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ひとしきりアークの説明を聞くと、リリアナは思いが通じ会えたことに、じわりじわりと嬉しさが募ってきた。一方で、リリアナがアークの気持ちも知らずに呑気に研究に明け暮れている間、アークには今まで陰で大変な努力をさせていたーーと申し訳なくも感じた。
だって、リリアナだって無関係ではないのだ。アークの持つ精霊魔法とは他の属性の精霊魔法は、リリアナの加護を使って発動しているのだから。
ーーーでも、私は、加護はあっても精霊魔法が使えない一般人だから、前もって話をされてもあんまり力になれなかったかも…
リリアナはすっかり、『ーー俺がリリアナに対して強い感情を持ったときにしか、他の属性の精霊魔法は発動しないーー』を忘れてしまっていた。アークがリリアナを強く思う限り、そもそもリリアナが協力することは、ほぼ不可能なのだ。
「少し休憩にしようか」
リリアナがアークから制約魔法の説明を受けて考えに耽ると、アークがリリアナの目の前に紅茶を差し出した。
ーーーあれ?いつの間にお茶を?!
驚いて横をみると、カナがにやにや笑いながらこちらを見ている。どうやら、アークのお得意の伝達魔法で東屋にお茶を運ぶように指示をしたようだ。
なんとも、気が利くなぁーーなんて呑気にリリアナは思ったが、次の瞬間自分とアークの密着度合いに気がついた。アークはまだリリアナを背中から抱き込むようにしていた。
ーーーっ!、この状態は、恥ずかしすぎる!!
「あ!あ、あっアーク!!カナが見てる!見えてる!ちょっと離れて!!」
「ぶはっー!」
あまりのリリアナのひどい動揺ぶりに、アークは堪えきれずに吹き出した。そして、名残惜しそうに腕からそっとリリアナを解放した。
「もう!!カナも東屋に来たなら教えてよ!!」
恥ずかしさを隠すため、やや八つ当たり気味にカナに怒るが、カナはそ知らぬ顔のまま澄ましている。
「俺達が話しているのを邪魔しないように気を利かせていたんだろう?さぁ、冷めないうちに、紅茶を飲んで落ち着いて」
まだ、くつくつと方を震わせてアークはリリアナにそう言うと、もう一度紅茶を差し出した。
ーーーアークの風の精霊がいる限り、紅茶が冷めるわけないじゃない!
苛立ちを隠しもせず、アークから紅茶を奪い取ると、リリアナは一気に喉に流し込んだ。リリアナが一度に飲んでも火傷しないような絶妙な温度で、腹が立つほど美味しい紅茶である。
「…!美味しいー!」
「…ふっ…それは良かった。リリーの好きなフルーツテイストの紅茶を持ってきたんだ」
昨日のお茶会の茶葉とはかけ離れて、香り高く、ものすごく美味しい紅茶である。この紅茶の茶葉であれば、姉様達の婚約披露の茶会も箔がついたかもしれないーーオスカーの言ったとおり、公爵家に茶葉の用意をお願いすれば良かったなんて、今になってふと考えに至る。
「ーどうした?もう一杯飲むか?」
リリアナが紅茶をじっと見つめると、アークが心配そうに声をかけてきた。
「ううん、違うの。美味しい紅茶だったから、昨日のお茶会でも出せていたらなぁ…なんて考えてたの。ーーオスカーにも言われたんだ。そんなに茶葉にこだわるなら、リーフェンシュタール公爵家に頼れば良かったのにーーって」
「ーーへぇ…。オスカーがね…」
また急に冷え込み始めた東屋に、どうしたものかと側のカナを見上げると、呆れた顔でリリアナを見ていた。
『…リリー…謝るのよ!』
口パクでカナはそうリリアナに伝えると、そぉっと東屋を出ていく。
ーーーあー!!カナ、私を置いて逃げたわねー!!
「あ、アーク?怒ってるの?お茶会の紅茶の相談はやっぱり公爵家も戸惑うし、迷惑かけるよね?」
やっぱり、茶葉くらいは男爵家でどうにかしないとーーとリリアナが思っていると、アークは冷気をやや静めてため息をついた。
「…リリアナはいつも通りの鈍さだね。まぁ良い、ここも冷えてきたから、屋敷に戻って話の続きをしようか」
ーーー鈍いって失礼な!これでも気配り上手な元日本人なのに!!寒いのだって、アークのせいじゃない!
リリアナがじっとりした目でアークを見つめると、腹黒いにっこり笑顔で返された。
ーーーうーぅ。アーク怒ってる…ここは気配り上手な日本人が折れましょう…
「…わかった…屋敷に戻りましょう」
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