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心理戦の100万円アプリ  作者: 華メガネ 広大
2nd Stage
9/34

女社長の髑髏

 2人でタクシーに乗り込み、バイブレーション機能で1番近くのプレイヤーを探す。


「まぁ優君だったら余裕でしょ!

 」


  僕は自分の長所が聞けれると思い

 、オーバーに振り向いた。

「何で!?」


「ギャンブル強そうだから」


  膝まで顔を埋めて大きく溜息をついた。


「あ、優君ここら辺みたいだよ」


 高層ビルが並ぶ一角でその中でも一際大きいビルの前にタクシーは止まる。僕らはタクシーを降りて目の前の会社を見上げた。でかいな、会社の中だろうか?

 賢次はケータイを上下にした。


「多分上の方だね」


 どうしようか、何階にいるのかもわからない。もうポイントクリアして逃げ込んでるのか? 昨日は話しすぎて、作成も練ってるうちにすっかり朝になってしまっていた。


 とりあえず入り口でウロウロしていると警備員がきそうになったので受け付け嬢の前にくるが言葉が出ない。


「今日はどういったご用件でしょうか?」


 なんて言えばプレイヤーに辿りつけるんだ……? ケンジはずい、と前に出ると笑顔で受付嬢に話しかける。


「これ、マイク?」


「はい、左様で御座います」


  するとケンジは身を乗り出し、マイクを握るとスイッチを全部入れた。


「プレイヤーの人ー! 今受け付けにきてますー!」


 するとすぐに警備員が走ってきて取り押さえられるケンジを見て、慌てて警備員の背中を叩く。


「違うよ、そいつは怪しくないから!」


「柔道技なんて反則だぞお!」


 ケンジが足をバタバタ動かしていると、受け付け嬢が大声を出して、周りの視線を集めた。


「あの! 社長がお会いになるそうです」


 ふん! と服を正して警備員をケンジが押しのけると、頭を抱える僕に向かい大声を出した。


「優君どうやら社長らしいね、相手は窓際がよかったなあ。あっはっはっは」


 この1連の騒がしさに、こんなやり方しかなかったのか? 僕は顔のパーツを全て真ん中に寄せるように、不機嫌な顔を作った。


「最上階で社長がお待ちです」


 一階の面倒事の修羅場を抜け、エレベーターに乗り込む。


「他にやり方なかったのか? あほ!」


「相手はクリアしてるのか、蜘蛛の巣か。どちらもヤバイね。」


 ケンジはトランプを切って遊んでいると最上階に着き、扉が開くと、女性社員だろうか、僕らを待っていて深々と頭を下げる。


「こちらへどうぞ」


 窓から下を見つめて歩いていると、ケンジが叫ぶ。


「げ、優君魔女のカード出たよ」


「占いまですんの? で、それいいの? 悪いの?」


「悪いね、でも見て逆さまなんだ」


「大丈夫僕は占い信じないから。それ、当たるの?」


「趣味だからなんとも……」


「こちらです」


 おじぎをして女性社員は社長室までくると中にまでは案内してこず引き返した。ケンジは躊躇せず、ノックも無しに大きな扉を開く。


「行くよ、優君」


「うっ!」


 鼻を肘で覆う。お香のレベルを越えてかなりの刺激臭だ。


 すると黒髪ロングの女社長が視界に入った。


「あら、2人きたの? どちらがプレイヤー?」


 ケンジは鼻を抑えながら僕を指差す。


「こいつは友達、やるのは俺だ。

 勝負受けてくれるだろ?」


「嫌よ、2人でくるなんて。なんか怪しい。このゲームに友達なんて必要ないのに」


「あんたクリアしてんだろ? 俺もだけど、俺は金が欲しいからバンバン勝負しかけてるのさ」


 女社長は肩にかかった髪を軽く後ろにやり、鳥目のつり上がった目で睨む。


「尚更ね。勝負なんてしたくないわ、お友達と私にきたって無意味よ」


「ハートブレイク」


 ケンジは女社長に鼻声で強く宣言すると、場が無言になり空気が重りの様にのしかかる。


 話しが違う! ケンジが勝負してどうするんだ。呆気に取られていると、女社長は何事もない様にケータイを手に持つ。


「今のハートブレイク拒否するわ」


 するとケンジは、ニヤリと笑い僕を肩でつつく。そうか、万が一逃げられる選択肢を揺さぶって潰したのか。 受けてもケンジが潰せたらそのあと狙いやすい。


 まだ臭いが残るが、鼻が慣れてきたので手を下ろし、気圧されない様見下す様に宣言する。


「ハートブレイク」


 少し動揺した様子で高い声が響く。


「あんたもやっぱりプレイヤー?」


 ケンジはしてやったりとクスクス笑っている。


「しょうがないわね、ハートブレイク。これで満足? そこのうるさそーなボーヤは出てってくれる?」


「優君また後でねぇ! 外で時間潰してくる」


 鼻をつまんで、駆け足で外にケンジは出て行った。


 大きな部屋に敵の社長机。その目の前に用意されているポツンと置かれた質素な椅子に座る。ここからが勝負だ。

 そしてすぐ異変に気づく。あれ? なんだこれ、この雰囲気まるで面接じゃないか。それにこの臭いだ。


「匂いがここまでキツくないと落ち着かないの、ごめんなさいね。一応アロマなのよ?」


「アロマったってちっとも落ち着かないよ、鼻が痛い」


「さて、それじゃ面接を始めます」


 女社長は、フチが赤い眼鏡をかけて、足を組む。


「面接? なんだよそれ」


「口が悪いわね、社会人失格よ。と言うかあなた社会人?」


「フリーターですけど何か? 女社長さん」


「フリーターってもしかして、バイトくらいしてるわよね?」


 段々チクチク刺されて胸糞が悪くなる、そんなの関係ないだろ。


「女社長の儲ける理論なんか聞きたいな」


 溜息をついて垂れた前髪を指で後ろにやり、ペンでメモを取る。


「話しを濁すって事は、バイトもしてない……と。資格はあるの?」


 コイツあくまで面接をするつもりか。面接をしながら履歴書を読むように過去を聞いて、不合格みたいにスラッシャーか。

 しかも話題切り替えても、戻すのが上手い。

  しかし、黙って合わせる義理もない。

 タバコに火を着けて、ふーとけむりを吐く。


「あなた面接中にタバコ吸う人がありますか! 辞めなさい!」


 机を叩いて音を立てる。感情を剥き出しにしたほうが不利になるのは明らか。


「面接って何を? タバコはルールにはないし、携帯灰皿もあるよ?」


 怒った表情を見て、ニヤニヤして挑発してやる。


「まぁタバコはいいわ、換気してすぐアロマ焚かないとね。面接は、人としての面接よ」


「では面接の続きをどーぞー?」


 不良の様に振る舞い、怒りを誘う。


「あなたは成人して、社会をどう思っているの?」


 腕を組み見下してくる、相手も引かない。


「僕には関係ない、僕は僕だけ楽しければいい」


 本音は勿論言わない、相手のボロが出るのを待つ。


「流石ニートの言う事は立派ね、吐き気がしてきたわ、仕事についてどう思うの?」


「仕事、任された事やっておけばいい。僕はそれ以上求めない」


「そんな人間どこの社会も雇ってくれないわね。ボケ、ナス、クズ人間」


 女社長が攻めてくる。ここからが駆け引き。


「だからニートなんですよ。その時がきたら人間動き出すます」


「あなたのお母様、可哀想ね。立派になるように育ててこの失敗作ですものね」

 

 一転、鼻で笑い挑発的な目線を送ってくる。


 母親を出されて思うより先に口が開いてしまう。


「母親は関係ないですよ、自分がどうかですから」


 口に出した後でハッと、ミスに気づく。


「自分がどうかですから? あなたニートじゃない。だから母親の名前が出ると頭にくるのよ。毎晩泣いてるわね、きっと。このゲームで借金作ったらお母様首吊るわね。全部! あなたのせいで!」


 本音の一言を見抜かれ、そこをピンポイントで攻めてくる。

 くそ、ヤバイ。動揺し始めてきた、俺は母親がウィークポイントだったのか。


 女社長はこれでもかと更に見下した。


「社会としてもあなたはいらない。

 という事は家族としても誰からも必要とされてないわ」


 明らかにスラッシャーされてる、ウィークポイントもバレてしまっている。何か、何か逆転はないか?

 あれしかない。もう逆転するならこれだ!


「あなたの社会の存在価値なん……」


「ちょっとまって」


「何よ? ボケ、ナス、カス」


「女社長さん、指輪。見してくれます?」


「な、なによいきなり。嫌よ汚い!」


 女社長は右手を机の下に隠した。


「それ、社長が身につける様なデザインじゃないですよね? 小さいけどドクロの指輪。よっぽど大事じゃないと身につけて会社なんかこないですよね? 他に示しがつかない」


「私はドクロが好きなだけよ」


 ここからは、カマかけと、誘導尋問、外したら負けだ。


「嘘ですよね? それ程好きならそのダイヤのネックレスと合わなすぎる。矛盾してますよ」


「指輪のこれだけ気に入ってるの」


 顎を引き、下から睨みつけてくる。

 僕は立ち上がり、近寄りと女社長の机に両手を置く。


「近くでみると明らかに浮いてる、隠してたけど髪をかきあげる時に見えたんですよ。隠すって事はそれが大きな意味があるからじゃないの?」


「しつこいわね! 面接の続きよ!」


 声のトーンが上がる、ここで確信に変わった。


「はい、今度は僕があなたの面接です。僕が人間を見極めます、その指輪は何処で買いましたか?」


 近くに寄り、目線を外させない。


「何処で買ったなんて忘れたわよ! あなた、職歴は!?」


 よしだいぶ興奮してきた、だけど指輪の話題が終わったら負けはほぼ確定、また母親の話しに戻される。


「忘れた? おかしいですね、大事な指輪なのに何処で買ったか覚えてないんですか?」


「路上で気に入ったから買っただけよ、だから覚えてないの!」


 向こうは防御に徹した、チャンスはこの会話がラスト。話しながら、カマかけと突破口を見つける!


「そんなにお金があるのに路上で買うのはおかしいですね。もっとブランドとか買うはずですよね」


「そうそう、思い出したわ。外国に行った時にブランド店で買ったのよ。路上はセンスあるのをたまに買うのが趣味で、これはブランドよ」


 嘘が解りましたよと、口角を上げ笑顔を見せつける。


「かなり嘘が出ましたね。長い間つけてるんでしょう? メッキが剥がれてしまっている」


 女社長は親指の爪を噛んで睨んで黙り込む。


「それ、おそらく昔の彼氏……」


「その話しはもうやめて。途中で棄権するわよ? 面接しないならもう辞める」


 よし彼氏で確定だ。勝てる! しかしここでゲームを降りられたらポイントが少ない。ここまできて勿体無い。


「無理しなくていいですよ、あなたとっても愛されていて、愛してたんですね」


 勝負をいつ降りられてもおかしくない。けど愛という言葉が引っかかると聞いてしまうはず。


「メッキが剥がれるまでつけ続けてあなたは純粋だ。人を壊せるような人間じゃない。僕はあなたのような人は好きだ。弱さを悟られないように必死だったんですね。ほら、溢れこんだ愛情と純粋がその指輪から伝わってきますよ。是非その彼氏の事が聞いてみたいですね」


 女社長は頭を二回横に振って髪をなびかせて、眼鏡を外して大きく溜息をついてまたかけ直す。


「スラッシャーされない自信はあったけどまさかヒーラーされるとはね。これ以上話してもヒーラーされ続けるだけね、ポイントの無駄だわ。私の負けでいい、もうヒーラーは辞めて。あなたは人を見る目がある人間だったのね、負けたわ」


 いい人だ、嫌いになれない。半端だけどヒーラーもできたはずだ。


「いいですよ辞めましょう、赤い眼鏡がない時のほうが優しい感じで僕は好きですよ」


眼鏡に手を伸ばし、指でつまんで外してやると敵意のなくなくなった彼女をじっと見る。やっぱりあの顔はハートブレイク用でか、普段からあんな怖い顔ずっとしてるはずないもんな。


「あ……メガネ」


か弱い声で両手を伸ばして彼女は子供の様に返してと仕草を見せる。


「ごめん、度がキツイみたいだし無いと困るよな」


両手で丁寧にかけ直してやると、唇をキュッと締める様に先程とは違う真面目な顔で目を見てくる。


「普段人を観察する癖があるから、見えないほうが疲れないのよ」


 アプリからの連絡を受けとった音に2人共ケータイを見つめると、こっちには55ポイントが僕に加算された。


「元彼氏の事、このゲームが終わったら相談しようかしら」


 初めての笑顔を作ってくれ、微笑みかけてくれた。ポイントより大きな価値の笑顔が僕を安心させる。


 僕はそれに応えるために歯並びを自慢するみたいな笑顔を作った。


「いつでもいいですよ。僕は渡辺優です」


「私は中野彩子よ。ねぇ、ここに就職しない?」


「終わったら考えてみますよ」


「ねえ」

 

「はい?」



「……なんでもない。面接は合格よ、行ってらっしゃい」


 僕は最後の女社長の心は読めず、疑問に思いながらその部屋から出た。

 服に香りがまだつていて、なんだかあの匂いが好きになってしまいそうだ。


 頭の中で太陽が晴れを知らせてくれた様に、今までずっととれなかった胃の痛みを忘れる事ができた。


 外に出て電話をするとケンジが出ない、まさかハートブレイクされたのか?

 すると両手にソフトクリームと、脇にパチンコ雑誌を挟んでケンジがやってきた。


「終わったの? くそー、ソフトクリーム折角チョコと抹茶どっちも食べるつもりだったのに」


 冬のソフトクリームを持つケンジが何故かツボに入り腹を抱えて笑い声が少し漏れる。


「まず僕の結果気にしろよな。滅茶苦茶危なかったんだぞ?」


「勝ったんだろ? それよりどっちが抹茶食うかトランプでだな……」


「僕はチョコが好きだからそっちをくれ」


 ケンジは唇をとんがらせチョコを渡してくれた。空を見上げながら、一口食べると頭の知恵熱が冷めていく。


「しかし寒い日のソフトクリームもいいもんだなあ」


「おいおい優君! 忘れてるだろ!」


「ああ、ごめん55ポイントだったよ。あと21ポイント」


 ケンジはは手を出した。


「200円!」


「タクシー出しただろー? ソフトクリームくらいタダにしてくれよ」


 払わないと解った途端、ケンジは僕のソフトクリームにかぶりついた。


「あ! 僕のチョコソフトクリーム!」


「お金払わないのが悪いもんねえ」


  ケンジは奪い取るとあっと言う間に二つ食べ終えた。


「次のハートブレイクで終わりだね、優君絶対勝つし」


 指をしゃぶりながらお気楽な様子でケンジも空を見上げ、寒気に身を震わせる。


「勝てるかわからないけど、とりあえず次に行こうか」


「は、待って! 優君。あれすげー美人!」


「はあ?」


  ケンジはパチンコ雑誌をバタバタと羽ばたかせながら女性の前に行った。何やら話したかと思うと、10秒もたたないうちに賢次は上半身を仰け反らせた。


 なんだナンパか。ケンジがプレイヤーなのが疑問に成る程に、自由なのに頭が良いという事には結びつかなく感じる。


 葉っぱが一つもない枝が僕ら2人を笑うようにカサカサ風に揺られている。

 うん、やっぱり賢次といると楽な気持ちになれるな。


 ケンジはトボトボ歩いて帰ってきた。


「もう恋はしない。475回目の失恋で気が付いた」


 引いた事がばれない様に気を使い、小声に音量を下げた。


「か……数えてたの?」


「いや、適当。」


「……それツッコミしないよ? とりあえずまたタクシーでいくか」


「なんだよお。あ! 優君彼女いるんだな? ソフトクリーム買ってあげようか?」


「彼女もいないし、ソフトクリームで女の子紹介もできないよ。さ、行こうか」


「美人とハートブレイクしたいなあ。さっきの女社長もなかなか良かったよね! あれ? 優君? おーい」


  僕は前を見て、視線も逸らせず固まって動けない。過去の事が頭の中で小さくフラッシュバックする。

  何故なら、前からモヒカンが近づいてきたからだ。

  関わりたくないという強い気持ちからか、動けない。

  ハッと思い出す、僕はハートブレイクしてるからもう二回目はないけど、ケンジがヤバイ!

  ケンジを何とか逃がそうと見ると、鋭い目でモヒカンを睨んでいる。

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