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第72回(家=国家=小宇宙の神話以前・その24)

「やっとエレナさんが来たと思ったら、今度は風太とリンちゃんが行方不明か。これじゃいつまで経っても会議とやらが始まらないな」

「ん? 風ちゃんたちいないの?」

 軽く溜息をついた姐御さんに向かって、女神様はちょっと意外そうに聞きます。仙境に豪遊しすぎて、一番遅くなったって自覚はあるようですネ。

「あの魔性の小娘は知らないけど、風太はお花摘みだってさ」

「それっていつの話?」

「二人とも、エレナさんが火の玉神輿になってここに来る前に出てったよ」

「じゃあ変だよ、エレちゃんだっておトイレ使ってたんだから、少なくとも風ちゃんにはどこかで会わないと。そうそう、酷いんだよ。用を済ませて廊下に出て、爽快感に浸ってたらあのわっしょいに捕まったんだから。またきゅって来ちゃったよ」

 …なんで風ちゃんは包み隠し、女神様は開けっぴろげなんでしょう。

「むぅ。じゃあ二人とも、何処に行ったんだ?」

 姐御さんの眉間に再び縦皺が刻まれると、狙い澄ましたようにぶーぶー鳴る音があります、さっき使ってテーブルの上に放っておいた姐御さんのケータイです。じろっと一睨みする間の後、姐御さんは手に取ってぱかっと開きました。またメールのようですね、読み始めます。読みます。読みます。読み続けます。…いや。あのう姐御さん、今度も代読したほうがよさげですか?

「…」

 ぎこちなくこちらに向けられるケータイの画面よりも、不自然に無表情な姐御さんの様子の方がよほど気になります、でも読むと言った以上は読まねばね、あ、女神様も液晶を覗き込んできました。好奇心は何を殺すんでしたっけ、いやいや、やっぱ単純に気になりますよね。さて、読み上げますよ…


 件名:風太です☆リンちゃんと二人っきりで自室なう


 ダンシ ソウロウナレドモ カリ タカシ

 ニイタカヤマ ノボルゥ⤴ ヒトバン マルハチ


「…一晩八回って風ちゃんがっつきすぎ。いくら速射砲でも、それじゃリンちゃんがもたないよ」

「あ、あ、あ、あの野郎。あ、あ、あ、あのベッドで。ここ小娘と、ごごごご休憩」

 妙に的確に暗号解読する女神様も、今じゃ完全に白目剝いて言霊も人魂も吐き出すような姐御さんも、まぁ落ち着いてよく見てみてご覧なさいな、ほらまたアドレスが

「ワタシダケセッシテモラサズ? イヤ、セッシモセズ。ソレイカナルイミヤ、ウラメシヤ。フウタ。フゥータ。フゥウウウウウウウタァアアアアアアア…アア…アア…ア…」

「わ。なんだよ、地獄の底から呼ばれたと思ったぞ。接して、なんだって?」

 そうなのです、風ちゃん今し方ひょっこり戻ってきて、もはや本職亡者の方がまだ人らしい、色々デトックスしすぎて短時間の内に変わり果てちゃった姐御さんとご対面、かつ生臭い声音にいきなり撫でられ、ぎょっと立ち竦んだのです。

「あっ…! てめぇ、やっぱ毒抜きしてやがったな…全身から清浄な湯気、香しいばかりに立ちのぼらせやがってぇ…」

「え? え?」

 容姿は風ちゃんを認めたとたん素に戻ったものの、今度は鬼女が乙女に見えるほどの鬼嫁ペルソナ、姐御さんは自分の背後・自身の頭よりも高い所に示したその人影、即ち右手に柄の長い箒・頭に2本の短い角・仁王立ち、という古風な殺気符号によって風ちゃんを圧倒します。ふむん、おいらたちは賢妻モード発動、無駄な血が流れる前に風ちゃんに口添えしましょうかね。あのね姐御さん、今は色々干渉のある心の目じゃなくて純粋な受像器官の方で風ちゃんを見てあげようよ、風ちゃん別にぽかぽかなんてさせてないよ?

「むっ…むむ…」

「その純粋な受像器官とやらだって、良くお見えじゃないんじゃないですか…?」

 不意に、言葉に詰まった姐御さんをからかうような、リンちゃんの声。

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