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第69回(家=国家=小宇宙の神話以前・その21)

 緊急家族会議の会場となった当家1階8畳の台所は既に詰めかけたメル変どものメル変いきれでむんむん、とうの昔に暖房が要らないどころかそろそろ窓でも開けて換気しないとえー皆様に電車の運行状況についてお知らせいたします、先程具合の悪くなったお客様がございましたためこの電車15分ほど遅れての運行となっております、お急ぎのところ大変申し訳ございません棒読みの程もお詫び申し上げます、却って苛々が募って気分悪くなりそうなんだけど、それでもなお “家族” は陸続と詰めかける一方でありまして、もう続きの6畳間は勿論廊下玄関お風呂場等も言うに及ばず、いやちょっと待て2階に定住してた連中も下りてきたにしたってこのメル変者密度はちょっと辻褄合わないというか折り畳まれていた次元がなんかの拍子にぱらっと開いて普段重なり合いながらも相互作用し得なかった高次元世界のメル変どもと今我々は邂逅を果たしているのやも知れぬ、それでなくったって台所とそれに続く居間は風ちゃんのお部屋などよりも固着生活者のコロニーが発達しやすい、そりゃ風ちゃんのお部屋で二人っきり、そんなお、お食事の風景に血圧上がらぬメル変っ子なんていやしません、でもいくらあの手この手とおいしくいただく過程から事後の睦言まで精密無比な脳内シミュレーションを尽くしたところでお腹は一向膨れませんむしろ頬がこけます、つまりですネ、コロニー成長が台所で優勢なのは例の風ちゃん由来のメル変っ子向けバランス栄養食に関係があるのですよ、そう今朝方も配給され、され、さっ、然れど我らが胃の腑には収まらず! ぐおお女神様いやさ神非神に対する思い出し殺意がっ! …! …! うぁ、空きっ腹で力んだら目眩きたぁにゃ、台所ではそれが毎朝ミキシングされ粉塵となって放散されている→大気が富栄養化される→微生物様メル変も大量発生する、とどのつまり理由はシチュエーションよりも食欲直結の直裁的、そんな訳でこと台所では微生物様メル変を食すコロニーも成長しやすいようなのです、実は台所の天井裏には光を好まないタイプの固着生活者コロニーがこれまた余所よりも密に発達しておりまして、これなどは火を使う場所で富栄養化大気も上昇しやすく継ぎ目から天井裏へそれが充分に供給されているからと考えられるでしょう、実際ここの天井って何層にも分厚くなったコロニーが乗って押し↓ぶら下がって引っ張り↓、結構たわんで隙間ありますし、それに加え四方の壁にもまぁりっぱに肥大したコロニーがどっしりと押し迫って、元より狭められているこの空間=台所にメル変どもがまだ陸続、陸続、うあうあ、空気薄っ、薄いっす。

「移動させるのが難しいって以前に、この数をどうするつもりだったんだ…」

 おや姐御さん、頭抱えちゃって。お探しの物がコンビニで見付からなかったのならそのう、女神様かリンちゃんに相談してみるのも手なのでは。お見受けしたところサイズはそう変わらないみたいだし、何よりも当家の中では同じ人様の♀だし。

「なっ! なんでコンビニ行ったって知ってるんだよ、また君たちにも分からないよう、本格以上の密室にもしれっと出入りできる、さっきと同じコツを使ったのに」

 声を潜めて詰問してくる姐御さんにボクたちは泣きたいやら呆れたいやら、あーそーだったですか、でも行って帰ってきたはともかくシャワー使ってたのは知ってるんだからそこで当然のように推測してしまったですよ、すんすん、むむぅ、女子力風雲昇り龍。風ちゃんをたぶらかすのに生体由来じゃダメだったから今度は人工的芳香でってことなのかしら、でもボクたちの言葉がある限り暴かれぬ陰謀は

「(ry」

 武士の情けで同場面の別解釈を試みて差し上げてもよろしくってよ。こほん。おや姐御さん、頭抱えちゃって。酸素が入り用なら後ろの窓をもっと大きく、遠慮なさらずに開け放っていただければ。

「あー…余所よりも立派だとかいうコロニーがそもそも邪魔で、これ以上開かないよ」

 伴う開閉・激しい温度差・降り注ぐ紫外線などなど、窓上の住むには不利な諸要因よりもコロニーの成長圧の方が勝ってるってことなんでしょうね。当家余所よりもグレイトと言うは、それもまた由。

「はぁ…ま、話がそう転がったのなら聞いとくかな」

 何をでしょう? 腕組みをした姐御さんは壁に目を走らせています、ぐるっと一巡すると再びボクたちを見据えました。

「この台所さ、随分様子が違ってないか? 私が最初ここに居た時よりも」

 えー姐御さんなんで睨むのー、自分が気付かなかっただけでしょー。

「嘘つけ。君たちが『語らなかった』からなんだろ」

 てへぺろ。いやいや、ボクらの “語らず” が事物の “存在せず” を保証するなんてそぉんなことはございませんよ、ボクらには見慣れた取るに足らない何か、例えば当家台所の景色だっていつでもそこに実存し。てへぺろ。

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