最終話(家=国家=小宇宙の神話以前・その43)
「はぁーあ…」
おや、夕日が紫に染める雲の下、黄昏れてるのはやまぬぇさんではありませんか。という訳でここは言うまでも無く、とある首都の水瓶になっている人造湖、その湖畔にある自然公園内、ビジターセンター前なのであります。
「やまぬぇ。ぼーっとしてないで、ウエルカム・ボード片付けて」
自らも閉館作業を急ぎながら、声をかけるのはごろすけさんです。背中で聞いたのはんーという気のない返事、けれど手が動いてるのは分かるから、改めて顔を向けたりはしません。
「あーあ。さみゅーちゃん、今日も仕事こなかったなぁ」
「まぁ、しょうがないよ。忘れがちだったけど、あの子も元は野生動物なんだし」
「やっぱ自然に帰ったのかな?」
「それも神のみぞ知るってとこかな。今となっては」
会話が途切れるのはもう何度目か。その分片付けなければならない掲示物などの数は、着々と減っていくのですが。
「…あっ」
やまぬぇさんが突然驚いた声を上げたのは、外回りの閉館作業は全て終わり、二人とも屋内に戻ろうとしていた時でした。先に立っていたごろすけさんが振り向きます、そのほんの僅かな間に、やまぬぇさんはもうあんな所まで走って、建物のその角を曲がろうとしていました。
「さみゅーちゃん!?」
「えっ」
やまぬぇさんが鋭く息を飲んでるのは見なくったって分かります、ごろすけさんも飛び上がって後を追いました。
「…ごめーん。タヌキだった」
振り向いて小さく舌を出したやまぬぇさんに、なんだ動物違いか、ごろすけさんは腰砕けの様子で制動をかけ、呟いて溜息をつきました。
「それにしてもタヌキと見間違えるとはね。さみゅーちゃんが聞いたら『ボクは、あんなずんぐりじゃないんだな…』とか言って、きっと怒るよ」
小動物の真似を織り交ぜておどけるごろすけさんに、やまぬぇさんは小さく笑います。さぁ陽は急ぎ足で沈んでいきます、今度こそ屋内へ。気を取り直して歩き出しますが、その矢先にやまぬぇさん立ち止まる、またも驚きの声を上げる。
「なぁに。今度はイタチかなんかと見間違えた?」
「違う違う。ほら上。人工衛星!」
指さす方を見上げれば、先んじて暗さ増す天頂付近、瞬かない明るい光点が滑るように横切ろうとしています。
「おー。そういやあんた、エレナさんが来た時も見たって言ってたよね」
「そーなの。それでね、いつどこにどんな人工衛星が見えるか、お知らせしてくれるついったーも見付けたんだ」
やまぬぇさんは既にスマートフォンを取り出し、右手人差し指をリズミカルに滑らせ始めています。
「へぇ。そんなアカウントもあるんだ」
「さてさて、今日のこの時間に見えそうな・の・は…ん、これか。えーと。え?」
「どしたの?」
「え~。こんな名前の人工衛星、ホントに飛んでるのかなぁ?」
「なんて奴?」
ごろすけさんはやまぬぇさんの手元を覗き込みました。
卦好家。高精細の小型液晶には、確かにそう表示されていたのです。
さて以上、王と二柱その他諸々、期せずして自ら宇宙となり突き進めば、旧いもの皆全て恐れおののき、堪らず道譲るというところ。彼の一家が縦横無尽、新しく創出するは如何なるものか。その神話はまた、次の機会で。
てな訳で。
今からするのも良くあるお話。
当たり前には無いかも知れないけれど、誰もが思い描ける事だから、有り得なくないのはあなたも保証済み。
おk?
(了)
【作品データ】
執筆期間:2010.9.26(SUN)~2012.8.12(SUN)
総文字数:188618文字
400字詰め原稿用紙換算:約561枚(224400文字)
同マス目充足率:約84%




