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第80回(家=国家=小宇宙の神話以前・その32)

 あー…。女蚊様のもっともな指摘に場の温度・空気の白化具合、一気に寒々しいものに変化します。美人姉妹は目許で殺すって言えば起承転結の例示のようですが、別に美人じゃなくても姉妹じゃなくてもヒトじゃないメル変でも、そもそも目という器官を持ち合わせていなくたって、まぁ広い意味での負の目力でヒトはおろか神様だって悶死に追い込めそうなのは新知見です、けどなんですね、集団の一部はエントロピー低下に荷担するんじゃなくてむしろ滾るよう、なにやら熱に浮かされた様子で女神様ににじり寄ってる連中が居るのですが。ほら例えば小動物なんかもそう、倦怠が凝固して在る普段の在り方が在り方だけにこいつと野性を結び付けることは至難の業、てかそもそも不可能なんですが、実は案外鋭い歯列を今は顕わに、ああ二足歩行して前肢のこれも案外鋭い爪を出したり引っ込めたりもしていますね、なんか是非とも女神様を食してやるというような。いやそれは勿論本来的な意味でですヨ、いやちゃうわ、オイあんたたちちょっと待て。なんか不穏じゃないのさ。

「はっはっは、時に被造物と形容される者共が神族相手に勇ましいことだな。だがお前たち、神となることを望むなら、オリジナルの血を求めるだけでは叶わんぞ」

 拡大して見える女蚊様が肩を、肩を…えっ、神にまで駆け上がったとはいえ姿は奇跡へ口吻突き立てる前のまま、その何処を見てわたしたちは肩など、と? うん、女性らしい綺麗な撫で肩よねぇ、勿論3対ありますよ、鎖骨の作る窪みもまたなまめかしいこと。女蚊様はですね、そんな肩を楽しそうに揺すりながら、女神様ににじり寄る連中に声をかけたのです。しかしこの連中そんなこと考えてたんですね、かつ神化には更なる条件が必要とな。むぅ、捨て置けないことが一気にみっつも。いやふたつか。

「まったく。神が秘めたるは神秘、それを子供の自慢話のようにぺらぺらと…これだから成り上がり神は…」

 先程までそれこそ子供のように言い募ってたのは女神様なのですが、今のは実に威厳に満ちた、まぁ女蚊様ちょっと不遜だし友好的なグレーターデーモン〔1〕よりも余程驚きの親しみやすさ、我らが3丁目のぃちゃん・女神様もとうとう古い神として相手の威儀を正さねばと思ったのでしょうか、けれど女神様? たった今のお言葉に適う苦々しい表情はもっともとして、えーとそのぅその両手の動きは、右手の親指と人差し指で摘んだ何かを右耳の上辺りにちょいちょいと擦り付け、左手に持ってるらしい何かに恐らくぶすっと突き刺した、そして暫くの間右手を細かく波打たせるようにちまちまちまちま前へと進め、それと相対するように左手の何かを横方向へ順送り、やがて左右の何か同士を持ち替え最初右手で摘んでた何かを左手で摘み直す、ずーっと引っ張る。という一連の動作についてはですね、それはあれですか、凡俗の間での拳で語れ! 的な、こういった場合における神族同士のボディランゲージか何かですか?

「ん? なんでここで繕い物のジェスチャーなんだ?」

「内心の動揺が思わず態度に表れたとか、そんなところではないでしょうか…」

 あ、そうか繕い物か。あ、そうか分かった “取り繕って” るんだね?

「…女蚊様。どうぞ真実をお話しください」

「ふむ、繕いはもう良いのか?」

 姐御さん、リンちゃん、おいらたちが真相を暴き、風ちゃんがはぁやれやれと口では軽い溜息つきつつも、表情の方はオイうちのバカ女神今度は何やらかしたんだよ宇宙船ガイア号撃墜のうえ更にとかマジ洒落ンなんねーよ、盛大に引きつらせちゃってまぁこっちも変なとこで正直って点では女神様と双璧なんだけど取り敢えず場は進行させ女蚊様に引き継げば、神蚊様は針のような口吻の奥からくくくっと悪い笑いを楽しげに漏らしまして。

「結論から言えば、女神の血は私に力を与えはしたが、結局それは体を頑健にした、寿命を延ばした、言うなれば私の生命力を祝福しただけだった。女神の血を求めるのみは、単に肉体的超越を求めるのみ。神が更なる超越を経て至る座であることは、無論語らずとも分かるだろう」

 ほほー。要するに血を飲んで英雄、もう一つ何かあって神様って事ですか。

「…あぁ…」

「なんだな…」

「えっリンちゃん、えっ小動物、何その全てを悟った目は。やっぱりそのっ。更なるな、なんらかのっ。愚行がっっ」

「そうか、風太はアレを見てなかったんだよな。あれはなぁ。うん、まぁ。ドラマチックではあったよなぁ」

「あうあう」

 各者・各メル変各様、女蚊様の示唆で “アレ” に思い至れた連中は、日々の平穏はうっかり手放してから思うもの、その目で、類似の器官・感覚で、平穏去りしその遠くを一斉に見遣った、連帯の中一人取り残されちゃった風ちゃんはおろおろ、その隣で女神様もおろおろ、なにやら思いは最早言葉にならぬよう、両目もぐじゅぐじゅって描いた黒丸みたく潤ませて、あ、互いに何も見てない目を見合わせたかと思うと急に手を取り合った、おおお? ふたつのおろおろ・ふたつの端を行き交い始め、やがてぶーんと低い唸りを発するほどの強いおろおろに。ほぉこれは未発見のエネルギー放出現象、上手く変換して発電とか出来ないかしら。おろおろ発電。

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