きたくない話には違いなく、やや逃げ腰になってしまう。

 すると、リリアナの震えに気がついたアークがリリアナの横に移動して座り、安心させるようにリリアナの肩を抱き締めた。


「心配しないで、未来永劫、ルーシャ王女との婚約も婚姻もない。第一、俺にはリリーがいるのに他の女性はいらない」


「あ、あ、アーク!心配無用だから話を続けて!」


 急にまた、密接し出しながら甘い雰囲気を出したアークに慌てながら、リリアナは話の先を促した。


「そう?ーー手っ取り早く言えば、隣国はルーシャ王女の我が儘っぷりから、国内で嫁入り先が見つからなかった。それで我が帝国に打診してきたわけ。でも、皇帝陛下は、皇太子に隣国の我が儘王女は娶らせたくない。だから、王女側がそれとなく指定してきた俺に話を振ったんだ」


 ーーーえっ!ルーシャ王女って我が儘なの?!あんなに美少女なのに!もったいない!!


 美人なのに我が儘だなんてまるで、ルーシャ王女は恋愛小説の悪役のようだなとリリアナは思った。そして、やはり両国間の友好ためには、アークと王女の婚姻が望ましいのではーーとも感じた。


「ーー皇帝陛下は、アークとルーシャ王女の婚約は必要だとは思われなかったの?断れば、両国間の今までの関係にヒビが入るんじゃない?」


 リリアナは自分でアークに聞いたにも関わらず胸が苦しくなった。リリアナが少しうつむき加減になると、アークは励ますようにリリアナの手を握って話を続ける。


「それは大丈夫。もともとあの王国は、近年、きな臭い動きがあってね、少し帝国としても距離を置こうと思っていたんだ。それに、元々俺はリリー以外の女性との婚姻は受け付けない」


 だから心配しないでーーと耳元で囁かれると、ふっと緊張がとける。と同時に、いくら制約魔法があったとしても、アークの好意に全く気がつかなかった己の鈍さを改めて認識した。


「正式な使者を立てた国家間のやり取りだからね。婚約の打診を断るにしても、手続きに時間が必要になった。今回の件の噂があまりにも早く広まったために、リリーが俺から離れていくのではないかと流石に慌てたよ。だから皇帝陛下をーーほんの少し脅してーーまぁ、無理を承知で、特別にメイルズ男爵側の意向を無視して、リリーとの婚約を進めたんだ。また、王女みたいな勘違いの我が儘な女性が、出てきたら面倒だからね」


 話の途中で物騒な言葉を吐きながら、アークは婚約を急いだ訳を掻い摘んで説明した。


「ちなみにユーダイヤ帝国内で、今回の噂が急に広まったのは、ルーシャ王女側の仕業だとみられている。リリーにもルーシャ王女から何か仕掛けてくるのではないかと心配したけれど、今のところ大丈夫そうだね」


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