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第64回(家=国家=小宇宙の神話以前・その16)

 姐御さんの口許がたどたどしく動いたようなのですが呼びかけに応じてだったのかは良く分かりません、一方で姐御さんはゆっくりと右手を差し出していきます、風ちゃん思わずそれを握った、真意や如何に? 返して姐御さんの目を覗き込みます。だけど姐御さんはその問い掛けを受け止めようとしません、握り返す手に力を込める・頭を上げる、悲しげに自身全ての力を見失う、その動作を繰り返すのです。起き上がりたいんじゃね? 風ちゃんとボクたちは同時にその事に思い至りました、ぅあっ、そ、それって愛、うほっ。いや待て! 悟った風ちゃんは横たわる姐御さんの首の下に右手を差し入れ、肩を支えて起こしてあげましたそれ人道。けれど姐御さんはそのまま風ちゃんに体重を預け切っちゃった・両手をしっかり背に回しちゃった・風ちゃんの胸元に擦り付ける鼻の頭は苦しげではなく甘えてます・トドメは至福にわななきつつ長く熱い溜息を風ちゃんの腕の中で。してこちらはなんの道。はっはっ、獣道。いや、道腐み誤りてそも道無きを。うふふ。

「お、お嬢様。やはりお加減が優れませんでしょうか」

 風ちゃんもなに動揺してんの。

「…うっ…っ…っく…」

 姐御さん、風ちゃんの心配には首を左右に振って、しかし喉からは嗚咽を、我らがつまの胸にう、埋めやがるその顔、今は我らが夫の視線から逃れたいがためにそうするようです、急に漏らし始めたのでした。風ちゃんはあっとなって姐御さんを再び横たえようとします、察した姐御さんは今度はいやいやするように首を振りいよいよ我らが夫にむ、む、むっくっ。ピッ。ケツアツキュウジョウショウ・キンキュウケンサイモードヘイコウ・アワセテレイセイサモカイフク。ピッ。女は我らが夫にむしゃぶりついた。ちゅぱっちゅぱっちゅぽんっ。

「冷静、かつ渋い声で妙な擬音を捏造してるんじゃぬぇ!!」

 と怒って風ちゃんまたまたあっとなった、むしゃぶりつく女、もとい必死にしがみつく様子の姐御さんが、その怒声に打たれたように身を縮めたかと思うと、

「ごめんなさい…ごめんなさい…」

 何故か謝罪を、見捨てられるのも、惨めな思いをするのも、全て自分のせいと思うしかないまったく寄る辺なき人のよう、激しく身を震わせながら繰り返し始めたのです。ねぇ風ちゃん、これやっぱり。

「ああ、何処か悪いんだな。よし姐御、医者へ行こう」

「違う、違うの…」

 姐御さんは両手で風ちゃんの胸を軽く押し返します、そうすることで自分を立ち上がらせようと腰を浮かしかけた相手を押し止め、同時に体を離そうとしました。風ちゃんは拘束を緩めるしかありません、これで姐御さんは自由に、大義そうにしながらも体を大きく動かせて、もどかしさがいよいよ熟成しそうになった頃です、ようやくぺたんと座った格好で風ちゃんと向き合いました。風ちゃんと目を合わせます。いや、濡れた頬を罪深く思うかのように、直ぐに俯いてしまいました。

「…ごめんなさい…」

「いや、そもそも姐御は悪くないんだし…」

「…」

 姐御さんは無言で俯かせた顔を横に振ります。なにやら反省ばかりの姐御さん、それに当惑顔の風ちゃん。これじゃらち明かないよ。

「そうだな、大事なのは姐御の体だ」

 うんうん…って、姐御さん。今びくってしなかった?

「姐御、正直に言ってよ。気分はどう?」

 ぼっ。あれ、このなんでも無い質問に、姐御さんいきなり真っ赤になって更に小さくなっちゃった。もじもじ、そわそわ、ちらちら、やがて意を決したように言うのは、

「…だから…ごめんって…」

「いや、だからなんで謝るの?」

 殆ど涙声の返答に驚き、ただ困惑して風ちゃんは聞いただけなのです。そしてもっと驚かされた、姐御さんは鋭い、耳にした方が身を竦ませるほどの音を立て、その問いに息を呑んだのです。もじもじもじそわそわそわちらちらちら、相手の尋常ならざる落ち着きの無さにこちらも息を呑んで成り行きを見守るしかありません。や。ぐぬ。おお。姐御さん遂に顔を上げました、けれど顔色は一転して蒼白、今にも目を剥きそうで。ちょっとまたですかい、風ちゃんも慌てて身を乗り出す、いや姐御さんがなんか呟いた・風ちゃん中腰の急制動・そしてこちらも見る見る顔色悪く。腰に手をやって固まった。

「…っちゃったからっ…いくなって言われたのに…だ、だからごめんて…ばか…」

「痛ぅ~…え?」

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