第78回(家=国家=小宇宙の神話以前・その30)
頭蓋震わすは天下を睥睨するかの大声、一際傲慢に。収縮臨界すれば重力生むかの一点、一際
「覚えい! 私の名は、ジョカなりっっ!!」
色濃くに。ぷ~~~、ん? …えっと。あれは球状に収縮し尽くした、“淡い影” の成れの果てですか? はい、そうで、ぷ~~~ん、す? おんや。わたしたちはそれを質点にまで縮んでしまった淡い影と考えていたのです、しかしその黒い点は。ぷ~~~ん。
「蚊だ」
「蚊ですね…」
「蚊なんだな…」
「なんだ? その蚊がどうかしたのか、おいお前ら俺が眠らされてる間に何をした。きっとまた、ろ、ろくでもないことを」
「…ぅ」
姐御さん、リンちゃん、小動物が落ち着いて事態を受け入れてるその脇で風ちゃんはうろたえ、ってかこれはあれだよね、新規に珍事が出来するたんびに先ず自身の認知フレームの防衛に身構えちゃって一遍に新しい世界に身を委ねようとしない、いつもの初期コンサバティブ反応だよね、なので過去おいらたちをいつしか迎え入れてくれてたのと同様、今回も暫くすればいつの間にか新しいステージへと進んでくれていることでしょう、でもって女神様は、あれ、女神様もなんか顔引きつらせてる、これは意外ですね、開けたばかりの地平への吶喊という点では女神様こそぶっちぎりの一番槍er、常ならばそれこそ自ら抱かれに行くってくらいの貪欲さですのに。
「蚊っ…げふん、まぁ良かろう。覚えい、私の名はジョカ。二度は無いぞ」
なにやら羽虫本来の体色では説明し切れない黒さが空中でホバリングし続ける点に添えられたようです、一方でそれを横目で窺う者共は、
「自称神らしいがあれか、大陸の方にそんなの居なかったっけか?」
「ああ、『女媧』ですか…」
「いんや、俺にはただひたすらヤな予感しかせんぞ」
「確かに…血を吸うのは、メスなんだな…」
「…」
などと、何故か呆然としているらしい女神様を除き、3人と1匹で額を寄せ合ってごにょごにょやっていましたが、お、結論が出た模様、じゃあと譲ろうとした者1名、後は任せた、と申し合わせるまでも無く同時にその1名の肩に親しく手を置いた者2名と1匹、当たり前のように何癖もありそうな羽虫の前に立たされちゃった風ちゃんは暫しの間百面相。がんばれ。
「えーっとそのう。察するにですね、つまりは『女蚊』さん?」
「様、と呼ばんか。まったく、馴れ馴れしいとは聞いていたが、本当に日本人は神なる存在をお友達か何かだと思っているらしいな」
あー、正解であってしまったか。うん風ちゃんお疲れだよね、でも肩を落として膝に両手をついてる場合でもないと思う、この羽虫が “ジョカ” を名乗るの、どうもただの偶然でもはったりでもないような気がするし。
「あのさ、つかぬ事聞くんだけどさ」
おっと女神様、やはり凡俗の目はごまかせても本職相手じゃそうはいかねぇってことですかい、ようがすこの羽虫のトリックを、って言うのは実際に女神様渾神の掌底一打をかい潜って生還してるのは確かなんで、その辺含めてまるっとこいつの騙りを暴いてやっておくんなせぇ。
「…んにゃ。この子が神を自称するのは、故あることなんだよ」
「うちの女神様がまた神らしからぬ外道を言い出しそうなので、逃げちゃダメかな?」
風ちゃんがとぼけた表情・切実な口調でそんなことを言いますが無論ダメに決まってます、女神様もちょっと片眉を吊り上げて風ちゃんを睨むと素早く相手の袖を摑まえてしまいました、こほんと咳払い。
「さっきこの子が生んだ世界はトリックでもなんでも無い、本物だよ。しかも範囲をあんなに精密に区切っての天地創造ってなると、並のそれよりもずっと力量の要ること」
えーとぉ。天地創造という営為の何をもって並とするか上とするか、凡俗にはいまいち理解し難いのですが。
「ん? 並ってのはみんなが良く知ってる天地創造だよ。虚無茫漠に天地創れなんてちまちまやってちゃ宇宙が熱的死を迎えちゃうもの、もう適当にどばーって各要素ぶちまけてね。要は規模がでかいってだけで、仕事としてはもうやっつけ」
…この世界に生きとし生けるものの一員としては、割と聞き捨てならないことを聞いた気がしますヨ?
「結果オーライってね。それをあの小スケール・精緻な仕事で天地創造…女蚊、恐ろしい子…」
あなた方古い神々の仕事が新参者手製のミニチュアより雑らしいって事の方が、よっぽど心胆寒からしめる事実のように思えるのですがどうでしょう。




