自らの心
ロシアを中心に世界を巻き込んだ戦闘は、藤島圭介の活躍により終結した。
ある強力な宝物により、壊された街や殺された人さえも復活したらしい。
それにより人々は大魔王フランメについての記憶をなくし、世界は傷跡を癒しながら平和へと戻っていた。
そして、場面は一転して日常のものへと切り替わる。
今まで、俺たち二人は親友として過ごしてきた。
それは違和感なく、とても居心地のよい空間だった。
この関係をなくそうとも、進めようとも思わないくらいに。
周りは勘違いしたりすることも多い。
男女がそろえばそういう方向に進むのは自然なことだと。
閑話休題
ロシアでの戦争が終わった現在、リリーはレムリアへ帰投せずいまだこちらへ残り続けている。
ほかのアルファ隊もごく少数だが残っているようだ。
こちらの魔術結社の監視が主な目的らしい。
リリーの本来の任務は民間人の保護。
考えてみれば、残るのも必然だなと思う。
そんなリリーだが、俺のクラスのメンバーと顔を合わせることが多くなった。
クラスの連中もイベントに率先して招待し、同い年ということもあって俺のクラスに溶け込んでいった。
アルファ隊の都合でできないこともあるが、リリー自身も俺のクラスで楽しんでいるみたいだ。
まあ、今となってはそんな感じ。
親友とクラスメイトの皆が友達になった後の出来事。
そこから、いや、常に変わっていくんだろう。
十代の青春を過ごす、俺たちにとって。
side 新川夢
「日曜日?」
「ああ、リリーも誘ってみんなでカラオケに行こうかなって。」
本日は水曜日。
一週間の折り返し地点。
日常に戻った今も、リリーは俺の隣に住んでいる。
今日もいつものように、朝ごはんを食べに来た。
「日曜日なら、マリは空いてるよ。」
今日はその中でも、真理が一緒の日だ。
本日の朝練は雨のため自主決定。
それにより、アパートの食卓には3人がそろっていた。
「う~ん、どうだろ?後でリーリヤさんに聞いておくわ。」
「わかった。時間があったらぜひ参加してくれ。」
真理にアルファ隊のことは言えないため、隊長とは言わずにぼかしておくリリー。
アルファ隊の隊長であるリーリヤさんはこちらへ残っているようだ。
まあ、アルファ隊の指揮を執るうえで指揮官がいなきゃ話にならないから当たり前といえば当たり前の話。
「ねえ、せっかくなら暮葉とかも誘っていいかしら?」
「別にいいと思うぞ。むしろうちのクラスなら大歓迎だろうしな。」
「確かにね。」
というわけで、週末の予定はカラオケに決定した。
まあ、そのカラオケでちょっと予想外なことが起こるわけだが。
その原因となる様子をダイジェストでお送りしよう。
side リリー=アトウォーター
「暮葉。」
「もきゅ?何なのですか、リリーさん。」
「週末に夢達とカラオケに行くんだけど来ないかしら?」
「行くのです!拙者も連れて行って欲しいのです。」
「決まりね。」
「あと、けーすけ様やほかの皆さんも誘っていいですか?」
「もちろんよ。」
side 木下暮葉
「けーすけ様。」
「ん?何だ暮葉?」
「新川さんとリリーさんが日曜日にカラオケに行かないかと誘ってきたのです。」
「おお、行く行く。もちろん行く。」
「良かったのです。あと、ほかの皆さんも誘っていいとのことでした。」
「そうだな、伊吹に明智にあかり、青山さんに白藤に小阪に重原、大吾…………。」
「私も行くよ!!」
「うお葵!?わかったわかった、連れて行くから。」
side 新川夢
とまあ、こんな感じで参加者が膨れ上がっていったらしい。
その結果が
「はじめまして、暮葉の友達のリリー=アトウォーターよ。」
「これはご丁寧に、私は明智凪紗だ。木下の友人でもある。」
「って、この前家に来てた人!?」
「えーっと、アハハ……。」
「俺は夢のクラスメイトの仲村だ。今日はよろしく!!」
「小坂亜紀よ。こっちこそよろしく。」
「深谷有紀です。今日は楽しんでいこ♪」
「えっと、青山千早です。よろしくお願いしますぅ……。」
『白藤早苗。』
「重原だ。圭介の悪友をやっている。」
「僕は長宗我部d(ry」
「あーだ。」
「こーだ。」
これである。
「……ちょっと来すぎじゃね?」
「いや、ちょっとじゃねぇな。」
まさかリリーがここまで引き連れてくるとは思わなかった。
いや、この場合は圭介の顔の広さを褒めるところか?
だが、この人数で大丈夫か?
ただでさえ俺らのクラスメンバーで大所帯。
そこにこれだけの人数が加わるとカラオケの大部屋でも限界突破だ。
「部屋、空いてるかな?」
「探すか。」
結局、電話とネットを駆使して全員が入れる宴会用のカラオケルームを見つけ出せた。
いきなり前途多難であったがこれでなんとかなりそうだ。
気を取り直して。
いざ、カラオケ店へ
カラオケルーム 宴会用大部屋
「というわけで俺が夢の友達、藤島圭介だあぁ!!よろしくっ!!」
「いいぞー!!」「もっとやれー!!」
「ノリのいいクラスなことで。」
「夢もその一員でしょうが。」
「まあな。」
「ってなわけで、行きます!カラオケ一曲目!!」
「イエーイ!!」
ピッ、『行きます!カラ○ケ一曲目 初○ミク』
「曲名かよ!?」
「まあ、盛り上がってるしいいんじゃない?」
「俺らのクラスはな。見ろ、圭介サイドは一部を除いて若干『ああ、またかコイツ。』って顔してるぞ。」
「変わりませんね、けーすけ様は。」
「ほんとよね。」
「いいぞ圭介!!もっとやれ!!」
「……ほんとね。」
「ちょっとドリンクバー行ってくる。」「夢!幹事だろ、ツマミでも注文してくれ。ってかおごってくれ。」
「お前ら曲にあるからってちゃっかりすんな!!」
「さてと、私は何を歌おうかしらね。」
「あれ、スルーですかリリーさん。」
「夢も予約の方入れといたら?」
「ぬうぅ、またスルーか、まあいい。俺は既に予約してある。順番で言えば圭介の次だ。っと噂をすればだ。」
ピッ、『ココ○オドル nobadyknows○』
俺の出番がやってきた。
○を付ける場所おかしくね?というツッコミは受け付けない。
2時間経過
「ノってるかー!!」
「「「Yeah let`s party!!」」」
「ノリすぎじゃね?」
「いいんじゃないの?むしろそれがいいんじゃないの。」
「圭介もテンション高いな。」
「せっかくのカラオケだ、楽しまなきゃ損だぜ。」
「楽しんではいるよ。」
実際楽しいさ。
ちょっと馬鹿やったりして楽しく歌っている。
ただ、圭介のラインナップにわからないものが多い。
クラスの連中も含め、一部ノっている奴らがいるが。
「まだ俺にはわからんなぁ。」
初心者の俺にはまだ早いようだ。
さっきから「よっこらせ(笑)」と聞こえてくるが、俺にはわからない。
まあ、楽しそうだし楽しいし。
「いっか。」
楽しんだほうがいいに決まっている。
せっかくのカラオケなんだしな。
夕方 カラオケ終了後
あのあと、盛大に歌って踊った(踊ったのは一部で俺を含む)。
みんな楽しんでいたが、唯一白藤さんだけは歌っていなかったな。
なんか会話もケータイを介してだし。
楽しんではいたみたいだけど。
結局、歌ったラインナップは千差万別。
天○観測、キセ○、も○てけセーラー服、○nly my railgun、人間ってい○な、夏祭○、ヒャダイ○のじょーじょーゆーじょー、etc…。
かなりいろいろ混ざっている。
正直、次に来た人はなんだこの集団と履歴を見て思うだろう。
まっ、楽しかったし万事OKかな。
「あー、盛り上がったなぁ。」
「にゅふふ。けーすけ様もたくさん歌ってましたしね。」
「暮葉もいい声してたぜ。」
「ありがとうなのです。」
「oh……。」
何このオーラ。
熱い、熱いんですけど。
そうか、これがいわゆるバカッp(ry。←自重
「リア充してんなぁ……。」
「ホント。正直、関わりたくない時がたまにあるわ。」
「例えば?」
「暮葉からたまに聞くノロケ話。」
「あー、俺も圭介から聞くことがたまにある。」
「勘弁して欲しいわよねぇ。」
「「「「お前らの話も似たり寄ったりじゃあぁ!!」」」」
「っと、なんだよいきなり。でっかい声出して。」
「うるせぇ!!このリア充め。お前から聞く普段の会話も」
「うんうん。」
「いや、何浩太も頷いてんだよ。」
「今はこっちの話だ。お前が普段話すリリーさんとの食事事情とか遊んでいる話とか勘弁して欲しいんだよ!!夫婦かよ!!」
「いや、ちげぇし――。」
「なんで付き合ってないんだよ!!もどかしいわ!!」
「やかましいわ。」
「別に夢とはそういう関係じゃないんだけどねぇ。」
「そうだそうだ。」
「浩太!!てめぇはどっちの味方だよ!!」
「面白いほうだ。」
「有紀もそれに一票。」
「だいたいお前らもお前らで――――。」
しばらくお待ちください。
「――――というわけで俺らの前でイチャイチャするな!!」
「それだけで十分だった気がするけど……まあいいか。」
男たちからの何かの叫びが終わり、次の行き先についての話し合い。
もっとも、これはたった今出た話で参加できないメンバーが多いようだ。
というかうちのクラスメイト連中はほぼ全滅。
浩太、有紀ともうひとり。それにプラス真理が追加。
圭介サイドは圭介、木下さん、葵ちゃん、国宗さん、明智さん、浅間さん、大吾。
青山さんは門限のため帰宅。
重原は本日の鍛錬があるそうだ。
小坂さんは別の友達と約束があるらしい。
白藤さんは不明。
「すいません、お先に失礼します。」
「気にしないで。またね、千早。」
「はい。リリーさんも初対面の私に良くしてくださってありがとうございます。」
「いいのよ。ちょっと照れるわね。」
「じゃあ、帰らせてもらうぜ。」
「ああ、またな。いつか手合わせしようぜ。」
「望むところだ。」
「ほんとごめんね。次あったらまた誘って。」
「ダイジョーブ。また今度誘うから、有紀ちゃんにご期待あれ♪」
『バイバイ。』
「ああ、また来いよ。できれば白藤も歌ってほしいぜ。」
「にゅふふ。バイバイなのですよ。」
というわけでクラスメイト含め幾人かが帰宅。
残るは13人となった。
「さって、どうすっかなぁ。」
「腹減ったし、どっかでなにか食べようぜ。」
「でもお店、空いてるでしょうか?」
「難しいわね。そろそろ混み始める時間だし今日は日曜日。」
「加えてこの大所帯じゃあ、たしかに難しいわよね。」
国宗さんの言うとおり、いくらメンバーが減ったからといっても13人いる。
正直、お店は空いてないだろうな。
「こんなことなら予約入れとくべきだったかなぁ。」
「じゃあさ、自分たちで作らない?」
「へ?」
「だから、自分たちで作るの。焼肉とか、鍋なら手間もかからないでしょ。」
「おー、いいね。なんか、もろもろを俺がやることになりそうだが、そんなことどうでもいいくらいテンションが上がるな。」
「ってことならさ、前に話したすき焼きなんかどうだ?」
「おお、そいつはいい。できれば肉はリーズナブルなやつをスーパーで買えればいいな。」
「結構人数いるし、手狭になりそうだから俺の家でやろうぜ。」
「圭介の家か。こんなにいるけど大丈夫か?」
「大丈夫だ、問題ない。」
「何遊んでんのよ。」
「いやさ、『大丈夫か?』なんて聞かれたらこう答えるのが男のサガ。」
「オタクのサガでしょうが。」
「まあまあ、確かに広さはありますし、大きな鍋もあったはずなのですよ。拙者は問題ないと思います。」
「というわけで、早速スーパーに行くか。」
「すっきやき♪すっきやき♪」
「たまごにお肉にやさいとご飯~♪」
「真理ちゃんと有紀の歌ってる曲、何?」
「「すき焼きの歌。」」
「よーし、葵も頑張って――――。」
「葵は食器の準備をお願いします!!ほら、俺たち以外は場所知らないから!!」
「じゃあ、行きましょ。」
「ああ。」
本日は圭介の家で鍋パーティーで決定。
その材料調達の為にみんなでスーパーへ。
きっと鍋も買い物も、カラオケみたいに楽しくなると思う。
そういえば、結局今日もからかわれたな。
俺とリリーは一緒にいることが確かに多い。
二人で遊ぶこともあるし、めしも朝と夜はほぼ一緒。
でもさ、やっぱり俺たちは親友なんだよ。
この先、別々の道を歩むことになる。
俺にも彼女が出来たり。
リリーにも、彼氏が出来たりするようになるんだろう。
いつかは、きっとそうなるんだ。
ズキン。