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旅バト!  作者: 染莉 時
第五章:旅館対抗大運動会!
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大会中止

「……あははー、今回もいつも通り成功すると思っていたんだけどねー。まさか一度まいたのにまた見つけられて、さらには追いつかれるとは。いやあ、参った参った。あんただけの一枚岩じゃあなかったってことだね」


 登場したルーフェさんに全然抵抗する暇なく、脳天にチョップを入れられ、逃げられないよう上半身をぐるぐる巻きにされた窃盗犯は、薄ら笑いを浮かべながらルーフェさんに話しかける。


「当たり前よ。戦闘面は負けないとしても、みんな私より優秀なんだからね!」


 ルーフェさんは堂々と胸を張って答える――けど……


 それは自分を過小評価し過ぎじゃない? ほら、元従業員のククも、現従業員の二人も「ルーフェさんより優れているなんてそんな……」とでも言いたげに全力で首を振っているし。


「見込みが甘かったってことかー。はぁー、情報収集不足とは私もまだまだだわ」


「それは残念、ご愁傷様。確かに情報は重要よねえ。だ・か・ら、今度はあなたが情報を渡す番よ。さあこのいくつもの旅館を狙った一連の侵入事件、いったい何が狙いなの?」


 ルーフェさんがこう問い詰めると、窃盗犯はぽかんと口を開けた。


「へっ? いくつもの旅館? 私はここしか入ってないけど? 宝剣だけが目当てだったし」


 口ぶりからはとても嘘をついているようには感じない。初めて聞いたって顔もしている。


「えっ、それってどういうこと……」


 俺達は怪訝な顔でお互いを見合わせることになった。




「――フェーダさんお疲れ様です」


 ルーフェさん、そして『勇々自適』の方二人と別れ、試合が終わったフェーダさんを闘技場の出口で迎える。

 俺達が戻った頃にはもうすでに決着がついていた。結果はグレンさんに敗北――準決勝敗退だった。


「惜しかったみたいじゃのう。やはり少し体がなまっておったか」


「いえそれは言い訳になりません。素直に強かったです。お互い武器を使っても互角ぐらいでしょうか。今の時代にも猛者はいるものだと実感しました」


「うむ。人間もあなどれんものじゃ。しかし魔法解禁なら?」


「負ける気はまったくしませんでしたね」


 フェーダさんはきっぱりと言い切った。そんなに魔法が強いのか……実際見たことはないけど。……使ったらやばいくらいの威力があるのかもしれないな。


「……それはともかくルシフ様達も大変だったみたいですね。そこら中の旅館に泥棒が入ったとか。おかげでもうひとつの準決勝、決勝が中止になりましたし、運営もかなり慌てていましたね」


 準決勝、決勝だけでなく、大会自体もこの一連の窃盗の対応に追われ、中断せざるを得なくなった。街の盛り上がりは、一気に冷めてしまった感じでなんとも周りの空気が悪い。


「リムに連絡をとったのじゃが、ワシのところは大丈夫みたいじゃ」


「やっぱり遠かったからかなぁ」


「人混みに紛れることもできませんから……目立つのも理由かもしれませんね」


「そうでしたか……私達の旅館『は』ということはもしかして他のところは……?」


「……うむ、旅ランに載っておるところのほとんどに何者かが侵入していたみたいじゃのう。ほぼ同時刻に侵入しておったし組織的な犯行とみておる」


「犯人は捕まらなかったのですか?」


「半分近くは捕まえたらしいんです。しかし……」


「半分には逃げられたと。かなり手練の犯人たちだったのでしょうか?」


「手練なのは間違いないじゃろう。しかし、それ以上に計画者が優秀じゃった。それぞれの旅館のセキュリティの虚を見事に突いておったらしい」


 まだまだ耳に入ってきている情報は少ないからはっきりはわからないけど、この観光都市スピネルで、それも代表的な旅館を狙って、犯行を成功させるというのは、非常に難易度が高い。今回はセキュリティの虚を突いたらしいけれど、そんなことふつうできるのだろうか? セキュリティなんてそんな機密事項を手に入れられるか……? いや一つ可能性が……。


「……あまり考えたくありませんが、旅館関係者に情報を提供したものがいる可能性が高いですね。もしかするとその人が一連の黒幕ということも……」


 言いづらくて黙っていたことをククが代わりに言ってくれた。


「でしょうね。しかしだとすると何が狙いなのでしょうか? 自分の立場を悪利用するなんて。ばれたら即解雇でしょうに」


「それだけのリスクに見合うものがあるんじゃないかなぁ」


「金か? しかし今回盗まれたのは客の名簿じゃぞ?」


「個人情報というのは欲しがる悪い人がいるんですよね。お金にもなるそうです。しかし……」


「それだったら宝剣盗んだ方が圧倒的にお金になるよな。なのに『勇々自適』で盗まれたのは名簿だけというのは不自然だと思う」


「えっ!? ルーフェさんのところも盗まれたのですか!?」


 フェーダさんが驚きの表情をあらわにする。


 実は、宝剣は取り戻せたからよかったものの、いざ旅館に戻ってみれば、お客さんの個人情報の詰まったノートがなくなっていたのである。誰にも気付かず盗まれていたのだ。宝剣を盗んだ窃盗犯とは別の誰かが侵入していたらしい。


「はい。近々報告が上がり、お客様に謝罪するとルーフェさんは言っていました」


「そうですか……大変なことになりましたね」


「ああ、また後日こちらからルーフェに会いに行ってやるかのう。直接話もいろいろしたいし」


「とりあえず今日のところは帰りましょうか。他の旅館の方々も撤収して自分のところに帰っているみたいですし」


「そうじゃのう。くぅ、せっかく初めて出場できたというのに残念じゃ。窃盗のボスは絶対に許さんからな!」


 ルシフは恨み節を言いながら地団太を踏む。


 俺達は窃盗犯のボスは誰なんだろうと推測をいくつも立て、話し合いながら超蜥蜴スーパーリザードのスッパリ君に乗って、自分達の旅館ホームに帰ることになった。


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