第81回(家=国家=小宇宙の神話以前・その33)
「なぁ男、男女の発電なら私とせぬか?」
なぬぅ!
「ふふふっ。まぁ今は、私が神に至った理由の方が先だったな」
女蚊様は僅かにきゅっと縮まった複眼と口吻の間の距離に、3対の撫で肩の動きの自然な連携に、ぷ↘ぷ⤴ぷ↑と滑らかに変調していく羽音に、それはもう鮮やかな女らしさを充溢させて、真相の解き明かしをとても上機嫌に続けます。
「英雄と神、両者を隔てるのはずばり言霊だ。聡い者は既に思い至ったようだが、そう、私は言祝がれもした。ふふっ。女神、あれはなかなかの、どちらかというと口説き文句だったぞ」
女神様、大きく息を吸った後にりぴーと・あふたみー。さんはい、来世では友として語り合おうぞぉぉ(ry …ぷはっ、いやまだ続きがありますよ、はいもう一回息を大きく吸ってぇー、せぇーのぉ、神、手ずから解脱させたりゃああああ!!!
「かくて、私は女神に比肩し友となることを望まれ、生きたまま解脱を賜った。女神、それで間違いなかったはずだな? では語ろうではないか、互いに神なる身、来世とやらを共に過ごせなくなったのだけは期待はずれであろうが」
ん。女蚊様が真相を語り終えれば、何思うおろおろ発電対の片割れ、風ちゃんは今初めて感動を知ったが如き・その初光にきらめき澄んだ眼差しで女神様を見詰め両眼から滴らせるはまさに慈雨、一方の女神様は両手で風ちゃんの上着をぎゅっと摑み顔上向かせ、頬で受けるがままのその慈雨に、益々良心を穿たれているご様子。
「ははは、女神は忙しいようだな。では、こちらは勝手に続けさせてもらおう。であるからして、男」
胸にあまりにも多くのものが去来しすぎ一周回って無心になった風ちゃんの、そのあまりにも透き通るが故に却って傷うずかせる眼差しが、不意に釘付けになっていた女神様の額の辺りから引き剥がされたのです、その時に風ちゃん我に返ったように目をぱちくりさせましたから、顔がいきなりがくっと仰向き次いで後ろにぐりっとねじ曲がったのは自分の意志でやったことではありません、いつの間にか風ちゃんの後ろ頭の側までぷ~んと羽ばたいた女蚊様が、蚊の足…手? ん? まぁ便宜上足と言っておきましょう、それで風ちゃんの髪をむんずと摑む、仰向かせ振り向かせるを無造作にまとめて行う、上着の前身頃を女神様の両手にホールドされたままですから風ちゃん首だけ捩れてうっと呻いた、そしてその苦しい顔の向きを戻すことは許されず。女蚊様の細腕あんじょう記は続いています、今度は蚊の足を風ちゃんの顎に軽くかけ、それで充分に風ちゃんの首の捩れを固定してるのです。うん風ちゃん、自分が何事に巻き込まれているのか当然気になるよね、けれど何事の原因は仰向けられた風ちゃんの顎の陰、人体の限界まで眼球下向けるのに必死とかあんまり益ない、ほら今度は苦い雨を滴らせて。
「ふぅん? 何故罪を感じた女神がお前にそれほど執着するのか、今ひとつ理屈が分からんなぁ」
女神様の生活的な地力ときたら最早虚数のパラメタを導入しないと数値化出来ないほどですから、即ち絶対居候もまた地力、家主である風ちゃんに決定的に愛想尽かされちゃそれこそ路上で孤独死を迎えた最初の神様になっちゃいますからねー。
「なんだ、そんなあけすけな理由か」
そう呟いた女蚊様の口調には、苦いようなほっとしたような、ちょっと微妙な揺れが感じられます。
「神は神でも、それでは貧乏神ではないか。なぁ、メル変の王」
「ぶふーっ」
わっ、汚っ。なんか風ちゃん急に噴いたけど、格好は今も女蚊様の微細腕によって下から顎を突き上げられたまま、当然天につばして微滴漏らさずキャッチする状況です。今目尻から一筋の涙が落ちましたが、それは微滴の多くがそこへ落ちて痛かった以外の、“背中で語る” のと同様のメッセージだったようにも思います。おや。女蚊様はいかがしましたか、なにやら動揺されてるようで。天への無礼も、むしろ低きに在って免れていたとばかり思っていたのですが。
「その慌てよう…お前、まさかメル変の王ではないのか? おい道化、この男の名は?」
卦好風太様でございますですよ、女蚊様。
「ケヨシ! はは、それみろ。やはりメル変の王ではないか。脅かすな」
「ちょぅっと待て。俺の名字から理解がそこへ直結って、どどどういうことだこら」
うん風ちゃん、女蚊様に顎を押さえられてて開閉ままならぬ口であるにも関わらず、良く不明瞭にならずに言えました。でも言ってることは感心しないわね。その家名が本朝上古より綿々と今も君臨し続ける正当なるメル変の王家ただ一家を指すことは、夜伽もまた綿々、もう幾度となく語って差し上げたではありませぬか、その際朗読少女・少年・男女折衷が寛ぐのはあなたのう・で・ま・く・ら。
「気色わでぃごどぬがずなっ!」
あらん、今のは不明瞭。




